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7月最後の週末、7月30日に行われたJ1リーグ第23節。2位に付けていた鹿島アントラーズに2対0のスコアで完勝した首位の横浜F・マリノス。鹿島との勝点差は8ポイントにまで開き、横浜は独走態勢を築き上げて3年ぶりの優勝に大きく近づいた。
しかし、次週、8月7日の第24節には本当の“天王山”が待っている。前年王者、川崎フロンターレとの一戦である。
川崎は、第23節では浦和レッズに完敗して5位に後退。首位横浜との勝点差は11ポイントにまで開いてしまった。
だが、実は川崎は新型コロナウイルス感染症の影響で延期となった試合があったため、消化試合数が横浜より2試合少ないのだ。あるいは「残り試合が2試合多い」と表現してもいい。もし、その横浜より多い2試合で連勝したとして計算すれば、横浜と川崎の実質的勝点差は5ポイント差ということになる。
もし、8月7日の試合でホームの川崎が勝利することができれば、実質の勝点差は一気に2ポイント差にまで縮まる。
逆に、横浜がこの天王山に勝利したとすれば、川崎との差は大きく開いて、横浜のタイトル獲得が現実味を帯びてくることになる。
横浜と川崎の間には、2位の鹿島のほか、3位の柏レイソルと4位のセレッソ大阪がいるが、やはりチーム力を総合的に考えれば、今の「強い横浜」をストップできるのは川崎以外に考えられないような気がするのだ。
それにしても、第23節の鹿島戦は横浜というチームの強さが光ったゲームだった。
横浜にとって、鹿島戦は簡単なゲームではなかった。
というのも、横浜からはEAFF E−1選手権に出場した日本代表(国内組だけの代表)に7人もの選手が招集されていたからだ。同選手権初戦の香港戦と最終の韓国戦で、森保一監督は横浜主体のメンバーで戦った(2戦目の中国戦はサンフレッチェ広島中心の構成)。
そして、横浜勢の活躍が日本代表にE−1選手権優勝をもたらした。
完勝した韓国戦の1点目(49分)は右サイドで横浜勢が作ったチャンスから、藤田譲瑠チマが上げたボールを逆サイドから詰めていた相馬勇紀(名古屋グランパス)が決めたものだったし、ダメ押しの3点目(72分)も右サイドで横浜のコンビネーションを使ってチャンスを作り、小池龍太が相手ペナルティーエリアの深い位置まで飛び込んで折り返したボールを湘南ベルマーレの町野修斗が決めたものだった。
横浜勢による精度の高いパスワークに韓国代表の守備陣はまったくついていけなかったし、右サイドバックの小池の変幻自在の攻撃参加にはまったく対処できていなかった。
とにかく、韓国戦では横浜の選手6人が先発し、DFの畠中槙之輔と小池、MFの岩田智輝の3人が90分間フル出場したのだ。そして、もう1人の宮市亮は59分に交代でピッチに入り、そして、右膝前十字靱帯断裂という重傷を負ってしまった。
韓国戦が7月27日の水曜日。そして、J1リーグの鹿島戦が29日の土曜日。つまり、代表に招集された横浜の選手たちにとっては鹿島との首位決戦まで「中2日」しか準備期間がなかったのだ。一方、2位の鹿島からは代表には1人も招集されなかったから、鹿島側には十分な準備期間が与えられたわけである(もちろん、鹿島側でも新型コロナの関係で何人かの選手の合流が試合直前になってしまったという事情はあったが)。
横浜を率いるケヴィン・マスカット監督が代表への招集や選手起用について一言文句を言ったとしてもおかしくはない状況だった。
だが、横浜はこうした厳しい日程の中でも、しっかりと勝ち切ってみせた。
3日前の韓国戦でプレーしていた岩田と西村拓真は鹿島戦でも先発して岩田はフル出場、西村も86分までプレー。藤田と水沼宏太はベンチスタートして、ともに後半に交代出場。そして、小池と畠中はベンチ外だった(重症で今季絶望の宮市も観戦のためにスタジアムに駆け付けた)。
つまり、横浜の選手層はそれだけ厚かったのである。どのポジションにも控えの選手がいて、誰が出ても同じレベルのプレーができるのだ。
たとえば、右サイドバックでは小池龍太に変わって松原健がプレーしたが、小池と松原では個性は違っていたとしても、「どちらの方が戦力的に上」とは言えない甲乙つけられないレベルにある。
こうして、韓国戦から中2日で迎えた鹿島との試合でも、横浜はいつもと同じように前からプレスをかけるアグレッシブな試合をして2点を奪って勝利した。
1点目は鹿島の選手たちが勝手に集中力を欠いてしまったミスによるもので、2点目の岩田のゴールもオフサイドを取られても仕方のない状況だったので、横浜のゴールは幸運にも恵まれたものだったが、それでも内容的には横浜の完勝だった。
さて、横浜が鹿島に完勝してそのチーム力を見せつけていた同時刻に行われた試合で、横浜を追う川崎は浦和レッズに敗れて勝点を失ってしまった。
だが、川崎は新型コロナウイルス感染症の影響で多くの選手が参加できず、ベンチにはGK3人を含めて5人しか座ることができないという異常事態の中で戦っていたのだ(つまり、実質的な交代要員は2人のみだった)。しかも、サイドバック専門の選手4人(山根視来、登里享平、佐々木旭、そして車屋紳太郎)がそろって出場できなくなってしまい、本来はMFである橘田健人と瀬古樹がSBを務めていた。
今シーズンの川崎は、これまで苦戦の連続だった。あの川崎が点が取れずに苦しんでいるのである。昨シーズン前半の絶対的強さを誇っていたチームから三苫薫(現ブライトン=イングランド)、旗手怜央(現セルティック=スコットランド)、田中碧(現デュッセルドルフ=ドイツ)が抜け、さらに今シーズンに入ると守備ラインのジェジエウや登里が負傷で離脱。MFの大島僚太もやっとケガから復帰したと思ったら、再び負傷で戦列を離れてしまったのだ(川崎の場合、むしろこれだけ中心選手がいなくなったにも関わらず、しぶとく勝点を拾って現在の順位に付けていることの方が驚きだ)。
しかし、大島は再び戦列離脱となったものの、ようやく登里とジェジエウが復活。復活直後はまだゲーム勘に問題があった登里もパリ・サンジェルマンとのプレシーズンマッチでは非常に良いプレーができるようになっていた。
登里とジェジエウがフルの状態に戻って守備ラインが安定すれば、攻撃の厚さも戻ってくるだろうし、今シーズン加入してまだ完全にはフィットしていなかったチャナティップが馴染んでくれば、そこは過去5年間で4度も優勝した強豪だ。首位を走る横浜の独走に待ったをかけることも不可能ではないはずだ。
8月7日の「天王山」。川崎がどのような陣容で戦えるようになるのかも含めて、今シーズンの優勝の行方を占う試合として大いに注目したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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