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J1リーグは開幕から第3節までが終了。昨年は苦しみ続けたヴィッセル神戸が3連勝。昨年王者の横浜F・マリノスが2勝1分の成績でこれを追っている。
一方、最近の6年間で4度の優勝を飾っている川崎フロンターレは開幕戦で横浜に敗れ、第3節では昨年のリーグ戦で連敗した“苦手”湘南ベルマーレと引き分けて、出遅れ気味だ。
川崎の苦戦の最大の原因は守備陣に相次ぐケガ人と退場者。
海外移籍で谷口彰悟が抜けて不安があったのに加えて、開幕直前に登里享平が負傷し、開幕戦では車屋紳太郎も負傷。しかも、ジェジエウが退場処分となり、さらに2戦目の鹿島アントラーズ戦では代役としてCBに入った山村和也も退場。第3節には戻ってきたジェジエウが負傷と、守備陣のやり繰りに四苦八苦することになった。
それに加えて、ワントップに入るべきレアンドロ・ダミアンや小林悠も開幕から欠場が続き、22歳の宮代大聖と山田新がトップで起用されているが、ともに川崎の育成組織出身の期待の若手とはいえ、トップを任されるのはまだいささか負担が大きいようだ。
王者、横浜を相手にもボールを持つ時間は長かった川崎だが、トップに預けて攻め上がることができないため、どうしても相手ゴールに近づく回数は減ってしまう。左サイドのマルシーニョのスピードは相手にとって脅威だが、やはり中央で決めるべき人がほしい。
トップにボールを収めて自らも得点を決める本格的なセンターフォワード(CF)がいると、攻撃の厚み、あるいは攻撃のバリエーションが増えるのは間違いない。
ボールを収められるCFの不在……。これは、日本サッカー全体の課題でもある。
昨年のワールドカップで、日本は前田大然や浅野拓磨といったスピードスターにトップを任せて結果を出した。だが、カウンター頼りのサッカーに限界も感じざるをえなかったのも事実。今後は強豪国相手にも互角に渡り合うような試合を期待したいものだが、そのためにはやはり前線でしっかりボールを収めて、自らが得点を決めきる本格的なCFがほしいのである。
そして、日本はそのCFの人材を欠いている。
半世紀以上前の1968年にメキシコ・オリンピックで銅メダルを獲得した時には釜本邦茂というワールドクラスのCFがいた。当時の日本代表は、親善試合でイングランドや西ドイツの一流クラブと対戦すると一方的に押し込まれる時間が長かったが、クリアしたボールが釜本までつながればタメを作れるので攻撃の形を作ることができた。
釜本が引退してからは、常に“第二の釜本”を追い求めながら、代役はとうとう見つからなかった。2010年のワールドカップの時には、岡田武史監督は本来MFである本田圭祐をトップで起用した。日本人選手の中で、相手と競り合いながらボールを収める力が最も高かったからだ。
そして、その後は大迫勇也がトップの役割を担ってきた。
現在の日本にはイングランドやドイツ、スペインのクラブで活躍する優れたMFやサイドアタッカーは何人もいる。信頼できるDFもいる。本当の強豪国にのし上がるために残された“ラストピース”は、CFとGKなのである。
そんな中で迎えた2023年のJリーグ。どうやら、若手FWが期待通りの活躍をしてくれているようだ。
第3節終了時点で3ゴールを奪ってランキングのトップに立っているのは横浜FCの小川航基。桐光学園高校時代からシュートのうまさでは群を抜く存在だった小川だが、プロ入り後は結果を出せないでいた。だが、昨年はJ2の横浜FCで得点能力を開花させ、26点を奪ってJ2得点王に輝いた。そして、今シーズンは昇格したJ1リーグでもその才能を発揮しているのだ。
昇格した横浜FCは多くの選手を入れ替えたため、まだコンビネーションが万全ではなく、パスがうまくつながらない場面も多いが、そんな中でも小川は得点を決めている(小川は25歳でもう「若手」という年齢ではないが、CFというのは比較的年齢が高い選手が活躍するポジションで、大器晩成型も多い)。
もう一人、今シーズン期待の若手FWと言えば、何と言っても湘南ベルマーレの町野修斗(23歳)だろう。昨年のワールドカップの日本代表にも追加招集され、カタール大会では出場機会こそ与えられなかったものの、海外組の日本代表とともにトレーニングを行い、また、世界各国のトップクラスのFWのプレーを間近で見てきた効果は大きかったようで、今シーズンは得点はまだ1点のみだが、スケールの大きな動きを見せている。
小川と町野が直接対決で顔を合わせた第2節の湘南対横浜FCの試合は、両者の活躍で引き締まったゲームになった。やはり、CFが強力な試合は魅力的だ。
この試合、キックオフからわずかに13秒ゴールを決めたのは横浜FCの小川だった。
バイタルエリアでボールが小川に渡ると、小川はしっかりとボールを収めて右に展開。ボールを混戦の中で戻ってきた小川が落ち着いて決めた。そのストライカーとしての才能を見せつけるに十分なプレーだった。
17分には湘南の町野がこちらもその才能を発揮して、同点ゴールを決めた。
開幕節でハットトリックを達成したツートップの相棒、大橋祐紀が頭で落としたボールを右足でコントロールしてからドリブルで切れ込んで左足を振り抜いて決めたのだ。
ダイナミックに動きながら、ボールをコントロールする技術こそが町野の特長と言えるだろう。
その後、湘南が逆転ゴールを決めたが、後半の83分に横浜FCが追いついた。左CKのボールをDFより頭一つ抜け出した高い打点のヘディングで決めたのは再び小川だった。町野のようなダイナミックな動きこそないものの、ゴール前で左右両足で、また頭でも正確にゴールの枠にボールを飛ばす技術こそが小川の最大の武器だ。
そのほか、パリ・オリンピックを目指すU-22日本代表のCFである柏レイソルの細谷真大も開幕から2戦連続でゴールを決めている。巧みな位置取りからタイミング良くラインの裏を取るのがうまいFWで、Jリーグでの2得点もその特長を発揮したものだった。
完全復活したベテラン大迫勇也(ヴィッセル神戸)を含めて、どうやら今シーズンは日本人のCFが高いレベルでの得点王争いをしてくれそうだ。「高いレベル」というのは、1試合1得点に近い数字のこと。昨年のJ1リーグ(全34試合)では清水エスパルスのチアゴ・サンタナが得点王を獲得したが、数字は14ゴール。試合数の半数以下では「得点王」というタイトルには相応しくない。
そんなことを考えていたら、ウズベキスタンで開幕したU-20アジアカップでFC東京の18歳、熊田直紀が2試合で3ゴールを決めた。しかも、中国戦の同点ゴールはフワッとしたロビングにタイミングを合わせた見事なヘディング。逆転弾はボレーシュートをブロックされた後、こぼれ球をコントロールしてからのテクニカルなゴール。そして、キルギス戦では30ヤードの豪快なミドルと得点パターンが多彩なのも素晴らしい。
またまた、新たなCF候補が現れたようだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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