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第44回皇后杯全日本女子サッカー選手権大会の決勝戦が、1月28日の土曜日に大阪のヨドコウ桜スタジアムで開催され、日テレ・東京ヴェルディベレーザが2年ぶり16回目の優勝を飾った。
かつては“絶対女王”的存在だったベレーザが優勝しても、「またか」といった反応しかなかったが、2021年のWEリーグ開幕以来タイトルから遠ざかっていたベレーザの久々の優勝だったので、ベレーザの喜びもこれまで以上だったようだし、見る側としても新鮮だった。
ベレーザは2022-23シーズンのWEリーグでも第8節終了時点で4位と低迷。7試合で11得点と決定力不足が深刻だった。ボールを握って攻め込んでいても、なかなか決定機に結びつけられないでいたのだ。
ところが、そんなベレーザが皇后杯ではWEリーグ勢が出場する4回戦(ラウンド16)から決勝戦までの4試合で合計14ゴールを決めてみせた。決勝戦でも、昨シーズンのWEリーグ・チャンピオンで今シーズンも首位を走っているINAC神戸レオネッサ相手に4対0と完勝。
まさに、2年間の鬱憤を晴らすかのような快勝だった。
決勝戦は、とてもハイレベルだった。
ベレーザは4回戦から準決勝まですべて2ゴールを決めて絶対のエースとなった植木理子と小林里歌子のツートップでスタートした。従来、小林がサイドでスタートして勝負所でツートップに変更して戦ってきたベレーザとしては、スタートからツートップにすることで攻撃的姿勢を示したのであろう。
しかし、I神戸はWEリーグでは7試合を戦って失点がわずか5と堅守を誇る。ベレーザの積極的な攻撃に対してしっかりと体を寄せて激しいプレッシャーをかけて対抗。そして、得意のウィングバックを使ったカウンターを仕掛けてくる。
I神戸は準々決勝ではWEリーグで現在2位に付ける三菱重工浦和レッズレディースと対戦。浦和がゲームを完全に支配する中ものの、I神戸がしっかり守って2対1で競り勝った。その試合で成宮唯の2ゴールをアシストしたのが右ウィングの守屋都弥だった。タイミングの良い攻撃参加がうまく、90分間上下動を繰り返すことができる素晴らしい選手だ。
しかし、そこはベレーザも織り込み済み。左サイドバックの西川彩華がしっかりと守屋をマークしてチャンスを作らせない。
こうして、両チームとも積極的に仕掛けながら、守備意識が高く、なかなか決定機が作れない展開となった。15分を過ぎる頃にはベレーザがボールを握る時間が長くなったが、25分頃にはFWの高瀬愛実のポストプレーを軸にI神戸も盛り返して一進一退が続く。
両チームの主導権争いが延々と続いたのだ。長い長い序盤戦だった。観戦していた日本女子代表(なでしこジャパン)の池田太監督は「さぐり合うような」と形容したが、いわゆる「決勝戦らしい試合」である。
こうした「決勝戦らしい試合」を見ていて、僕は「女子サッカーのレベルもずいぶん上がってきたなぁ」という感想を持った。
かつては男子の試合と比べてよりテクニカルな部分が大きかった女子サッカーだが、このところ縦へのスピードやピッチの幅をいっぱいに使ったワイドな展開など、男女のサッカーの差は小さくなってきている。今では「男子のサッカー」、「女子のサッカー」と分けることはできない。そこで繰り広げられるのは「普通のサッカー」なのだ。
だから、「決勝戦らしい決勝戦」を見ながら僕は感心していたのだ。
最近の試合では、カタール・ワールドカップでの日本対クロアチアの試合がそうだった。ドイツやスペインは攻撃力で日本の守備を叩きのめそうとして、そして隙を衝かれて日本に逆転勝利を許してしまった。
だが、クロアチアは日本を見くびることなく、守るところはしっかり守り、局面によっては日本にボールを持たせ、そして日本の弱点であるロングボールを使ってきた。決勝戦ではなくラウンド16だったが、ある意味で「決勝戦のような試合」だった。
だが、そんな重たい試合がいつまでも続くのでは見ていても面白くない。しかし、こういう試合を動かすのは難しいことでもあるのだ。相手にリードされたのなら、思い切って戦い方を変更したり、選手交代したりできるが、両チームの均衡が取れた状態で下手に動くことは難しいのだ。
クロアチア戦ではどちらも打開できないまま120分間が終了した。カタール大会では決勝戦のアルゼンチン対フランス以外では、延長戦では得点が1点も入らなかった。「負けたくない気持ち」の方が強すぎたのだろう。
どちらかのチームの選手が積極的に仕掛けてゲームが動かすことができれば最高。どちらかの監督が積極的な打開策を取れれば、それも良し。そうでなければ、偶然の得点でゲームが動くのを期待するしかない。極端な場合、どちらかに退場者が出ることによってようやくゲームが動き出すこともある。
さて、皇后杯決勝はどうやってゲームが動いたのか……。ベレーザの選手たちが、その狙い通りの攻撃でゲームを動かしたのだ。
ベレーザは、I神戸のウィングバック守屋をマークするために、左サイドバックの西川はあまり攻め上がらなかった。その分、右サイドバックの宮川麻都が攻撃に参加して右ウィンガーの藤野あおばとの関係を生かして何度かチャンスを作っていた。最終ラインは「右肩上がり」だったのだ。
そして、39分に宮川が相手と駆け引きしながら入れた浮いたクロスに植木がワンタッチで合わせて先制点を生み出した。ファーサイドのゴールポスト内側を叩く、植木の難しいシュートでベレーザが先制してゲームが動き出したのだ。
そして、植木は後半の立ち上がりにも2点目を決めてI神戸にさらに大きなプレッシャーを与えた。
この得点も右サイドでの藤野のドリブルがきっかけ。木下桃香の蹴ったCKを胸で止めた植木は、ボールがバウンドすることろをしっかりととらえて決めたのだ。
こうして、植木は決勝戦でも2ゴールを決めて見せた。
決勝戦の1点目のようなシュート技術、準決勝での2ゴールのような裏に抜ける速さを生かした得点など、さまざまなパターンで決めることができる総合的なCFとして植木の才能が一気に花開いたようだ。3月にアメリカで開催される「SheBlieves Cup」で海外の屈強なDF相手にどこまで通用するのか……。今から国際舞台で植木を見るのが楽しみだ。
いずれにしても、前半のヒリヒリするような「決勝戦らしい決勝戦」。そして、それを攻撃力で打開して自分たちのゲームにしてしまったベレーザの選手たち……。非常にハイレベルな、そして見ていて面白い試合だった。
しかし、そんな見事な試合の観客数はわずかに1939人。せっかくレベルが上がってきた日本の女子サッカー。もっと注目されてしかるべきだと思うのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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