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【ハイライト】
【決勝ハイライト】スペイン vs. 日本|FIFA U-20 女子 ワールドカップ コスタリカ 2022
「サッカーでは2対0というスコアがいちばん怖い」というセリフをよく耳にする。
しかし、これは考えてみれば不思議な言葉である。「1対0」だったらたった一つのミスで同点にされてしまうが、2点差であれば、一つのミスをそこまで恐れる必要がないのだから緊張感も少なく、普通にプレーできるはずだ。
おそらく、あのセリフは日本国内でしか通用しない言葉なんじゃないかと思う。
本当に怖いのは「2対0というスコア」ではない。「2対0から1点を返された後の2対1というスコア」なのだ。
1点差に詰め寄られてもうミスは許されない。しかも、こちらは失点直後で気持ちも落ちているし、相手は1点を返して追い上げムードが高まっている……。だから、この状態が最も怖いのだ。それなら、話は分かる。
そんなことを思い出させてくれたのが、8月28日(日本時間29日)に行われたU−20FIFA女子ワールドカップの決勝戦。日本対スペインの試合だった。
立ち上がりはボールを握ったスペインが一方的に攻撃を続け、逆に日本にはミスが続いた。12分には中盤からの何でもない縦パスが出た瞬間に、相手のFWインマ・ガバッロにDFとDFの間のコースを割られてあっけなく先制を許してしまう。22分にはアンドエラ・メディーナからの縦パスをヘディングでクリアしようとした石川璃音がかぶってしまい、俊足を飛ばして走り込んだサルマ・パラジュエロに決められてしまう。そして、その直後には石川のハンドでPKを取られて、U−20女子日本代表(ヤングなでしこ)はあっと言う間に3点を失ってしまった(バウンドしたボールが当たっただけで、手の位置も不自然ではなかったのでハンドを取らなくてもいいようにも見えた。不運なPKだった)。
27分で3失点……。2015年の女子ワールドカップ・カナダ大会の決勝戦では15分までにアメリカに4点を奪われたことがあったが、あれに匹敵するショッキングな立ち上がりだった(あの時のアメリカは、4年前のリベンジを果たすために、開始直後からスペシャルプレーで得点を狙ってきた)。
スペイン戦での3連続失点。これは、明らかに試合の入り方の問題だった。
試合前にはスペインは準決勝と同じくスリーバックで来るとみられていたが、実際には4−4−2。相手のシステムが事前の情報と違ったことで相手をつかみ損ねたのかもしれない。
準決勝までの戦いで日本が苦しんできたのはフランスやブラジルの「個の力」だった。組織で日本が上回っていても、相手のパワーやスピードでやられてしまった。だが、決勝で顔を合わせたスペインはパスをつないでビルドアップするタイプのチームだった。日本が前からプレッシャーをかけにいってもすべて外されてパスをつながれてしまった。
つまり、今大会で初めて「自分たちよりも技術力で上回る相手」と対戦したのだ。それで、日本の選手たちがとまどってリズムを狂わせてしまったのかもしれない。
いずれにしても、試合はこうしていきなり3点のビハインドとなってしまったのだ。
ところが、30分前後に日本がシステムを3−5−2から4−4−2に変更したのをきっかけに、試合の流れがすっかり変わった。
それまでは、スペインのボール支配率は60%を超えており、日本陣内でスペインがボールを動かし続ける展開だった。だが、日本がシステム変更した後はボール支配率で日本が上回り、32分に浜野まいか(ゴールデンボール賞=大会MVPに選出)のパスを追って、杉澤海星が相手ペナルティーエリア内でシュートを放ったのをきっかに、次々と日本にチャンスが生まれるようになった。とくに39分に左サイドでボールをつないだ後、山本柚月が大外を狙って入れたクロスにサイドバックの田畑晴菜が飛び込んだ場面は惜しかった。
そして、後半の立ち上がりに山本がファウルを受けて得たFKから、日本は1点を返す事に成功する。一度中盤に戻してからゴール前に入れたボールがつながって、最後は交代で後半から加わったばかりの天野紗が決めた。早い時間に、しかも交代で入った選手が決めたことによって日本チームは勢いづき、後半は45分間にわたって日本が攻め込む展開となった。
そして、スペインはカウンターを狙うというよりも、守備の選手を投入して5−4−1の形で跳ね返すという戦い方を選択肢、以後は一方的な展開となったのだ。
そこで、思い出したのが例の「2対0は……」という言葉だった。
もし、スペインのリードが2点で、日本が後半の立ち上がりに1点を返したのだとしたら、スペインはかなり浮足立っていたはずだ。だが、実際にはリードは3点であり、日本が1点を返しても、まだ2点差があったのだ。「それなら、守れる」とスペインのベンチは判断したのだろう。だからこそ、あれだけ早い時間から「守備を固めてリードを守り切る」という割り切り方ができたのだ。
もちろん、日本の選手たちにも「まだ2点差ある」という重圧がかかり、攻撃面で焦りが生じてしまうことになった。
そういう意味でも、3点目につながったあのハンドの判定は残念でしかたがない。
しかし、終わってみれば90分を通して日本のポゼッションは54%に達し、シュート数でも14本対9本と日本が上回った。もちろん、それはリードしているスペインが「引いて守る」という戦い方を選んだことの結果なのではあるが、それにしても日本の力がスペインよりも劣っていたわけでは絶対にない。
そして、日本のパスをつないでのテクニカルな攻撃は現地の観衆の気持ちも引き付けたようで、会場のエスタディオ・ナシオナルには日本に対する声援とゆっくりプレーして時間を使おうとするスペインに対するブーイングが飛び交うこととなった。
結果として優勝は逃したものの、この大会を通じて得たものはきわめて大きかった。
ゲームを支配しきっていたのにシュートを枠に飛ばせずに僅差の勝利となったオランダ戦から始まって、ガーナとアメリカには快勝。フランス戦では相手のフィジカルに苦しんだ。そして、1点リードされたまま迎えた延長後半のアディショナルタイムにPKをゲットして土壇場で追いつき、PK戦で準決勝に進むという大変な試合を経験。ブラジル戦でも相手の「個の力」に苦しんだが、最後は山本と浜野で生み出したスーパーゴールで勝利。決勝戦では、いきなり3失点から盛り返して敗れてはしまったものの、最後はスペインを相手陣内にくぎ付けにするという試合も経験した。
実に多様な相手と対戦し、さまざまな試合展開を経験した。ワールドカップに来なければ、そして6試合目まで勝ち進まなければ体験できないような貴重な経験を持ち帰ったわけである。
この経験を生かして、これから彼女たちがどのような選手に成長していくのか。そして、U−20年代の世界大会で2大会連続で決勝に進出した若い選手たちを生かして、どのようにしてフル代表による女子ワールドカップで再び世界の頂点を目指すのか。
女子の日本代表にも大いに注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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