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新国立競技場
東京・国立競技場では森保一監督にとっての2期目の挑戦が始まった。
キリンチャレンジカップ初戦のウルグアイ戦は1対1のドロー。ディフェンス陣には新戦力が揃い、板倉滉が率いることになる守備陣はやや不安視されていたが、守備面では予想以上に安定していた。
前半の32分に攻撃に移ろうとしたところでボールを奪われ、クロスに対応したところでフェデリコ・バルベルデにシュートを撃たれた。シュートはポストに嫌われたものの、バルベルデ自身がすぐに反応して決めきった。
だが、その他の場面ではウルグアイに決定機を作らせず、日本に守備陣は最後まで粘り強く戦った。
一方、ワールドカップ組が勢ぞろいした攻撃陣は期待ほどは機能しなかった。個々の選手のコンディションも良くなさそうだったが、やはり足りなかったのは守備陣からのサポートだった。サイドバックがビルドアップに関わる回数が少なかったし、サイドバックとサイドハーフとの連携もまだ試行錯誤の段階。
たとえば冨安健洋からの正確なフィードとか、酒井宏樹や長友佑都のサポートなどがあれば、日本の攻撃はもっと活性化したはずだ。
もちろん、初めて組むディフェンス・ラインなのだ。初戦からそこまで期待することはできないのは当然のことである。時間をかけて、チームを完成させていってほしいものだ。
さて、そのウルグアイ戦から数時間後には、ドイツ・フランクフルトでU-22日本代表がU-23ドイツ代表に挑んだ(ドイツはオリンピック予選を兼ねて6月に開催されるUEFA U-21欧州選手権に出場するチーム。同大会は2年前の予選開始時に21歳以下だった選手による大会で、決勝大会には各国のU-23代表が出場する)。
結果は2対2の引き分けに終わったが、両チームの積極性が非常に目立つ試合だった。攻撃に物足りなさが残ったウルグアイ戦を見た直後だったからか、とてもポジティブな印象を受ける試合だった。
大岩剛監督就任から1年が経過。来年の初めに開催されるU-23アジアカップ(兼パリ・オリンピック予選)に向けて強化の最終段階に入った時期だけに、U-22日本代表は再スタートしたばかりの森保ジャパンに比べると完成度が一段高かった。
キリンチャレンジカップの日本代表には、パリ・オリンピック世代から久保建英、バングーナガンデ佳史扶、半田陸の3人が招集されていた。また、松木玖生は6月のU-2Oワールドカップまでは一つ下の世代のU-20代表に専念。さらに、ケガ人も相次いでおり、U-22日本代表はフルメンバーを組めない状況ながら(オリンピック・チームの強化にはいつでも付きまとう問題だ)、ドイツ相手にも立ち上がりから積極的にプレスをかけにいった。
しかし、やはりドイツ選手の能力は高かった。日本がプレスをかけても簡単にはボールを奪えなかったし、さらに会場となったPSDバンク・アレーナの芝生が非常に深くて柔らかいので、パスが通りにくくなってしまって日本はかなり苦しめられた。
そのため、ゲームはドイツに支配されてしまう。
9分には、ドイツのCFイェシック・ンガンカム(ヘルタ・ベルリン)がゴール正面で反転してシュートを放ったが、立ちはだかったのがGKの鈴木彩艶(浦和レッズ)だった。ンガンカムの強烈なシュートを弾くと、すぐに起き直ってフリーで詰めてきたファリデ・アリドウ(フランクフルト)のシュートを再びはじき返した。
その後も鈴木は再三にわたってスーパーセーブで日本を救い、またロングスローイングや正確なパントキックで攻撃の起点も作った。
ドイツの選手の前への推進力に直面してクリアするのが精一杯だった日本の選手たちも、時間とともに相手のやり方にもピッチ・コンディションにも慣れて、鈴木唯人(ストラスブール)や山本理仁(ガンバ大阪)のテクニックを生かしてシュートチャンスを作っていく。
しかし、39分にはペナルティーエリア内でDFの内野貴史(デュッセルドルフ)がンガンカムを倒してPKを与え、ンガンカム自身に決めれてしまったが、日本代表はそこで崩れることなく、すぐに反撃に移った。
そして、失点からわずか3分後には左CKからDFの西尾隆矢(セレッソ大阪)が頭ですらして、ファーサイドでフリーになっていた佐藤恵允(明治大学)が頭で決めて、1対1の同点として折り返したのだ。
さらに、後半キックオフから日本がいきなりロングボールを蹴り込むと、ハーフタイムに交代したばかりのドイツのDFシモン・アスタ(グロイター・フュルト)が弱いバックパス。すると、抜け目なくこれを狙っていた佐藤がカットし、佐藤からの優しいパスを中央に走り込んだ細谷真大が決めて、後半開始からわずか11秒で日本がリードしてしまった。
しかし、ドイツもすぐに反撃。バックパスのミスを犯したアスタが右から持ち込んでクロスを入れると、デニス・フセインバシッチ(ケルン)が決めて再び同点とする。
そして、その後は時間帯によってリズムを握ったり、攻撃にさらされたりしながらの攻防が続いたが、後半にもGKの鈴木がハイクロスに対する強さを見せ、結局、両チームに得点は生まれず、試合は2対2の引き分けに終わった。
日本代表は、昨年のワールドカップでドイツ代表を破っている。だが、あの試合は前半は完全にドイツに握られてPKで先制を許している。1点で終わったのは幸運でしかなかった。
「PKによる失点」と言う意味ではU-22代表の試合も同じような展開だったが、一方的に押し込まれたワールドカップでの試合と違って、日本は前半の途中からは互角の攻め合いを見せていたし、デザインされたセットプレーからすぐに追いつくこともできた。
守備面でも、引いてブロックを作るのではなく、チャンスがあると見れば積極的にラインブレークしてボールを奪いに行く積極性を見せ続けた。
相手がヨーロッパの強豪国ドイツであっても、また慣れないピッチ・コンディションであっても(かつては、「劣悪なピッチ・コンディション」が常に敗戦の言い訳になっていた)、まったく臆することなく勝利を目指して戦った若い世代の試合は非常に頼もしいものだった。
鈴木彩艶が順調に成長すれば、国際舞台での大きな課題だったGK問題も解決するだろう。「高さ」に対する恐怖感もなくなるはずだ。
昨年の秋にはスイス、イタリア、スペイン、ポルトガルとヨーロッパの強豪とアウェー4試合を戦った日本。スイスとポルトガルに勝利し、イタリアとは引き分けで、対ヨーロッパの成績はドイツ戦も含めて2勝2分1敗という戦績となった。
森保監督のフル代表は、今年も9月に海外遠征が予定されているが、他はすべて国内での強化試合となる。だが、強化のためには国外でのアウェーゲームの方がはるかに有効だ。強い相手とのマッチメークもできるし、相手もコンディションが良い状態で本気度も高くなる。そういう意味ではU-22日本代表は素晴らしい経験を積み重ねているのだ。3月27日(日本時間28日)には、強豪ベルギーとやはりアウェーで対戦する。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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