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4月23日にカンプノウで行われたUEFA女子チャンピオンズリーグ準決勝のバルセロナ対ヴォルフスブルグの試合は9万1648人の観客を動員したという。つい先日(3月30日)、同大会の準々決勝レアル・マドリード戦で記録した9万1553人を上回り、女子サッカーでの観客動員数の世界記録をさらに更新したのだ。
ちなみに、この数字は今シーズンのラ・リーガでのレアル・マドリードとの“エル・クラシコ”の入場者数8万6422人の記録も上回ったというのだ。
ヨーロッパでは、女子サッカー人気は定着し、プロスポーツとしての地位を確立したようである。
2011年の女子ワールドカップでは日本代表(なでしこジャパン)が優勝を遂げた。そして、2012年のロンドン・オリンピック、2015年の女子ワールドカップでも日本は決勝に進出。決勝戦での対戦相手はいずれもアメリカだった。
当時、女子サッカー界ではアメリカは絶対的存在だった。
ところが、その後はフランスやイングランドなどヨーロッパ勢が台頭してきた。そして、2021年に行われた東京オリンピックでは、アメリカは準決勝でカナダに敗れて3位に終わり、優勝はカナダ。銀メダルはスウェーデン。そして、4位はオーストラリアだった。
アメリカはこれから世代交代の時期を迎えるので、来年、オーストラリアとニュージーランドで開催される女子ワールドカップでも優勝争いは混沌としている。
一方、日本は2010年代前半には世界のトップを争っていたのだが、ヨーロッパ勢の台頭などによってFIFAランキングも下がり、2019年の女子ワールドカップではラウンド16、そして、2021年の東京オリンピックでは準々決勝でそれぞれ敗退。2023年ワールドカップ予選を兼ねた女子アジアカップでは、ワールドカップ出場権こそつかみ取ったものの準決勝で中国に敗れてアジアのタイトルも失ってしまった。
そんな中で日本の女子サッカーが今後、世界の発展に取り残さないために日本サッカー協会が取り組んだのが女子サッカーのプロ化。つまり「WEリーグ」の設立だった。
開幕前は平均5000人の観客動員を「目標」として掲げていたものの現実は厳しく、WEリーグの観客動員数は1000人台半ば。ウィンターブレークの後、3月に再開されてからは平均で1000人を下回る週もあり、観客が3桁という試合も多い。
この数字で採算が採れるはずもなく、プロリーグとして存続できるのかさえ心配になってしまう。もし、WEリーグが失敗したら、日本の女子サッカーは世界の流れから取り残されてしまうかもしれない。
もちろん、若い選手のレベルは着実に上がっているので、日本でプロリーグが成功しなくても活躍の舞台をヨーロッパに求めることは可能だ。そうしたヨーロッパで活躍する選手を集めて代表を強化することもできる。
現在、男子の日本代表と同様に、代表選手の多くがヨーロッパのクラブに所属するといった時代が来るのかもしれない。
だが、男子の場合はJリーグというヨーロッパ中堅国並みのプロリーグが存在しているので、多くの選手が海外に活躍の場を求めても、それに続く選手が次々と頭角を現して現わしてリーグのレベルを維持して、さらに次の世代が育つという好循環が成り立っている。
だが、トップレベルの選手が海外に流出し、国内にハイレベルのリーグが存在しないという状態になってしまったら、若い選手の育成も続かなくなってしまう。
いずれにしても、日本の女子サッカーの将来のためには、WEリーグを失敗に終わらせるわけにはいかないのだ。
そんな中で、WEリーグが仕掛けた新しい試みがJリーグとの共同開催だった。
4月23日の土曜日、東京・味の素スタジアムでは14時からJ2リーグの東京ヴェルディ対ジェフユナイテッド千葉の試合が行われ(千葉が先行するが後半東京Vが追いついて1対1の引き分け)、18時からはWEリーグ第18節の日テレ・東京ヴェルディベレーザ対ジェフユナイテッド千葉レディースの試合が行われたのだ。
J2の男子の試合を観戦に来たサポーターたちも含めて多くの観客を動員しようという試みだった。
さて、勝点26で並んでいたベレーザと千葉レディースの試合は思わぬ展開となった。
前半はベレーザが完全にゲームをコントロール。なかなかゴールが生まれなかったが、36分にはCKからのボールを山本柚月が叩き込んで先制。後半開始早々にも藤野あおばが追加点を決め、「ベレーザ完勝」かと思われた(2人とも20歳未満の若い選手だ)。
ところが、61分に千葉Lが右サイドで見事なパスをつないで後半から出場した大澤春花がシュートを決めると、70分には再び大澤が決めて同点。さらに80分には千葉玲海菜が決めて、千葉Lが3連続得点で逆転勝ちというエキサイティングな試合となった。
さて、14時からのJ2リーグには5110人の観客が集まったが、18時開始の女子の試合の公式入場者数は1591人だった。もちろん、普段のWEリーグよりは観客は多かったが、昼間の試合で5000人以上が入ったのならせめて半数2500人くらいは入るかと期待したのだが……。
まず、告知の問題もあったかもしれないし、男子の試合終了から女子のキックオフまで2時間以上の時間があったことも多くの観客が帰宅してしまう原因だったかもしれない。男子選手が引き上げるのと入れ替わりで女子のアップが始まり、45分後くらいに2試合目が始まるようなスケジュール感であれば、もっと多くの人が女子の試合を観戦できたのではないだろうか。
そうした点を改善しながら、男子と女子の共同開催という試みは今後も継続してもらいたいものだ。
Jリーグは、コロナ禍による入場制限が解除されたものの“コロナ以前”の観客動員数には戻っていない。それでも、J1リーグは毎節、平均で1万人を超える観客を集めているのだ。その、男子のJリーグクラブに付いているサポーターを利用しない手はない。
実際、男子のリーグで最高の動員力を持つ浦和レッズの場合、WEリーグの三菱重工浦和レッドダイヤモンズレディースも平均2000人を超える観客数を動員できている。各クラブの(男子チームの)サポーターに女子チームを知ってもらって、WEリーグにも足を向けてもらえれば観客動員につながることは間違いない。
WEリーグには11のクラブが参戦しているが、そのうち7チームがJリーグクラブによって運営されている。Jリーグとの強力が進めば観客動員数の増加以外にも運営のノウハウの共有などのメリットもあるはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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