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30シーズン目を迎えたJリーグ。金曜日のナイトゲームとして設定された開幕戦では昨年の優勝チーム横浜F・マリノスと最終節まで優勝を争った川崎フロンターレが対戦。直近の6シーズンは、すべてこの両チームがタイトルを独占。まさに「黄金カード」、「ナショナルダービー」だった。
ただ、開幕直後はどこのチームもまだ万全の出来ではないはずなので、開幕戦で当ててしまうにはちょっともったいないような気もしていた。
実際、両チームともまだ100%の出来ではなかった。
とくに、川崎はトップのレアンドロ・ダミアンと小林悠が欠場した影響が大きかった。
22歳の宮代大聖が先発し、同じ22歳の山田新が交代出場した。ともに川崎の下部組織出身の期待の若手だったが、横浜のDFの激しいチェックの前にボールを失う場面が多くなってしまった(宮代は前半にポスト直撃のシュートを放って見せ場は作ったが)。
しかし、新キャプテンの橘田健人、遠野大弥、脇坂泰斗の3人で構成した中盤では川崎が明らかに優位に立った。
高い位置からボールを奪いに来る横浜に対して、選手間の距離を短くして速いテンポでパスをまわすことでプレッシャーを回避。前後半ほとんどの時間帯、ボール保持率で大きく上回った。パス・スピードは昨シーズン以上のものがあったし、短いパスを回しながら相手守備ラインの裏を狙って俊足のマルシーニョを走らせてチャンスを作ることにも成功していた。
さらに後半には大島僚太やジョアン・シミッチも交代出場し、MFの層の厚さも示した。
川崎のMFは守備力でも横浜を上回った。ボールを失ってもすぐに奪い返すことに成功。守備の要だった谷口彰悟が海外移籍して不安視されていた守備陣も、中盤でしっかりスクリーンがかかっていたので大きな負担なく守ることができた(ただし、横浜戦では車谷紳太郎が筋肉系のトラブルで途中交代。ジェジエウが退場となったため、第2節の鹿島アントラーズ戦では不安を抱えることになるが……)。
ボールを握る時間が長くなったおかげで、両サイドバックは攻撃に力を注げた。
右の山根視来はタッチライン沿いだけでなく、ボランチの位置に入って攻撃を組み立てる時間が長かったし、左の佐々木旭は昨シーズンから大きく成長。横浜の水沼宏太と互角に渡り合っただけでなく、スルーパスを通してマルシーニョや遠野を走らせてチャンスを演出。後半のアディショナルタイムには、橘田のゴールをアシストした。
ボールを握ってパスを回して崩すサッカーを志向している川崎にとって、中盤で激しく仕掛けてくる横浜との対戦はうってつけの「試金石」だったが、この試合で中盤を支配できたことは大きな収穫だっはずだ。
試合に敗れはしたものの、試合後の記者会見で鬼木監督は「選手たちが“やってほしいプレー”をしてくれた」とポジティブな言葉を残した。
ただ、あれだけボールを握ってチャンスを作りながら、試合終了間際の1ゴールに留まったのは今後に向けた大きな課題。レアンドロ・ダミアンや小林悠が復帰し、開幕戦では時間制限付きで前半のみのプレーになった家長昭博がコンディションを上げてくれば解決できるのだろうが……。
一方、勝利した横浜にとっても大きな課題が突きつけられた試合だった。
「高い位置でボールを奪う」という本来のコンセプトをまったく実現できなかったからだ。中盤でのプレッシャーをはずされて、自陣深くで守備をする時間が長くなってしまった。
ただ、そんな想定外の(?)展開だったにも関わらず、選手たちは冷静に対処して川崎に多くの決定機を作らせず、しっかりと跳ね返し続けた。
ケガから復帰の松原健が後半途中で交代を余儀なくされたが、CBとして成長著しいの角田遼太郎がサイドに回ってからも十分にプレーできることを証明。先週のフジフイルム・スーパーカップでやはりCBが本職の上島拓巳がSBとして卒なくプレーできていたし、今シーズンの横浜は守備でもかなり改善されているようだ。
そして、そうした守備をベースに横浜はカウンターからチャンスを作った。
1点目は、川崎のGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)のパスをエウベルがカットしたラッキーなものだったし、2点目はCKからのもので、川崎の守備陣を崩した得点ではなかったものの、非常に効率的に前半のうちに2ゴールを奪って見せた。
1点をリードした後は川崎に完全にボールを握られて攻撃を受ける時間が続いたが、30分過ぎから中盤での守備が機能してボールを奪える場面が増えた。セットプレーとはいえ、その時間帯にしっかりと追加点を決めたあたりは、試合運びの上手さも感じさせられた。
ただ、やはり2得点は幸運に恵まれたものでもあり、川崎が攻撃面で課題を残したのと同様に、横浜も攻撃の強化が課題となるだろう。
守備面では松原が完全復帰し、さらに小池龍太と小池裕太が復活すれば選手層は非常に厚くなる。また、MFは川崎戦では競り負ける場面が多かったが、キャプテンの喜田拓也と昨年、急成長した渡辺皓太が強力で、さらに藤田譲瑠チマという将来の日本代表の中盤を背負っていくような逸材もいる。
ただ、攻撃陣は水沼とアンデルソン・ロペス、エウベル。それにトップ下の西村拓真が不動のメンバーとなっている。川崎戦の終盤に交代出場した井上健太や植中朝日といった新戦力が今後どれだけ絡んでいけるかに注目したい。
いずれにしても、互いにいくつもの課題は残していながらも、収穫も大きかった開幕戦となった。今シーズンも両チームが優勝争いをリードしていくことは間違いないだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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