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WEリーグの2022/23シーズンは3月19日の試合で第11節を終了。日程のちょうど半分を消化した(第7節の延期分、サンフレッチェレジーナ対アルビレックス新潟レディースは3月21日に開催)。
そして、「前期」最終節には日テレ・東京ヴェルディベレーザ対INAC神戸レオネッサという好カードがあった。しかも、雲一つない快晴という好天に恵まれたにも関わらず、東京・味の素フィールド西が丘に詰めかけた観衆はわずか1777人……。これが、今のWEリーグの現状である。
WEリーグ初年度に初代女王に輝いたのがI神戸。一方、ベレーザは日本の女子サッカー史を常にリードしてきたものの、WEリーグ発足後はタイトルに見放されていた。今シーズンもベレーザは第10節終了時点で6勝1分2敗で3位に甘んじていた。
だが、1月に行われた皇后杯全日本女子選手権決勝ではI神戸を4対0で撃破して優勝。リーグ戦でも巻き返しが期待されていた。逆転優勝を狙うには、皇后杯決勝に続いて首位に立つI神戸を破って勢いに乗りたいところだ。
ベレーザの竹本一彦監督は「シックス・ポインターだった」と語ったが、それ以上の重要度のある試合だった。一方のI神戸にしてみれば、0対4という屈辱的なスコアで敗れた皇后杯の借りを返す必要のある試合となる。
試合は、予想通り、互いの意地がぶつかり合うかなり強度の高いものとなった。
試合の立ち上がりこそ、前線からプレスをかけてI神戸が何度かチャンスを作ったものの、10分を過ぎると次第にベレーザがボールを保持する時間が長くなって、30分以降は完全にベレーザがゲームを支配した。
皇后杯でのベレーザの優勝を中盤から支えたのが木下桃香だった。
積極果敢なパス出しでエースの植木理子の得点力を引き出し、今シーズン、得点力不足に悩んでいたベレーザを救った。
ところが、皇后杯終了後の2月にベレーザの中盤を長年支えてきた三浦成美がノースカロライナ・カレッジ(アメリカ)へ移籍。三浦がバランスをとって、守備面をカバーする中で攻撃の組み立てを行ってきた木下だが、三浦が不在となる中で守備の負担も増えることになる。
さらに、ベレーザは負傷者が多く、必ずしもベストの布陣とは言えず、木下の負担はさらに増した。
それでも、4-1-4-1のアンカーのポジションに入った木下はしっかり守備をしながら前線に好パスを供給し、安定したパフォーマンスを見せた。さらに、右サイドバックに入った宮川麻都が再三ボランチの位置まで進出してI神戸の攻撃の芽を摘んでチームに貢献していた。
こうして、パスをつなぎながら何度もチャンスを作ったベレーザだったが、結局ゴールネットを揺らすことなく前半を終了した。
I神戸は最終ラインが頑張って、よく耐えた。
I神戸には、2人の新戦力が加わっていた。ともに、セレッソ大阪レディースから期限付き移籍で加わったDFの筒井梨香と左ウィングバックの小山史乃観である。なでしこリーグの強豪、C大阪レディースは数多くの若手選手を育成してきた実績があるチームだが、いよいよ来季からのWEリーグ参入が決まった。そんな中で、敢えてこの2人を武者修行に出したのであろう(ちなみに、ベレーザ対I神戸の試合にはC大阪の森島寛晃社長も視察に訪れていた)。
その新戦力の筒井を中央に右に土光真代、左に三宅史織という代表クラスのDFを並べたI神戸のスリーバックは強力。トップに植木理子、シャドーに小林里歌子と藤野あおばという代表クラスを並べたベレーザの強力攻撃陣に突破を許さなかった。そして、中盤からトップに当ててくるパスに対して、土光や三宅がラインブレークしてチャンスの芽を摘み取り続けた。
しかし、ベレーザの強力な攻撃に耐え続けたものの、前半のI神戸はなかなか攻撃のチャンスを作ることができなかった。
I神戸の攻撃と言えば、両ウィングバックからのサイド攻撃である。
とくに、右サイドに入る守屋都弥は今シーズンに入って急成長した選手。3月の日本女子代表のアメリカ遠征(SheBilieves Cup)で代表にも初招集されたが、ケガのために離脱を余儀なくされた。そして、左サイドには昨年のU-20ワールドカップ準優勝メンバーの小山が加入したことで、I神戸のサイド攻撃は注目されていた。
だが、中盤をベレーザに制圧されてしまったことで、サイド攻撃も不発となってしまった。朴康造(パク・カンジョ)監督は、「中盤でボールを動かすことなく、すぐにサイドにボールを突っ込んでしまった」と表現したが、そうした状況になってしまったのは、ベレーザの中盤での激しいプレッシングでボールを落ち着かせることができなかったからだろう。
こうして、スコアレスのまま試合は後半に突入したが、後半の立ち上がりも前半と同様、ベレーザが押し込む形が続いた。だが、60分を過ぎるころからともに足が止まり始めて、ゲームの流れが変わってくる。同時に、I神戸はトップに高瀬愛実も投入して攻撃の厚みを増す。さらに、ハーフタイムに朴監督からの指示もあり、I神戸がうまくサイド攻撃を使うシーンも増えてくる。
流れは、大きく変わった。
63分に中盤で縦へのパスがつながって、そこから右サイドに開いて守屋がクロスを入れる場面があったが、その4分後、I神戸は再び右サイドから攻撃を展開。守屋のクロスは一度は跳ね返されてしまったが、再び守屋にボールが渡って、守屋からの速いクロスを入れると逆サイドから詰めてきた小山がヘディングで決めてI神戸が先制した。
なかなか形が作れなかったものの、結局、最終的に決めたのはやはり両サイドのウィングバックによる形だった。
I神戸の先制ゴールの後、71分にはベレーザの中盤で攻撃の起点を作っていた木下が筋肉系の故障のために交代を余儀なくされてしまう。だが、それでも長いパスを使って迫力ある攻撃を繰り返したベレーザは、植木のシュートによって獲得した右CKから宮川が決めて同点に追いついた。
こうして、90分間の激しい攻防を終えて、試合は1対1の引き分けに終わった。この結果、同時刻に行われた試合で勝利した三菱重工浦和レッドダイヤモンズレディースが首位に立って「前期」を折り返すことになったが、浦和とI神戸の勝点差はわずかに1ポイントの差。これからも、激しい試合が展開されることだろう。そして、それが日本の女子サッカーのさらなる飛躍につながるといいのだが……。
2022年10月に開幕した2シーズン目のWEリーグ。皇后杯や代表の活動のため中断期間も長かったが、「後期」に入るとほとんど中断なしに6月10日の最終節までの攻防が続く。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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