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J2リーグで7戦未勝利(5分2敗)の19位と低迷する清水エスパルスのゼ・リカルド監督が解任され、秋葉忠宏ヘッドコーチの昇格が発表された。
昨年、“まさかのJ2陥落”となった清水だったが、シーズンの後半はチーム力向上の兆しも見せており、またカタール・ワールドカップで日本代表の正GKを務めた権田修一や昨年のJ1得点王チアゴ・サンタナも残留しただけに、清水のJ2優勝、そして1年でのJ1復帰を予想した人も多いはずだ(僕自身も、そう思っていた)。
その清水が、7戦終了時点で未勝利という信じがたい成績で19位に低迷していたのだから、監督解任も当然の結果だろう。ザスパ群馬や水戸ホーリーホックで監督を務め、また年代別日本代表コーチも歴任した“闘将”秋葉新監督がチームを立て直せるのか?
幸い、まだシーズンは始まったばかり。まだ35試合も残っているのだから、巻き返しは十分に可能だろう。
「意外な低迷」は清水だけではない。同じ静岡のライバル、ジュビロ磐田やベガルタ仙台などJ1経験の長い有名クラブの多くがスタートで躓いた。
そんな中で好スタートを切って首位を走っているのがFC町田ゼルビアだ。
青森山田高校を率いて高校サッカーの世界で頂点を極めた黒田剛監督を迎え、さらにファジアーノ岡山からオーストラリア代表のミッチェル・デュークを補強するなど、今シーズンは強化にも力を入れていた。
その町田は開幕戦で仙台と引き分けたものの、その後は破竹の6連勝を記録。7試合終了時点で勝点19と絶好調だ。そして、その町田を勝点3差で追うのが東京Vと大分トリニータという構図になっている。
首位を争っている町田と2位の東京Vは、7試合を終了してともに失点がわずかに1となっている。守備力を武器に効率的な勝利を重ねているのである。
4月に入って最初の週末となったJ2リーグ第7節でも、町田と東京Vは持ち味の守備力を武器にともに1対0、「ウノゼロ」の勝利で勝点を3ずつ伸ばすことに成功した。
東京Vは大宮アルディージャと対戦した。
前半は開始直後から積極的な姿勢を見せた大宮がサイド攻撃をしかけ、サイドバックからクロスを入れて東京Vを自陣に押し込めることに成功した。相馬直樹監督らしい“愚直な”攻撃だった。
押し込まれた東京Vは、時間の経過とともに前線からの守備で次第に大宮の攻撃を封じルことに成功。30分過ぎになってようやく反撃の糸口を作れるようになり、後半は右サイドにバスケス・バイロンを投入する。
キープ力があってドリブルでボールを運べるバスケス・バイロンの推進力を使って、東京Vは右サイドに橋頭保を構築。65分には、バスケス・バイロンが戻したボールを右サイドバックの宮原和也が大きなクロスを入れ、ファーサイドから攻め上がった左サイドバックの深澤大輝がDFの後ろからジャンプして頭でねじ込んで先制した。
大宮の相馬監督がフレッシュな選手を入れようと交代の準備をしていた矢先のゴールだったので、大宮にとっては大きなダメージとなった。
その後、大宮が同点を狙って攻撃に出たが、前半ほどのパワーは残っておらず、東京Vは前線からの守備で大宮を封じ込めて勝利を手繰り寄せた。
その翌日には、首位の町田は昇格組ながら3勝3敗と健闘している藤枝MYFCを迎え撃った。そして、開始からわずか5分で町田が先制した。
左からのロングボールに藤枝のGKと町田のFWが競り合ってこぼれたボールをデュークが決めたものだった。
町田のツートップはオーストラリア代表のデュークと2019年には横浜F・マリノスの優勝に貢献したエリキが組んでいる。かなりの強力ツートップと言えるだろう。
もっとも、デュークは6試合目で決めたこのゴールが今季初得点。第6節までのチームの総得点は11、つまり1試合平均で2.0以下となっているのだ。トップの選手の顔ぶれを考えれば、さらに得点力を上げることも可能なはずだし、優勝あるいはJ1昇格をつかみ取るにはそれが必須条件のようにも思える。
だが、今の町田は1点を守り切る現実的なサッカーで勝点を積み重ねているのだ。
町田が1点をリードした後は藤枝がボールを握り続け、ボランチの新井泰貴や杉田真彦が左右に散らして、右の久保藤次郎、左の榎本啓吾の両ウィングバックがドリブルで突破を試みて攻めに攻めた。
もちろん、守備に定評のある町田だけになかなか突破を許さず、藤枝に決定機は作らせなかった。「決定力」を含めて、そのあたりが両チームの実力差なのかもしれないが、藤枝のボールを動かして攻める姿勢には好感が持てた。
「攻撃サッカー」こそが、チームを率いる須藤大輔監督の哲学なのだろう。
一方の町田の黒田監督も「相手にボールを持たれたが決定機は作らせなかった」とかなり満足した表情だった。つまり、それが今シーズンの町田の哲学であり、また黒田監督にとっての“美学”なのだろう。
この数年、Jリーグのサッカーの技術的、戦術的レベルは急激に上がっている。J1リーグのタイトルをこの6年間独占してきた川崎フロンターレと横浜F・マリノスの攻撃サッカーに引っ張られる形で、他のクラブが対抗する形で全体のレベルが上がってきたのだ。
そして、そのJ1リーグのレベルアップに牽引される形でJ2上位陣のレベルも上がってきた。昨シーズンは、非常に良い内容のサッカーを見せたアルビレックス新潟と横浜FCが順当に昇格を決め、新潟は今シーズンのJ1リーグでも健闘を見せている(横浜FCは選手の多くを入れ替えた影響もあって出遅れているが、小川航基は得点王争いでトップにいる)。
そんな、J2リーグだったが、今シーズンは昨年とは打って変わって守備的な両チームが首位争いを演じているのだ。2部リーグの戦いというのは突き詰めて言えば昇格を目的として戦うリーグだ。つまり、まずは結果が優先される。従って、守備的な戦いをして「ウノゼロ」の勝利で勝点を積み重ねるというのは、非常に現実的な戦い方だとも言える。
果たして、今シーズンのJ2リーグでは、そうしたリアリズムのサッカーが成功するのか? それとも、攻撃サッカーを志向するチームが町田や東京Vの堅守を破ることに成功して巻き返すのか……。
町田や東京Vの堅い守備を粉砕するのが、巻き返しを図る清水であっても不思議ではないのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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