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10月29日。J1リーグ第33節の川崎フロンターレ対ヴィッセル神戸の試合が行われた川崎・等々力陸上競技場には2万2110人の観客が詰めかけた。
川崎サポーターにとっては、もちろん川崎がホーム最終戦で勝点3を積み上げて「奇跡の逆転優勝」への望みをつなぐ瞬間を見ることが最大のお目当てのはずだった。
後半の立ち上がりに神戸の小林祐希に見事な直接FKを決められて同点とされてしまったものの、79分にペナルティーエリア内で小林悠が倒されて獲得したPKを家長昭博が決めて(得点は84分)2対1で勝利した川崎は最終節まで“希望”を残した。
最終節、川崎が勝利して勝点2の差で首位を走る横浜F・マリノスが敗れれば、逆転優勝が実現する。川崎としては自らが勝利すると同時に、横浜の試合結果が気になるところだが、最終節で横浜が対戦するのは、第33節に川崎と戦った神戸である。
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川崎相手に試合終盤まで同点で戦っていただけに、神戸には横浜と戦える力は十分にある。一時は、残留争いの真っ只中にいた神戸だが、このところすっかり復調。川崎戦の前まで5連勝を記録していた。
この神戸の好調をもたらしたのが、大迫勇也の復調であることは間違いないだろう。
昨年から故障が続き、その後も不調が尾を引いていた大迫。日本代表のエースの座も明け渡し、最近の日本代表の活動では常に「大迫の代役探し」がテーマに挙げられていた。
11月29日の等々力に集まった記者の多くは、優勝争いとともに大迫の状態を見に来たはずだ。また、日本代表の森保一監督が11月1日のメンバー発表を前にして最後の視察の地に等々力を選んだのも、大迫の出来を自らの目で確認したかったからなのだろう。
そして、その川崎戦で大迫は非常に良いパフォーマンスを発揮した。ワールドカップでの試合出場はともかく、招集メンバー入りは間違いないのではないだろうか。
後半にGKと1対1になった場面で決めきれなかったこと。そして、シュート数が1本に終わったことで「アピールできず」とする向きもあるが、そもそも、リーグ戦2位の強豪川崎を相手に神戸が終盤まで互角に近い戦ができたのは、最前線に大迫がいたからなのだ。
最前線でのターゲットとして、大迫は素晴らしいパフォーマンスを示した。
この試合、前半は明らかに川崎のリズムで進んだ。川崎の速いパスの展開に神戸は守備に終われた。パスを受ける位置や角度が良いので川崎のパスは非常にスムースだった。また、川崎の前線の選手たちの激しいプレッシャーにも神戸は苦しんだ。
こうして、川崎は立ち上がりから多くのチャンスを作り、20分には家長のクロスをメルシーニョが受けて、バウンドしたところをうまく押し込んで先制した。
昨年までの強い川崎だったら、ここで畳みかけて2点目、3点目を奪って勝負を決めることができたのだろうが、今年の川崎はなかなか2点目が取れない。そして、川崎の選手たち自身もそのまま攻めても簡単には2点目が取れないことを自覚しているので、リードするとどうしてもゲームをコントロールしたくなってしまう。
前半の20分に先制した後、しばらくはパスの回り方がさらに良くなったかに見えたが、そのうちに川崎の攻撃からは鋭さが消えていった。
そして、前半のうちから神戸はチャンスを作り始め、そして、後半開始とともに圧力をさらに強めて、FKからの同点ゴールにつなげたのだ。
当然、川崎の方がボールを持つ時間は長くなるので、対戦相手は川崎の前線の選手にスペースを与えないために攻撃に出ていくタイミングを慎重に選ぶ必要がある。
そんな中で、神戸がどのように攻撃の形を作っていったのか。そこに、大迫の良さを見出すことができる。
劣勢だった神戸が初めてチャンスらしいチャンスを作ったのは、1点を失った後の23分のことだった。GKの坪井湧也からのボールを受けた汰木康也が大迫に預け、大迫がタメを作って、右サイドから走り込んだ山口蛍に合わせようとした場面だ。
大迫が前線でボールを持ったことによって、山口が走り込む時間ができた。
そして、その後も、31分、32分、33分と神戸はチャンスをつかみかけたが、この時もすべて大迫が(パスの受け手として、あるいはパスの出し手として)絡んでいた。
そして、攻勢を強めた後半に入っても、49分には大崎玲央からのボールを受けた大迫がハーフライン付近から縦に深いパスを使って山口を走らせる場面があったし、57分には小林祐希からのボールに反応して大迫はGKと1対1の場面を作った(これは川崎のGK鄭成龍[チョン・ソンリョン]に防がれた)。
ボール支配率では川崎が上回っていた。それに対して、神戸は押され気味で攻撃に人数をかけられない時間帯もあった。それでもかなり多くのチャンスを作れたのは、前線でボールを受けてタメを作ったり、縦へのパスをワンタッチでサイドの選手や2列目の選手に落としたり、あるいは前に走り込む選手を使ったりした大迫の存在があった。神戸の攻撃の場面は、ほとんど大迫がいたことによって成立したものばかりだった。
パスがうまい相手と対戦して、なかなか前線でボールを奪えない展開。ゴール前での守備に追われて、なかなか攻撃に人数をさけない展開……。
ワールドカップで日本代表がスペインと戦う時も、このような展開になることが予想される(ドイツ戦では、ボール保持率にそれほどの差は生まれないだろう)。
そんな、相手にボールを持たれる時間が長い試合では、やはり前線には大迫タイプのボールを収められる選手が必要なのではないか。川崎と神戸の試合を見ていて、そんなことを連想した。そして、そんな展開になればやはりワールドカップでは大迫勇也が必要なのではないか。
前線でプレッシャーをかければボールを奪ってショートカウンターがかけられそうな相手には前田大然を起用してプレスをかけ、なかなかボールを奪えそうではない相手との試合では大迫を前線に置いて攻撃の起点を作らせればいい。
厳しいマークを受けて大迫自身が振り向いてゴールを決めることは無理であっても、大迫が受けたボールをうまく裁くことによって各クラブでゴールを決めているトップ下の鎌田大地やスタッド・ランスの伊東純也、レアル・ソシエダードの久保建英などを使えれば、得点チャンスは生まれそうである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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