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サンフレッチェ広島が10月5日に行われた天皇杯準決勝で京都サンガF.C.を下して決勝進出を決定した。広島はすでにJリーグYBCルヴァンカップでも決勝進出を決めており、10月16日に行われる天皇杯決勝(横浜・日産スタジアム)と同22日に行われるルヴァンカップ決勝(東京・国立競技場)で勝利すれば、わずか6日間で2つのカップ戦のタイトルを獲得することになる。
天皇杯準決勝の京都戦は、素晴らしい試合だった。
京都のチョウ・キジェ監督は、スリーバックの広島を相手にまったく同じ3−4−3システムを選択。J1リーグで3位に付ける好調広島の攻撃力を抑えるため、各選手の立ち位置をはっきりさせることが狙いだったのだろう。
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そのため、この準決勝は3−4−3の同一システム同士のいわゆる「ミラーゲーム」となり、互いが互いの良さを消し合う試合となった。だが、試合は戦術的に狙いを消されても消されても、それでも執拗に攻撃を繰り返す重厚感のある戦いとなった。
今シーズン、広島の力を大きく引き上げたのはドイツからやって来たミヒャエル・スキッベ監督だ。
スキッベ監督はボルシア・ドルトムントやアイントラハト・フランクフルトなどブンデスリーガのトップクラスのクラブで監督を務め、また代表チームのアシスタント・コーチも務めたドイツを代表する指導者の一人と言っていい。
一方、チョウ・キジェ監督もドイツのケルン体育大学に留学経験がある。
ブンデスリーガのサッカーの信奉者でもり、記者会見などでもブンデスリーガのクラブとの比較などを語ることが多い。
従って両チームが志向するサッカーも、全員が足を止めずに走って、しっかりと相手陣内のスペースを利用して攻撃する合理的にハードワークするよく似たものになる。
つまり、この日の対戦はシステム的に「ミラーゲーム」であっただけでなく、両チームのサッカーのコンセプトまでが共通した似たもの同士の戦いだった(おまけに両チームともクラブカラーは珍しい紫色。舞台となった亀岡市のサンガスタジアムもスタンドは紫で統一されていた)。
こうして、セミファイナルは同じ志向を持つ同士がフェアに、そしてハードに延長戦まで含めて120分間戦った素晴らしいゲームとなった。
前半は、シュート数では9本対3本と広島が上回った。内容的にも広島がコントロールし続けた45分だった。得点は前半の終盤、40分のドウグラス・ヴィエイラのPKだけだったが、1対0は順当な結果。互いに相手のパスコースを読んでしっかりと守備をしたのだが、1対1でのボールの奪い合い、ボールを奪った後の前に出ていく勢いで広島がわずかながら上回っていた。
しかし、後半に入ると京都もデュエルの部分で強度を上げて、1対1の戦いで対等に戦うようになる。そして、京都は66分と72分に2人ずつを交代させ、フレッシュな選手を入れることによって優位に試合を進めるようになっていく。120分を通じて、この約20〜30分ほどだけは、明らかに京都が広島を上回った。
そんな中で、前半はスリーバックの右を務め、66分の交代以降は右のウィングバックに入った荒木大吾。そして、スタートはボランチで72分以降はシャドーストライカーにポジションを上げた三沢直人の2人がダイナミックは動きで推進力を加えて、京都は広島を追い込んでいく。
そして、79分に右サイドで荒木がドリブラー中野桂太とのワンツーを使って突破。荒木のクロスに合わせたイスマイラが強烈なシュートを蹴り込んで京都が1対1の同点として、試合は延長戦に突入する。
延長の前半5分に広島は住吉ジェラニレショーンからの縦パスをエゼキエウがワンタッチでナッシム・ベン・カリファのつなぎ、ベン・カリファがそのまま京都ゴールに流し込んだ。そして、広島はこの1点を守り切って決勝進出を決めた。
その後、京都も全力で反撃。最後の時間帯にはメンデスを最前線に上げるなどパワープレーも使って何度か広島ゴールを脅かしたが、そのままタイムアップとなった。
互いに持てる力を出し合っての120分の戦いは勝敗を超えて、両チームのサポーターを満足させるものだったと言っていいだろう。両チームの選手たちに祝福を送りたい。
広島が天皇杯決勝に進出するのは2013年度の第92回大会以来。2014年1月1日の決勝戦は旧国立競技場で開催された最後の大会となったが、横浜F・マリノスが広島を破って優勝している。そして、この時の広島の監督は森保一(現、日本代表監督)だった。
広島は、その6年前の2007年度大会でも決勝進出している(この時は鹿島アントラーズが優勝)。この時の監督はミハイロ・ペトロヴィッチ(現、北海道コンサドーレ札幌監督)である。
広島は2007年度にはJ1リーグで16位に終わり、入れ替え戦に敗れてJ2降格となっている(ちなみに、入れ替え戦で敗れた相手は京都サンガF.C.だった)。
しかし、広島は降格したにもかかわらずペトロヴィッチ監督を留任させ、それが後の黄金時代につながった。
ペトロヴィッチ監督はもともとオーストリアのシュトゥルム・グラーツでイビチャ・オシム監督の下でアシスタントをした指導者であり、オシム直伝の、DFも積極的に攻撃に参加する攻撃サッカーを広島に持ち込んだ(その後、浦和レッズ監督としても、札幌監督としてもペトロヴィッチは攻撃サッカーを貫き、日本サッカーに大きな影響を与えることとなった)。
その後、ペトロヴィッチ監督が退任した後を継いだ森保監督は、そのペトロヴィッチ流の攻撃サッカーに守備の要素を加味して勝負にこだわって戦うことによって2012年からの4年間で3度もJ1リーグで優勝するという偉業を達成した。
森保監督退任後、広島はJ1リーグの中位のクラブとなっていたが、スキッベ監督を迎えた2022年シーズンには、現在までのところJ1で3位。そして、2つのカップ戦で決勝進出と強豪の座を取り戻したようである。
ペトロヴィッチ監督のサッカーは1920年代に世界をリードしたオーストリアのサッカーの流れを汲んだものだ(オシム監督もペトロヴィッチ監督も旧ユーゴスラビア出身だが、オーストリアで長く活動している。また、旧ユーゴスラビアのサッカーも1920年代のサッカー大国オーストリアの流れを汲んだ「中欧式」)。そして、ドイツのサッカーもオーストリアの影響を強く受けている。
つまり、広い意味でいえばペトロヴィッチ監督のサッカーもスキッベ監督のサッカーも、「中欧式」の合理性に富んだサッカーということができる。
選手のポジションチェンジによってDFの攻撃参加を行うというペトロヴィッチ流のスリーバックの方が若干、柔軟性が高かったかもしれない。現在のスキッベ監督はドイツ人だけに、今の広島の方がより硬質な印象が強いが、それにしても「中欧式」であることには変わりない。
広島というクラブは、どうやらペトロヴィッチ以来の伝統をスキッベというドイツ人指導者を招くことによってうまく継承したようである。
来シーズン以降の、“広島サッカーの未来”も非常に楽しみではあるが、とりあえず2つのカップ戦の行方には注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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