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2年目を迎えたWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)では、三菱重工浦和レッズレディースが初優勝を決めた
開幕から圧倒的な強さを発揮した浦和は、昨年12月11日の第6節でINAC神戸レオネッサのカウンター攻撃に屈したものの、その後は日テレ・東京ヴェルディベレーザと引き分けただけで連勝を続け、5月14日のアウェーでのI神戸戦ではリベンジを果たし、5月27日の第20節でAC長野パルセイロ・レディース相手に勝利すれば優勝決定となるはずだった。ところが、ここでまさかの敗戦。優勝決定は持ち越しとなった。
そして迎えた6月3日の第21節。ホーム浦和駒場スタジアムで行われた大宮アルディージャVENTUSとの“埼玉ダービー”が優勝を懸けた一戦となった。
台風2号の影響で東日本は当日朝まで大雨に見舞われていたものの、14時の試合開始の頃にはすっかり晴れ間が広がり、駒場には4905名の観客が詰めかけた。
そして、浦和は大宮に4対0で勝利して多くのサポーターの前で優勝を決めた。
「優勝決定」を見ようと長野まで駆け付けたサポーターには気の毒だったが、長野でのよもやの敗戦のおかげでホーム駒場で優勝決定の瞬間を迎えられたのだから、これはいわば“ケガの功名”だったのかもしれない。浦和の優勝はWEリーグでは「初」。トップリーグでの優勝としてはWEリーグ結成直前の2020年「なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)」以来3年ぶり4度目ということになる。
単に優勝を決めただけではない。優勝が懸かった大宮とのダービーマッチは、浦和にとって今シーズン最高のパフォーマンス。試合開始直後から浦和が完全にコントロールして、前半のうちに2点を奪うと、後半にさらに2点を追加しての完勝だった。
立ち上がりからチャンスを作っていた浦和だが、フィニッシュ段階のパスがズレたり、シュートが枠を捉えきれなかったりでなかなか得点が生まれなかったが、24分に左サイドでサイドハーフ(SH)の島田芽依にサイドバック(SB)の水谷有希、そしてトップ下の猶本光などが絡んでチャンスを作り、一度は跳ね返されたもののすぐに奪い返して、最後は猶本がファーサイドを狙ったシュートを決めて先制。前半終了間際はには右SBの遠藤優がトップの菅澤優衣香に当て、菅澤がヒールで落とすと、ボールを受けた島田が落ち着いて決めて貴重な追加点を決めた。
最近の浦和は前線の誰もがシュートを決められるようになってきている。そして、菅澤も自らの得点にこだわらずにポストプレーで味方のシュートチャンスを作る役割をこなしているが、その形が結実したのがこの2点目だった。
そして、後半には60分、77分にともに清家貴子が決めて大宮を突き放した。
60分のゴールは中盤で相手ボールを奪っての得点なので、直接的には大宮のミスによるものだが、ミスを誘発したのは浦和の前からのプレッシングによるものだった。
大宮が浦和側から見て右サイドでなんとかパスをつないだのだが、複数の浦和の選手が取り囲んでプレスをかけてパスコースを限定。なんとかつないだものの、パスを受けた大宮のMFにはスペースがなく、そのボールをバックパスしようとしたところを見逃さずに清家が俊足を生かしてカットしたのだ。
味方がしっかりと組織的にプレスをかけたので、清家にはパスのコースが見えていたのだろう。
この試合を通じて、浦和が前線からプレスをかけて相手のパスコースを限定して、中盤の高い位置でボールを奪って攻撃につなげるという場面も何度かあった。
「どこでプレスをかけ、どこでボールを奪うのか」という意識が選手たちの間で共有できていたからこその守備だ。
1人の選手が個人的にプレスをかけるのではなく、連携してプレスをかけて最後に狙い通りのポイントで奪い取る……。強い時の川崎フロンターレの試合でもよく見られた光景だった。
現在の「強い川崎」のベースを作った風間八宏前監督は、そういった場面について「目がそろっている」という表現をしたものだ。全員が同じビジョンを持ってプレーしているからこその守備であり、また奪い返してからの攻撃なのである。
浦和レッズレディースというチームはもともとレベルの高い、個性に溢れる選手たちの集まりだった。
ワントップには国内ではトップレベルのフィジカルの強さで勝負でき、ボールを収めることができる菅澤がおり、トップ下には精力的に動いて精密なパスを繰り出す猶本がいる。
もともとFWで一時はSBとして起用されることが多かった清家は、今シーズンはSH、あるいはFWとしてプレーして、そのスピードとフィジカルの強さを見せている。
中盤のどこでもできる塩越柚歩はサイズを生かしてスケール感の大きなプレーが魅力だし、不動のボランチとして浦和の中盤を支え続けてきたキャプテンの柴田華絵はまさにいぶし銀。派手なスルーパスを出すことはないが、相手の攻撃を読み切ってピンチを未然に防ぎ、また長短のシンプルなパスを使って攻撃のリズムを整える。そう、男子日本代表で長く活躍した遠藤保仁のようなプレーヤーだ。
今シーズンは、DFの南萌華が開幕前に海外(ASローマ)に移籍してCBに不安があった浦和だが、19歳の石川璃音が安定したプレーを見せ、そして、40歳の大ベテランで本来は俊足FWだった安藤梢が初めてCBというポジションに挑戦して見事なプレーでCBという重要なポジションを埋めた。安藤は、優勝が決まった大宮戦でもフル出場し、終盤の88分に大宮がサイド攻撃からビッグチャンスを作りかけた場面でも、タッチライン際までカバーして見事なスライディングでピンチを防いで見せた。
シーズン開幕当初は、昨年までと同様にこうした各選手の「個の力」で相手を圧倒するような試合が多かったのだが、優勝を決めた大宮戦では「目がそろった」プレーで完勝。チームとしてのまとまりが感じられた。
試合後のフラッシュインタビューで楠瀬直樹監督は「大人の選手たちが自分たちで作ったチームだ」という趣旨の発言をしていたが、サッカーという競技を追求するベテランの安藤や中堅の柴田、猶本らを中心にチームが熟成してきていることを強く感じさせる大宮戦だった。
アジア・サッカー連盟(AFC)は2023年から女子のチャンピオンズリーグ(ACL)を創設すると発表したことがある。まだ、開催は本決まりになってはいないが、もし今シーズンから女子ACLが発足するとしたら、浦和レッズレディースは有力な優勝候補となるはずだ。
そして、もし、浦和レディースが女子ACLで優勝できたとしたら、浦和レッズは男女のACLタイトルを同時に保持するという、とんでもない記録を達成することになるのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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