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サッカー フットサル コラム 2023年4月27日

Jリーグの秋春制移行論が再燃 「ACLの日程変更」は強引すぎる理由付け

後藤健生コラム by 後藤 健生
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Jリーグは4月25日の理事会の後、「秋春制への移行」について年内に結論を出すと発表した。

Jリーグは30年前の開幕以来、一貫して2月から3月に開幕して12月に閉幕するいわゆる「春秋制」を採用してきた。それを、7月末から8月初めに開幕して5月末から6月初めに閉幕する新しいシーズン制に移行しようというのである。

秋春制のメリットとは何か? それは、要するに海外の(ヨーロッパの)主要国のシーズンに合わせた方が日本サッカーの発展のためになるという一点に尽きる。

サッカー=フットボールというのは、もともとは冬のスポーツだった。

イングランドにおけるサッカーの原型は「フットボール」と呼ばれる民衆の遊びだった。ほとんどルールらしいルールもなく、ボールを相手陣内に運び込むというもの。数十人、数百人がくんずほぐれつの争いを一日中繰り広げる、かなり乱暴な遊びだった。大勢のケガ人が出ることが普通で、時には死者も出た。

近代的なフットボールと区別するために、これを大衆のフットボールという意味で「モブ・フットボール」と呼ぶ。

そして、それはキリスト教の祝祭日に合わせて行われた。いずれにしても、冬の寒い時期の遊び=祭りだった。

そのフットボールが19世紀に入るころから学校教育に取り入れられ、明文化されたルールが作られて近代フットボールとして整備され、最終的にはアソシエーション(協会)式フットボールとラグビー式フットボールに分かれていく。現在のサッカーとラグビーである。

近代フットボールが成立した19世紀の後半になっても、フットボールはやはり冬のスポーツだった。当時のイングランドでは夏はクリケット、冬はフットボールをするのが普通で、両方のスポーツで名を馳せる「二刀流」の選手がたくさんいた。

その後、プロ化されるとともにシーズンは長期化して、現在のような秋冬制になったのだが、それでもやはりヨーロッパのサッカーは冬が中心の日程になっているのだ。

冬の寒さが厳しいロシアや北欧諸国では春秋制が採用されていたが、そうした国々でも最近は次第に秋春制を採用する国が増えてきた。

日本とヨーロッパのシーズンがずれていると、日本人選手がヨーロッパに移籍する際に障害となる。Jリーグのシーズンを終えてから移籍すると、ヨーロッパのシーズンの最中にチームに加わるのでポジションを確保するのが難しい。逆に、ヨーロッパの新シーズンに合わせて移籍すると、Jリーグのシーズンの途中でチームを離れることになってしまうからだ。

それが日本人選手の海外移籍のネックになっていたのは確かなので、その点ではJリーグが秋冬制に移行することは大きなメリットになるだろう。

また、FIFAワールドカップは、ヨーロッパのシーズンが終了した後の6月から7月にかけて開催される(カタール開催だった2022年大会は現地の猛暑を避けるために例外的に11月から12月にかけて開かれた)。ヨーロッパのクラブ所属の選手は、シーズンを終えてから代表チームに合流するが、Jリーグの選手はシーズン中の中断に合わせてワールドカップを戦うことになる。

また、代表チームが活動する「インターナショナルマッチ・ウィーク」も、基本的にはヨーロッパ勢の都合に合わせて設定されるから、代表チームの強化のためにもヨーロッパのシーズンに合わせた方が好都合なのは間違いない。

一方で、日本国内の環境を考えれば、やはり春秋制の方が好都合だ。

日本では政府の会計年度も、学校の年度も4月から翌年3月ということになっている(会計年度が4月からに決まったのが何故なのかには諸説あってよく分からない)。

だから、大学リーグやJFLが秋春制を採用することは不可能だ。とすれば、国内的にはJリーグは春秋制である方が合理的ということになる。

また、冬場には日本では試合を開催することは難しいから、ロシアや北欧諸国で秋春制を実施している国のように長期間のウィンターブレークが必要となる。

日本の冬の気温は(北海道を除いて)北ヨーロッパに比べればそれほど寒くはないが、その代わり日本海側を中心に豪雪に見舞われる。

もし、屋内スタジアムが建設されたとしても、練習場などすべてを冬場も使用できるようにするのは容易なことではない。また、試合が開催されたとしても、豪雪で交通機関がストップすることがあれば、ファンやサポーターの来場や帰宅が困難になってしまう。

