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サッカー フットサル コラム 2022年10月20日

J2のレベルアップを如実に示した甲府。良質なサッカーで広島を破って天皇杯を獲得

後藤健生コラム by 後藤 健生
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第102回天皇杯全日本選手権大会決勝で、J2リーグのヴァンフォーレ甲府がサンフレッチェ広島を下して優勝を決めた。

J2リーグのチームが優勝したのは2011年度のFC東京以来だという。しかし、2011年のFC東京はJ2リーグで優勝してJ1昇格を決めている。どこの国でもそうだが、2部リーグの優勝チームというのは、1部の中位程度の戦力を持っているものだ。

しかし、今シーズンの甲府はJ2リーグで低迷して現在18位。その甲府が、J1リーグ3位の広島を破ったのだから、これは「大番狂わせ」と言ってもいい出来事だった。

もちろん、サッカーというスポーツはもともと番狂わせが起こりやすいことで知られている。得点数が極端に少ないので、攻撃回数と得点が比例しないこと。手でボールを扱うスポーツと違って中盤でターンオーバーが起こるケースが多いことなどがその理由だ。

だから、結果だけを見れば「これがサッカーだ」とか「これがカップ戦だ」という一言で理解することもできる。

しかし、僕が注目したいのは甲府の“勝ち方”についてなのである。

弱者がアップセットを起こすための古典的なやり方はこうだ。

まず、とにかく守備を固める。「引き分けでもいい」と割り切って守る。強者の方は、ボールを握って攻め続けてもなかなか得点できないでいると、次第に焦りが生じてくる。そこで、相手のミスを拾ったり、幸運に恵まれて得点することで弱者の勝利の方程式が完成する……。

「とにかく守り倒す」というのが古典的なやり方だった。

もちろん、今回の天皇杯決勝でも甲府が守りに回る時間は長かった。だが、それは力関係で攻め込まれる時間が長くなっただけであり、自分たちの方から守備的な戦いを選択したわけではなかった。

実際、前半の30分程度までは明らかに甲府の方が攻撃機会が多く、シュート数も前半は3本対1本で甲府の方が上回ったのだ。そして、この攻撃的だった時間に甲府は先制ゴールを決めた。しかも、その得点は幸運や偶然によるものではなかった。

得点はCKから生まれた。

左CKを長谷川元希が戻し気味に蹴って山田陸につなぎ、山田はタッチライン沿いに位置を取った長谷川に戻す。すると、その瞬間に荒木翔がスタートして広島のペナルティーエリア内深い位置まで走り込む。長谷川からフリーの荒木にボールが渡り、荒木が中央に折り返したグラウンダーのボールに三平和司が合わせた見事なセットプレーだった。

そして、さらに重要なことは荒木が相手陣内深くまで進出したのは、このCKの場面だけではなかったことだ。

試合は両チームともに3−4−3のシステムを取る、いわゆるミラーゲームだった。

スリーバックは広島の型だ。森保一監督(現、日本代表監督)の下で3回リーグ優勝した時から、いや、森保監督の前に変則的なシステムで超攻撃的なチームを作り上げたミハイロ・ペトロヴィッチ監督(現、北海道コンサドーレ札幌監督)の時代からスリーバックは広島伝統の形だ。

この広島のスリーバックに対して、対戦相手が同じシステムを採ってミラーゲームにしてくることは多い。その方が、変則的な動きをする広島の選手とのマッチアップが明確になって、相手を捕まえやすいからだ。

とにかく、甲府も広島と同じ3−4−3で天皇杯決勝に挑んできた。

そして、甲府は両サイドのウィングバック(左が荒木、右が関口正大)が広島のウィングバック(右が茶島雄介、左が柏好文)相手に一歩も引かない戦いを見せた。甲府の選手はどのポジションでもJ1の強豪である広島の選手とのデュエルでけっして怯むことなく戦った。そして、特に重要だったのがウィングバック同士の攻防だった。

3−4−3で、ウィングバックはとても重要な役割を果たす。

甲府の左サイドではウィングバックの荒木と、左のシャドーストライカーの鳥海芳樹の関係がうまく連携していた。荒木からのボールで鳥海が仕掛けたり、鳥海がボールをキープした時Mには荒木が追い越して相手陣の深いところまで顔を出す。

つまり、甲府は広島の右のウィングバック茶島が荒木、鳥海のマークに来たところで裏にボールを通して攻撃を仕掛けた、広島のスリーバックの横のスペースを利用したのである。そして、得点につながったCKもこの形の応用である。

僕の観戦メモを見ると、前半の34分までは甲府の攻撃のシーンばかりがメモしてあり、広島の攻撃は前半10分に茶島が強いクロスを入れた場面だけしかメモしていない。つまり、30分間は完全に甲府が攻めていたのだ。

その後、35分に広島はDFの塩谷司が深いところで起点を作るなど、何度かチャンスの芽をつかみ、さらに後半には攻撃回数を増やしていく。それでも、甲府は後半も20分くらいまでは攻撃の応酬を演じた。

後半の最後の時間帯には交代選手を使って広島が攻勢を強め、84分に広島は後半途中からウィングバックでプレーしていた川村拓夢が落としたボールをエゼキエウが持ち込み、最後は川村が強烈なシュートを決めて同点とする。

勢いは完全に広島だったので「甲府の健闘もここまでか」と思われたが、意外なことに広島は一気に勝負をかけにくるのではなく、ゲームをいったん落ち着かせることを選択した。押し込まれて疲弊していただけに甲府としては、広島がかさにかかって攻め込んでくるのがいちばん怖かったはずだが、やはり広島にも疲れがあったのだろう。

J2リーグ下位の甲府の選手たちが、1対1の局面でまったく遜色なく戦っていたこと。そして、弱者である甲府が守りに入るのではなく、しっかりと攻撃を繰り出したこと。そして、相手とのマッチアップを考えた合理的な攻撃をしていたこと。上位チーム相手にこうした戦い方ができることは驚きだった。

この数年、Jリーグの競技レベルは間違いなく上がってきている。そして、今シーズン感じたことは、そのレベルアップの波がJ2リーグにまで及んできたことだった。

かつては、勝点を獲得することだけを考えた超現実的なサッカーが横行していたJ2リーグだが、最近はしっかりとボールを動かしてビルドアップする見ごたえのある試合が増えた。とくに、今シーズン首位を争い続けたアルビレックス新潟と横浜FCはとてもクオリティーの高いサッカーをしていた。

それに引っ張られるように、J2リーグの中位、下位のチームのサッカーも変わってきているのだ。J1の強豪相手に甲府が実行した素晴らしい内容のサッカーは、そうした“J2のレベルアップ”という歴史的な動きの一環として理解すべきものなのである。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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