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サッカー フットサル コラム 2023年1月23日

競争原理を強めるJリーグの新しい考え方 サッカーの世界に「横綱」は必要なのか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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バイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガで10連覇

バイエルン・ミュンヘンはブンデスリーガで10連覇

先日、東京・両国の国技館で大相撲初場所を観戦してきた。「相撲見物」など、いったい何年振りだったろうか……。

相撲というのは、一瞬のうちに自らの肉体のパワーを全開にする、瞬発系の興味深い競技である(長い相撲になれば持久力も必要になるが)。

初場所は横綱が照ノ富士、大関が貴景勝の1人ずつ。そして、照ノ富士は初日から全休で、貴景勝が1人で責任を背負いこむことになった。こう言ってはなんだが、貴景勝関にとってはお気の毒なことだ。一人大関になってしまったのは、まったく彼の責任ではないのだから……。

「相撲というのは番付社会で、横綱というのは絶対的な強さを誇るもの」というのがかつての常識だった。実際、最近でも横綱・白鵬が元気なころは年間6場所すべて白鵬が優勝するといった時代もあった。

だが、白鵬の引退以来、強い横綱、強い大関が不在。今場所はついに大関貴景勝が優勝。なんとか大関の権威を保つことに成功したものの、2022年は7月の名古屋場所以来3場所連続で平幕力士が優勝していた。

実力が接近しているのなら、その場所に好調だった力士が優勝するのは当たり前だし、その好調を維持することが難しいことも理解できる。毎場所の優勝力士が違ってくるのは当然のことだ。

「大関」といっても、たまたま過去のいずれかの時点で数場所好調が続いた時に昇進したわけで、その時の実力を何年も維持できないこともあるだろう。そうした「肩書」を背負い込んでしまった力士はたまったものではないかもしれない。「横綱」「大関」という重い看板を背負わされたわけである。

「横綱」「大関」などという肩書を廃止して「何枚目」だけにしてしまえば、力士たちはノー・プレッシャーで相撲が取れるのではないだろうか。番付というものを「FIFAランキング」のようなものと考えればいいのだ。ランキングトップだからといって常に勝てるわけではない。

さて、サッカーの世界は、相撲と違って昔はランキングなど“あってなきがもの”だった。

前シーズンの順位など関係なく(前シーズンの勝点は持ち越されず、全チームが勝点「0」からスタートする)、どこが優勝してもおかしくない……。それがリーグ戦の醍醐味であり、新シーズン開幕前はどのチームのサポーターも「今シーズンこそは」と期待に胸を膨らませることができた。

しかし、その後、世界中の多くのリーグで“横綱”的なクラブが出現し、優勝は上位数チームだけの争いになってしまった。

たとえば、ドイツならバイエルン・ミュンヘン。昨シーズンまで、ブンデスリーガで10連覇。そして、今シーズンもまた第16節終了時点で首位に立っている。

スコットランドで“両横綱”が君臨している状況は、これはもう1世紀も続いているし、スペインでは過去数十年にわたって東西の(?)両横綱、レアル・マドリードとFCバルセロナが覇権を握り続けている。フランスのリーグアンでは、最近、パリ・サンジェルマンが“横綱級”の存在となっている。

イタリアでは、今は見る影もないが、最近までユベントスが君臨していた時代があった。

もちろん、各クラブがそうした地位を確立したのは、それぞれのクラブが続けてきた努力の賜物なので、クラブを批判するわけではない(ロシアや中東の、“怪しげな”資金によってその地位を“買った”クラブには疑問符が付くが)。だが、そうした国のサッカー・ファンは(そのクラブのサポーターも含めて)楽しめているのだろうか。

「どこが勝つかわからない」。それぞれの監督の戦術的工夫と選手のハードワークと高いレベルのテクニック。そして、若干の運、不運によって勝敗が左右され、その蓄積で年間のチャンピオンが決まる。それが、スポーツの楽しさなのではないか。

「開幕前から優勝チームが決まっている」。そんなリーグが楽しいのだろうかと、僕はヨーロッパのサッカーを見ながら思っていたのだ。

今から10年ほど前まで、日本のJリーグはまさに「どこが勝つかわからない」リーグだった。J1昇格1年目で優勝してしまうクラブもあった。

一方では、ヨーロッパ諸国のように毎試合数万人の観客を集め、全国のサッカー・ファンや一般の人たちにも知名度が高い全国区のビッグ・クラブが存在した方が、全体的なサッカー人気は上がるのかもしれないとも思わないではなかったが、やはり、リーグ戦というのは「どこが勝つかわからない」方が面白いはずと思っていた。

ところが、Jリーグでもこの数年は“両横綱”がタイトルを独占している。

言わずと知れた横浜F・マリノスと川崎フロンターレという神奈川県の両チームである。2017年シーズンに川崎が悲願の初優勝を決めてから2連覇を2度経験。その間、2019年、2022年に川崎の優勝を阻んだのが横浜だった。

しかも、内容的にも圧倒的な勝点差、圧倒的な得点数を記録しての優勝が続いており、他のクラブにとっては「3位」あるいは「ACL出場圏」が目標になってしまった。

もちろん、横浜と川崎は“怪しげな”資金を使ってそうした地位を手に入れたわけではない。しっかりと育成に力を入れ、また有望な選手をスカウトしてチームを作り上げてきたのだ。しかも、毎年のように主力選手が海外に流出してしまう中で、その地位を保っているのだから大したものだ(守田英正や田中碧、旗手玲央、三笘薫がチームに残っていたら、川崎がどれだけ強くなっていたか想像してみよう!)。

そして、とうとうJリーグもビッグ・クラブを育てていく路線を採用した。競争を促してトップクラブの充実を図り、リーグ価値と収益力の向上を狙うために、上位クラブへの分配金を増やそうというのである。そうしてトップクラブの実力をさらに上げていくとともに、競争を激化させるのがJリーグの長期戦略なのだ。

「弱肉強食」の競争社会。それが、サッカーという競技の基本的な考え方だ。強いチームは収益が増えて、その資金を使ってますます強くなる。強化やクラブ経営に失敗すれば、下部リーグに降格し、最終的にはクラブが消滅してしまうこともある。

それが、サッカーの世界の考え方なのだ。

各クラブの実力を接近させて「共存共栄」を図ることで、リーグ全体が繁栄するという、アメリカのプロ・スポーツの考え方とは正反対の考え方だ。

30年前にJリーグが発足した当時は、日本で最初のプロ・サッカーリーグが成功するかどうか危ぶまれていた状況だっただけに、「共存共栄」が基本的な考え方で“護送船団方式”で運営されてきたが、それが本格的な競争原理の方向に舵を取ろうというのである。

Jリーグにとって、それが正しい道なのか否か、大いに議論していくべきだろう。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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