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「決め切るところで決めないと難しいゲームになる、とは考えていない」。川崎フロンターレU-18・長橋康弘監督の揺るがぬ信念 【高円宮杯プレミアリーグEAST 川崎フロンターレU-18×大宮アルディージャU18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史
特に前半は一方的と言っていいぐらいに、川崎フロンターレU-18が押し込んでいた。1試合を通じてのシュート数は18対4。少なくない決定機もあったが、試合後のスコアは1-1。サッカーメディアであれば、「決め切るところを、決め切れなかった」と表現してしまうような展開であったことは間違いない。ただ、指揮官はその見方をいつもの優しい口調で、きっぱりと否定する。
「よくこういうゲームの時に感想で出てくるのは、『決め切るところで決めないと、こういう難しいゲームになる』と。私はあまりそう考えていなくて、あの倍はチャンスを作らないといけないなと思っていますし、それが全然できていなかったかなと。ああいうブロックの中にも、しっかりパスを差し込める技術、受ける技術が必要ですし、中央が固められたらサイドから攻めればいいわけで、相手を見てサッカーができていたかというとそんなことはないですし、それはベンチも含めてそうで、そこをやっていかないといけないんです」(長橋康弘監督)。
「あの倍はチャンスを作らないといけない」というフレーズは、長橋監督の話し方がその語感を緩和させているものの、なかなかに強烈だ。だが、そのことを伝え聞いた選手たちの反応も、さも当然という趣で興味深い。
「それは普段から言われていますね。今日も凄くシュートは打っていたと思うんですけど、それで満足してはいけないというのは、どの試合でもそうですし、自分たちが5点獲っても、6点獲っても、もっとチャンスを作り続けることは監督が求めることで、それは自分たちも共通して意識を持てているので、その向上心は練習から全員が出せているのかなと思います」(MF由井航太)。
「その言葉は長橋さんらしいなって。少ないチャンスで決め切ることも大事ですけど、決めるチャンスをもっと作れたんじゃないかという意図だと思いますし、今日も相手より全然シュートは打っていましたけど、もっともっと圧倒しないといけないですし、その圧倒した先にシュート数やチャンスの数は増えてくるはずなので、チャンスを倍ぐらい作っていくというのは、長橋さんも選手も共通の意識を持てているなと思います」(MF大関友翔)。
ストライカーの五木田季晋は、少し違う角度からその言葉を咀嚼する。「もちろんチャンスをたくさん作れればいいですけど、決め切れないのはフォワードの力不足だということには変わりないので、みんながチャンスを作ろう、作ろうとしてくれるのはありがたいですし、自分ももっとチャンスを作ることにはこだわってやっていきたいとは思うんですけど、それ以上に自分のクオリティを上げていかないとダメなのかなと感じています」。実にフォワードらしい考え方だ。
松長根悠仁
センターバックの松長根悠仁も、自分の立場を踏まえて答えてくれた。「点が入らなかったら、チャンスを作り続けるしかないと思いますし、多くチャンスを作れば、決めるチャンスもその分増えるので、監督の言う通りだと思います。付け加えるとしたら、守備のところですね。もっとしっかり守らないといけないです」。この日の失点は彼が競り負けたことも一因だった。そのことを付け加えるあたりに、ディフェンスリーダーの矜持が滲む。
ここまで首位を快走している川崎U-18は、非常に見ていて楽しいサッカーを実践している。選手間の流動性にあふれる動きから、中央からの崩しも、サイドアタックも、ショートカウンターも、あらゆる攻撃のパターンを駆使して、数多くのゴールを積み重ねてきている。
キーワードは『相手を見てサッカーをやろう』。相手のビルドアップが不安定ならば、前から果敢にプレッシャーを掛けて、ボールを奪ったところからゴールへ結び付ければいい。相手が高い位置を取るのなら、空いている背後のスペースを突けばいい。常に相手の状況を察知し、その時々で最適解を選手たちが見つけていく。ごくごくシンプルだが、決して簡単ではないことを川崎U-18の選手は、このプレミアリーグという年代最高峰の舞台でトライし、確かな結果に結び付けてきた。
ところが、この日の大宮アルディージャU18戦では、後半に入って相手が3ラインをよりコンパクトに修正してきたことで、前半はうまく使えていた“ライン間”を封じられ、やや攻撃が手詰まりに。その停滞感の中でワンチャンスを生かされ、同点弾を許す。終盤はメッセージ付きの選手交代によって、「ようやくサイドに空きがあるというところを選手たちが見つけて」(長橋監督)、ラッシュを見せたもののゴールには至らず、積み重ねてきた連勝は8でストップした。
岡崎寅太郎
リーグ戦も二巡目に入り、もちろん首位のチームに一泡吹かせようと、対戦相手は今まで以上に策を講じてくるはずだ。だからこそ、より大事になってくるのは『相手を見る』こと。大宮U18戦を踏まえた長橋監督の言葉が、これからのチームの方向性を過不足なく表わしている。
「相手も我々がどういうサッカーをしてくるかはもちろんわかってくるでしょうし、そこに対してどうやってそれを掻い潜ってやっていくかは、そもそも相手を見てサッカーをやろうということなので、相手が改善して来ようが何をしようが、『相手を見れば答えがわかるよ』というところまで持って行けたら、トップチームに近付くのかなと思います」
『相手を見れば答えがわかるよ』。このフレーズだって、なかなかに強烈だ。それでも、普段からそれを意識してきている選手たちが、おそらくこれを伝え聞いたとしても、さも当然という表情で頷く姿が目に浮かぶ。相手によって、自分たちが積み上げてきたものを引き出しの中から選び、力強く取り出していく。それだけのトレーニングを重ねてきた自負は、間違いなくどの選手も持っている。
だが、長橋監督に冒頭の言葉の真意を聞くと、その答えは実にこの人らしいものだった。「日頃からトレーニングを見ていて、選手たちは本当にこだわってやってくれています。そういう頑張っている姿を見ているので、『こういうふうに決めるところを決めないと、難しいゲームになるよ』とは、私は言えないです」。
優しき指揮官が携える、妥協なき揺るがぬ信念と、それを十二分に理解している選手たち。それは、川崎フロンターレU-18が強いわけだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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