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準決勝クロアチア戦で決定的な仕事をしたリオネル・メッシとフリアン・アルバレス
ワールドカップ・カタール大会もいよいよ大詰め。準決勝の第1試合ではアルゼンチンがクロアチアに3対0と完勝して2大会ぶりの決勝進出を決めた。
準決勝では、リオネル・メッシの相棒として起用されたフリアン・アルバレスの活躍が目立った。
前半32分にクロアチアのディフェンスラインが不揃いになった瞬間を見逃さずに上手いコース取りで走り出して、浮き球のパスを引き出してGKのドミニク・リヴァコヴィッチと接触してPKを獲得。メッシの先制ゴール(34分)に結びつけた。そして、39分には自陣からの単独ドリブルで抜け出して、左右からフォローする味方選手(なんと両サイドバックだった!)を使うかと見せ、そのまま強引に自ら持ち込み2点目を決めてクロアチアに大きなダメージを与えた。
そして、アルバレスは後半にもメッシのドリブル突破からのボールを受けてダメ押しの3点目を決めた。PK獲得も含めれば実質的に2ゴール1アシストということになる(正式にはPK獲得にアシストはつかないが)。
つまり、メッシとアルバレスの2人だけで3ゴールを奪ってしまったのだ。
メッシという天才を生かすためにハードワークを厭わない10人の労働者たち……。それが、現在のアルゼンチン代表のコンセプトということになる。天才タイプのパウロ・ディバラはほとんど出番が与えられないし、アンヘル・ディマリアは負傷してベンチを温めている。
僕はアルゼンチンのグループリーグでの3試合をすべてスタジアムで観戦したが、開幕直後にはここまでの快進撃はまったく予想できなかった。
初戦ではサウジアラビアにまさかの逆転負けを喫し、そして、2戦目の前半途中まではメキシコ相手に劣勢に追い込まれていたからだ。
サウジアラビア戦では、メッシの相棒はラウタロ・マルティネスだった。そして、右サイドではディ・マリアがドリブルから再三チャンスを作っていた。
前半は予想通りアルゼンチンがボールを握って攻撃を続け、10分にはメッシがPKを決めてアルゼンチンがリード。シュート数はアルゼンチンが5本でサウジアラビアはゼロ。その後の波乱の展開を予想させる要素はまったくなかった。
ただ、一方的に攻撃を続けながらアルゼンチンは2点目を決めることができなかった。
28分にメッシの浮き球のパスにL・マルティネスが合わせて決めた場面ではVARが介入してオフサイドでゴールは取り消されてしまった。そして、サウジアラビアの組織的な守備の前に、アルゼンチンは7回もオフサイドを取られてしまったのだ。
つまり、サウジアラビアは、メッシがワンタッチで出すスルーパスのタイミングなどをよく研究して守っていたのだ。
そして、後半に入るとサウジアラビアは積極的にボールを奪いに来た。後半開始早々の48分、中盤でメッシからボールを奪って速攻を仕掛けてアルシェハリが同点ゴールを決めると、その5分後にクロスの跳ね返りをアルドサリが決めて逆転してしまった。そして、その後のアルゼンチンの攻撃を、やはり前半同様の組織的な守備でしのぎサウジアラビアはアルゼンチンを破った。
メキシコ戦ではメキシコの前からのプレッシングが機能した。中盤で激しくプレスをかけてボールを奪うと、メキシコはトップのアレクシス・ベガやシャドーストライカーのルイス・チャベスが仕掛け、アルゼンチンがファウルを交えながらなんとかストップするという展開が続いた。
メキシコのプレッシングがこれだけ有効だったのは、アルゼンチンのボール回しが遅かったからだ。
パスを受けても、ワンタッチで自動的にパスが展開されることがなく、ボールを持った選手が必ず立ち止まった状態になるので、メキシコにとってはボールを奪いに行く狙いどころがあちらこちらに存在する状態だった。
僕は「これでは、ヨーロッパの強豪国と対戦したら、ひとたまりもないだろう」と思っていた。それでも、アルゼンチンが失点しなかったのは、アルゼンチンが「球際」の強さを生かしてなんとか守り続けたからだった。
そして、前半の30分を過ぎるころからメキシコのプレッシングの勢いが突然失われてしまった。原因はよく分からないが、試合開始からハイプレスを敢行したことで疲労が溜まったのかもしれない。
そして、後半に入るとアルゼンチンがようやく攻撃に出たが、なかなか決定機を作れない。そうした流れを変えたのが64分の“メッシの一振り”だった。
とくに、アルゼンチンが決定機を作ったわけではないし、メッシのシュート自体も「ゴラッソ」という類のキックではなかった。ゴール正面付近20数メートルのところから放ったメッシのシュートは「ここしかない」というコースを通って右下隅に決まった。
メッシのキックの技術。そして、シュートを放つタイミングの絶妙さによるもの。やはり、メッシは特別の存在なのである。
なお、メキシコ戦ではアルゼンチンは4-3-3で、メッシを中央に右にディ・マリア、左にラウタロ・マルティネスという攻撃陣だった。
メッシの相棒としてアルバレスが先発したのは3戦目のポーランド戦から。ボールを収めてドリブルで仕掛けるメッシと縦への推進力が特徴のアルバレスの組み合わせは有効だった。これまでよりメッシの特徴もより引き出されるようになり、全員がメッシのために走ってメッシには最前線での仕事に専念させるによって、アルゼンチンは2戦目までに比べてよりスムースに試合を運べるようになった。
ポーランド戦でも前半からアルゼンチンは14本ものシュートを放って攻めまくったが(ポーランドのシュートは1本のみ)、先制ゴールが生まれたのは後半に入ってから。そのため、メッシが強引に自分1人で決めようとする悪い癖が出始めていた。
そんな状況を変えたのが、後半開始直後のマカリステルのゴール。クロスを入れた、右サイドバックのナウエル・モリーナの攻撃参加もその後のアルゼンチンにとっては重要な戦力となっていく。
こうして、メキシコのプレッシングの突然の弱体化とか、ポーランドの攻撃力の弱さなどがアルゼンチンに救われたアルゼンチン。突進力のあるアルバレスがメッシの相棒としての地位を確立したことによって、アルゼンチンはメッシを生かすスタイルに変貌していった。
メッシは、常にディエゴ・マラドーナと比較される。1986年にワールドカップ優勝を経験しているマラドーナに追いつくためには、メッシには今大会での優勝が必要となるとも言われている。
ただ、マラドーナはゲーム全体の流れをコントロールするゲームメーカーだったが、メッシはゴールを決めるマシーンとしての色彩が濃い。
バルセロナ時代のメッシは、シャビやイニエスタが作り出すチャンスをゴールに結びつける仕事に専念していた。しかし、代表ではゲームを作る作業も任されることで負担が大きくなり、なかなか結果に結びつかなかった。
だが、カタール大会ではメッシは得点に専念してプレーしている。ようやく、代表でもメッシが本来の姿を取り戻したようだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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