現在のJリーグでも、2月から3月初旬に開幕した直後には北海道や東北の豪雪地帯のチームはホームゲームが開催できず、九州などにキャンプを張ったまま開幕を迎える場合もある。

秋春制に移行するための最大の障害はこうした豪雪地帯のチームの処遇ということになる。

現実的に考えれば、現在のJリーグのシーズンオフと同じように12月から2月末までの約2か月にわたる長期のウィンターブレークを設けるしかないだろうが、そうなると1つのシーズンの中に非常に長いブレークが生じてしまい、「一つのシーズン」という感覚が持てなくなってしまう。

女子サッカーの初のプロリーグとして2021年に発足した「WEリーグ」は、Jリーグより一足先に秋春制でスタートした。だが、2022/23シーズンを例にとると、10月下旬に開幕したリーグは皇后杯全日本選手権や代表の活動などの影響で断続的に日程を消化し、1月8日、9日の第8節を最後にウィンターブレークに入り、3月5日の再開まで2か月もゲームがなくなってしまう。そのため、まるで3月にリーグ戦が開幕したような錯覚を覚えてしまうのだ。

僕は、WEリーグが人気低迷しているのは、秋春制実施のために長いウィンターブレークが存在するからであるような気がしている。

結論的に言えば対外的なことを考えれば、確かに秋春制移行には大きなメリットがある。だが、国内的な諸条件を考えれば、クラブ経営のためにもリーグの盛り上がりのためにも春秋制を維持すべきだ。

秋春制移行については、これまでも何度も議論されてきたが、そのたびに秋春制維持に落ち着いてきた経緯がある。大雑把に言えば、田嶋幸三会長など日本サッカー協会側は秋春制移行を主張するが、Jリーグは春秋制維持という立場だった。Jリーグが移行反対なのは、現場でクラブを運営している経営側の意見が反映されるからだろう。

今回、秋春制移行の議論が出てきた理由として「外部環境の変化」が上げられている。

具体的には「AFCチャンピオンズリーグ(ACL)が、2023/24シーズンから秋春制になるから」というのが、議論が蒸し返された理由のようだ。

これまで、ACLは日本や他の東アジア諸国と同じく春秋制で行われていたが、2023/24シーズンからは中東諸国のシーズン制に合わせて秋春制で行われるようになる。

従来のシーズン制だと、中東諸国のチームは春に行われるグループリーグを終えてからシーズンオフに入り、秋に入って新監督の下で新チームに切り替えてからノックアウト・ステージを戦うことになった。だが、ACLが秋春制に移行すれば、逆に東アジア諸国の方がチーム運営が難しくなってしまう。

だから、今再びJリーグの秋春制移行を検討しようというのである。

しかし、ACLはそれほど重要なイシューなのだろうか? ACLに出場するのは来シーズンから3チームになる。もちろん、各クラブともACL優勝を目標に掲げるが、リーグ戦優先のターンオーバーをするチームもある。準決勝、決勝に進出すれば、それはビッグイベントになるが、グループリーグでは観客もあまり集まらないのが現状だ。ヨーロッパのチャンピオンズリーグのように、出場することでクラブの財政が潤うことはないどころか、かなりの負担になってしまう。

だから、「ACLのため」に秋春制に移行するというのは論理的に無理があるような気がする。秋春制を主張するのであれば、「ACLのため」などという詭弁は使わずに、やはりヨーロッパ諸国のシーズン制に合わせることのメリットを考慮すべきではないだろうか。

「『外部環境』がどうのこうの」ではなく、純粋にJリーグの繁栄、日本サッカーの発展にとってどちらが相応しいのかという視点で論議を進めてもらいたいものである。

2023-24年からのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)の9月開幕への移行などに伴い、検討を再開。7月末〜8月初旬に開幕し、5月末〜6月初旬に閉幕する案で、最短で26-27年から移行する方針。各クラブへのアンケートなどを通じて競技やビジネス面の利点、欠点を検証中。夏以降に議論を深めて理事会で結論を出す。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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