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4月23日のJ1リーグ第9節、川崎フロンターレ対浦和レッズの試合は実に激しいハイレベルの攻防が堪能できた。あれだけ激しい試合でイエローカードが1枚も出なかったことも特筆すべきだろう。
浦和は、マチェイ・スコルジャ監督の下で急激にチームがまとまってきていた。
大量点を取るような試合はないが安定度が高い……。それが今年の浦和レッズだ。とくに4月29日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝のファーストレグ、アウェーでのアルヒラル戦を控えているだけに守備意識は研ぎ澄まされていた。
一方の川崎は前節まで2勝2分4敗の13位と苦しみぬいていた。過去6年間で4度も優勝を飾っている「常勝軍団」とは思えないような姿だ。
そんな川崎が、前週のミッドウィークのルヴァンカップの清水エスパルス戦でホーム初勝利、しかも6点という大量得点での勝利を収めた。その直後の試合だった。
キックオフ直後に川崎が右サイドバックの山根視来がスペースにボールを入れて家長昭博が呼応してチャンスを作り、6分には浦和が左サイドのスローインから右サイドにつないで最後は興梠慎三のヘディング……。互いに攻め合う姿勢を見せた立ち上がりだった。
だが、前半はそれ以上に両チームの守備意識の鷹さが目立つ展開だった。
ボールを持った選手はすぐに相手に取り囲まれ、プレスをかけて相手のパスのカットを狙う。従って、チャンスは主に相手のプレスを回避したロングボールからか、高い位置でボールを奪ってからのカウンターから生まれた。
こうしてスコアレスのまま迎えた後半の立ち上がりにゲームが動いた。
川崎が右サイドのスローインから素早くつなぐと浦和のプレッシングが緩くなり、家長がDFマリウス・ホイブラーテンとの1対1の勝負に勝ってペナルティーエリア内に進入。家長のクロスに脇坂泰斗が合わせて川崎が先制した。
その後、1点をリードした川崎は慎重になりすぎて前からのプレスが弱まり、浦和の攻撃を引き込んでしまった。強い時の川崎だったら2点目、3点目を奪いに行ったはずだが、最近の不調のせいで「この1点を大事にしよう」という気持ちが生じてしまったのだろう。
リードされた浦和は次第に攻撃のギアを上げていく。
前半からの激しい攻防で選手たちに疲労がたまりはじめた73分、川崎の鬼木達監督が3人を同時交代。浦和のスコルジャ監督も、川崎と同時にストライカーのブライアン・リンセンを投入。さらに80分に3人同時交代のカードを切った。
この交代でゲームのリズムが変わった。直後の81分、交代で入ったばかりの17歳、早川隼平が川崎の分厚い守備をかわして左サイドで荻原拓也につなぎ、荻原のパスを受けたリンセンが同点ゴールを決めた。
その後も浦和がチャンスを何度かつかんだが、結局、そのままゲームは動かず、試合は1対1の同点で引き分けに終わった。
川崎にとってはまたもホームでの勝利をつかめず、しかも押し込まれる時間が長くなってしまった。しかし、僕は川崎がこれまでにないような戦い方をしたことに注目した。
特筆されるべきは激しい守備の姿勢だ。相手ボールを奪うために前線から激しくプレッシングをかけ、切り替えを速くして、奪ったボールを素早くつないで一気に攻撃に移る。
当たり前と言えば当たり前のことだ。だが、川崎にとってはこれは新しいやり方と言ってもいい。
2012年に川崎の監督に就任した風間八宏監督はゆっくりとパスをつなぐ独特のサッカーをチームに落とし込んだ。
走らなくても、ボールを少し動かすだけ、体の角度を少し変えるだけでも相手のマークを外してパスをつなぐことはできる。それが、風間のサッカー観だ。
2017年に鬼木監督が就任すると、相手の裏を衝くスルーパスやロングボールによる攻撃も取り入れてついに悲願のリーグ優勝を遂げ、「常勝軍団」が出来上がったのだが、いずれにしても風間監督が作り上げたパス・サッカーが川崎のベースだった。
川崎の時代、あるいはポゼッション・サッカーの時代は昨年まで続いた。
2022年シーズンは主力選手の相次ぐ流出とケガ人の増加で苦しみぬいたものの、それでも川崎は粘り強く戦って準優勝。今シーズンの巻き返しが注目されていた。
だが、今シーズンに入ってJリーグのサッカーは大きく変わった。カウンター型のチームが台頭したのだ。
前線からのプレッシングでボールを奪って一気に攻めるカウンタープレスを取り入れたヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島が上位に進出。相手を自陣まで引き入れて深い位置でボールを奪ってロングカウンターをしかける名古屋グランパス。今シーズンの序盤は、こうしたカウンター型のチームが上位を占めた(ちなみにJ2リーグでも堅守速攻型の町田ゼルビアや東京ヴェルディ、ブラウブリッツ秋田が上位に付けている)。
川崎のような、奇麗にパスをつなぐチームは、むしろカウンター型のチームを相手にすると狙いどころがはっきりしてしまう。川崎のパス回しが狙われてしまうのだ。
川崎としても巻き返しを図るために、何かを変えざるを得ないはずだ。
そこで、この浦和戦ではまず今までにないような激しい球際の攻防を演じた。
もちろん、川崎の全盛時代にもハイプレスは目立っていた。しかし、あの時代の川崎のハイプレスは余裕のある中でのプレス。プレッシングによって相手のミスを誘発してゴールを奪うためのものだった。だが、浦和戦で見せたのは、本当に互角のボールを奪うための激しい球際の闘いだった。そして、奪ったボールをつないで相手のプレスをかいくぐって攻撃につなげるために、パススピードを上げる意識も高かった。
「ポゼッション・サッカーからカウンタープレス型へ」というのは、ヨーロッパが辿ってきた道だ。FCバルセロナの全盛時代には「ティキタカ」が永遠の真理であるかのように「礼賛されたが、その後は次第にカウンタープレスが主流となっていった。
そうした中で、ポゼッション志向のチームがどのように相手のプレッシングをかわすれ形を作れるのか。それが、今後の世界のサッカーの一大テーマとなってくることだろう(たとえば、三笘薫が在籍するブライトンのやり方もそうした工夫の一つだ)。
いずれにしても、カウンター・サッカーに対抗するために川崎がこれからどのように変化/進化していくのか、それも今シーズンのJ1リーグの大きな見どころとなるだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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