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J1リーグ第15節。首位の川崎フロンターレが、前節まで17位と低迷していた湘南ベルマーレに0対4という大敗を喫した。
前半はスコアレスで折り返したものの、湘南は50分に杉岡大暉が蹴った右CKからのボールを町野修斗が頭で決めると、54分には左サイドからしかけて最後は石原広教のクロスにフリーになっていた池田昌生が合わせて2ゴール目。さらに、慌てて前がかりになった川崎にプレッシャーをかけて中盤でボールを奪ってからのカウンターで60分に町野、61分にはタリクが決めて、湘南はわずか12分間で4点を奪って勝負を決めた。
しかも、前線の選手を増やした川崎の反撃も抑えきって無失点での勝利。内容の良い試合をしながら、決定力不足で勝点を伸ばせずにいた湘南が“王者”川崎相手に4ゴールの快勝だった。
湘南にとっては上昇のきっかけになるかもしれないが、一方、川崎にとっては危機感を抱かざるを得ない内容の試合だった。
僕は、今季も川崎の優勝を予想していた。シーズンが始まってかなり苦しい試合が続いた。4月にはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の戦いがあり、川崎はグループステージで敗退。その疲労も重なった。
だが、それでも川崎は結果を出していた。ACL明けの5月は4試合を戦って3勝1分。苦しい試合ではあったが、4試合とも無失点で切り抜け、ヴィッセル神戸戦ではアディショナルタイムに得点して勝点3を奪うなど、しぶとさを発揮して首位の座をキープしていた。
だから、最後まで混戦にはなるだろうが、最後は川崎が笑うものと思っていた。だが、湘南戦の敗戦を見て、僕も川崎の3連覇には黄信号が点ったように感じた。
湘南戦の敗戦自体はある意味では仕方がないことだった。今季はDFのジェジエウが長期離脱していたが、前節のサガン鳥栖戦でもう1人のセンターバックの谷口彰悟が退場となり、湘南戦は出場停止だったからだ。失点した後、川崎は“王者”らしくない慌てぶりを見せたが、キャプテンの谷口がいれば、そのあたりも違ったかもしれない。
僕が心配なのは、チーム全体に危機感が足りなかったことだ。
この試合、前半の立ち上がりは、相手守備陣のギャップを衝いたロングパスでレアンドロ・ダミアンやマルシーニョを走らせて川崎はチャンスを作っていた。しかし、ゲームは次第に湘南がコントロールするようになり、チャンスの数では湘南が上回っていた。
ACLからの連戦の疲れもあるだろうから、そこまでは仕方のないことだ。
だが、そこで危機感を感じて何らかの修正をすべきだったのに、川崎は同じメンバー、同じやり方で後半に入ったのだ。
前半、湘南は2度の決定的な得点機会を作った。
まず、立ち上がりの5分。右サイドでインサイドハーフのタリクがスルーパスを出すと、そのパス1本ででツートップの一角、大橋祐紀が抜け出してシュートを狙ったが、川崎のGK鄭成龍(チョン・ソンリョン)が弾き出してCKとした。
2つ目の決定機は、33分。右サイドのスローインからつないで、インサイドハーフの池田がドリブルで持ち込んで出したスルーパスに、再び大橋が反応してシュート。再び、鄭成龍が弾いたボールがつながって最後は町野がシュートを放ったが、DFに当たってCKとなった。
これ以外にも、湘南は何度も“チャンスの芽”を作っていた。川崎が無失点で切り抜けられたのは鄭成龍の好セーブのおかげであり、湘南のフィニッシュ段階での精度の低さに助けられていただけだった。
とくに問題なのは、2度の決定的場面では、いずれもインサイドハーフからのスルーパスでトップの選手がペナルティーエリアの深い位置(最近はよく「ポケット」という言葉で呼ばれる)まで進出するのを許してしまったことだ。
インサイドハーフの池田とタリクに対して、プレッシャーがかかっていなかったのだ。
川崎はいつもの4−3−3。アンカーの位置には橘田健人が入っている。橘田は足が速く、非常にカバー範囲が広いボランチだ。しかし、そのアンカーの両サイドのポジションを狙われたことでカバーしきれずに、湘南の選手はフリーで前を向いてプレーすることができていた。それが、インサイドハーフからのスルーパスで2度も決定的場面を作らせた原因だ。
しかし、川崎はそのあたりを修正せずに後半に臨んだ。
54分に2点目を失うと、川崎の鬼木達監督は交代カードを切った。57分の最初の交代では、左サイドバックの交代とともに、遠野大弥に代えてジョアン・シミッチを入れて、ボランチを1枚増やしたのだ。
最初の交代でボランチのところを修正したのは、鬼木監督もワンボランチの両サイドを使われていることを十分に承知していたからだろう。それなら、なぜ前半のうちに、あるいは後半開始の時点でボランチを増やしておかなかったのか。それは、「ピンチはあるだろうが、なんとか守れるだろう。そして、相手の足が止まればいずれは得点できる」という気持ちがあったからなのではないか。
最近の5シーズンで4度の優勝。しかも、昨シーズンは記録的な勝利数と得点数で圧勝した川崎。今シーズンも苦戦は続いていたものの、それでも首位をキープし、とくに5月に入ってからは4試合を無失点で切り抜けていた。
そうした数々の「成功体験」が川崎フロンターレから危機感を奪っていったのだろう。
もちろん、監督も選手も「油断などしていなかった」と言うだろう。だが、相手が下位に低迷しているチームだったことも含めて、気持ちに緩みが生じていたのは間違いない。
等々力陸上競技場に集まった1万4000人のファンの多くも(湘南サポーターを除いて)そういう気持ちだったかもしれない。いや、僕自身もハーフタイムには「いずれは、川崎が得点してしぶとく勝利するだろう」と思っていた。
だが、試合の当事者はどんな状況、どんな相手であっても危機感を持って、失点のリスクを少しでも減らし、勝利の確率を1%でも上げるためにあらゆる手を打たなくてはならない。
「ボランチの脇を衝かれたこと」は、この試合の直接の敗因ではなかった。実際、シミッチを入れてからも2失点している。だが、守備の問題点は明らかだったのに、何も修正せずに後半に入ったことはやはり問題にすべきだと思うのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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