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3月24日にオーストラリアと対戦した日本代表は、試合終盤に三笘薫が連続得点して2対0のスコアで勝利。11月のカタール・ワールドカップ出場を決めた。
内容的にも完勝だった。
オーストラリアにとってはアーロン・ムーイやトム・ロギッチなど中心選手が不在だったのが大きな痛手だったようだが、それを言うなら日本代表も大迫勇也、酒井宏樹、冨安健洋といった中心選手を欠いた試合だった。控え選手の質と言う意味でも、日本が上回っていたということである。
ちなみに、同日に行われた中国対サウジアラビアの試合では、前半終了間際にサウジアラビアがCKから先制したものの、80分過ぎにDFの不用意なハンドでPKを与えてしまい、1対1の引き分けに終わった。そのため、最終節のベトナムとのホームゲームで勝利すれば、日本はグループB首位での予選突破が決まる。
首位通過であろうと、プレーオフ経由であっても、本大会での組分け抽選には関係ないので「首位通過」に特別の意味はない。大きな意味を持つのは「最終戦を前に予選突破を確定したこと」である。
つまり、3月29日のベトナム戦は結果を気にすることなく戦えることになったのだ。
相手はグループ最下位のベトナムであり、しかもホーム埼玉スタジアムでの戦い。どう考えても日本の勝利は確実ではあるが、それでも勝負(予選突破)が懸かる試合となれば、神経質にならざるを得ない。まして、24日の試合でオーストラリアに敗れていれば、日本は3位に後退するところだった。最終戦でオーストラリアがサウジアラビアに勝利すると仮定すると、日本にとって勝点3は必須。しかも、得失点差でオーストラリアに劣る日本は大量得点が必要という状況になりかねなかったのである。
ところが、オーストラリアに勝利して「予選突破」が決まったことで、最終節はいっさいの重圧なしで戦えることになった。
さて、今回の最終予選、日本は初戦のオマーンとのホームゲームを0対1で落とすという大失態を演じてしまった。
ヨーロッパのシーズンが開幕したばかりで選手のコンディションが上がり切っていない時期に長距離移動を強いられたことが影響した結果だ。対戦相手のオマーンは長期合宿を組んだ後、早めに日本に入って調整していたのだ。
初戦を落とした影響で、「大苦戦」の印象が強くなってしまったが、その後の日本は次第に調子を上げてきた。3戦目はサウジアラビアに敗れたが、今回のサウジアラビアは攻守のバランスがとれた強いチームだったので、アウェーでの敗戦は「想定内」と言っていい。柴崎岳のバックパスのミスを拾われての失点だったが、あの失点さえなければ、ほぼ互角。引き分けが順当なゲームだった。
そして、4戦目でオーストラリアに勝利してからは日本代表は6連勝。しかも、5戦目以降は5試合連続の無失点。2022年に入ってからの3試合はいずれも2対0というスコアでの勝利だった。
1対0(いわゆる「ウノゼロ」)は、かなり危険な試合である。サッカーの試合では、どんなに完璧にゲームを進めていても、ちょっとした不運とか誤審とかがあれば、失点してしまう(中国対サウジアラビア戦がその典型例だ)。
だから、僕は「2対0」(ドゥエゼロ)こそが完勝だと思っているので、強豪オーストラリアに2対0で勝利できたのは、大きな成果だった。
もし、このオーストラリア戦に問題があるとすれば、得点が89分と90+4分だったことだ。
ゲームの終盤、オーストラリアには疲労がたまり、パワープレーを仕掛けることも出来なくなっていた。そんな時間帯に投入されたフレッシュな選手が2点を決めた。前半から日本が両サイドハーフとサイドバックが協力してチャンスを作り続け、またトップに入った浅野拓磨がそのスピードを生かして相手守備ラインを押し下げ続けた結果だった。
「相手の足を止めて終盤に仕留める」というのは非常に合理的な試合の進め方ではあった。
だが、日本はキックオフから30秒も経たないうちに南野拓実がシュートを放ったのをきっかけに、前半からチャンスの山を作っていたのだ。だが、南野のヘディングシュートがクロスバーに当たるなどして、得点できないまま時計の針が進んでいった。その間には、数は少なかったものの、オーストラリアにもカウンターから何度かの得点機が訪れ、25分にはファウルの判定で得点は認められなかったものの、CKからのボールを押し込まれてしまう場面もあった。
もし、前半にあれだけあったチャンスの一つでも決めておけば、かなり楽な試合になっていたはずであり、これは大きな反省点と言わざるを得ない。
予選突破が決まったので、次の目標は当然、11月のワールドカップ本大会。目標は「ラウンド16突破」である。カタールという開催地は距離的にも比較的日本に近く、しかも日本代表はカタールでも何度も試合をしているのだから、他大陸のチームに比べればホームに近いと言えるので、ラウンド16突破の可能性は間違いなくあるだろう。
だが、対戦相手は当然、アジア予選とは違うレベルということになる。オーストラリア戦のように多くの得点機会を獲得することは不可能だ。そういった相手に勝利していくためには、少ないチャンスを確実に決める必要があるが、わずか半年後にシュート技術を大幅に向上させることは不可能だ(できることは、所属クラブの試合でできるだけ多くのゴールを決めて、シュートの感覚を研ぎ澄ませた状態で大会に臨むことだろう)。
そして、もう一つはチャンスの数を増やすことだ。
強豪相手にチャンスがたった5回では、得点することは難しい。そのチャンスの数をできれば10回に、少なくとも8回程度に増やすこと。これは、戦術的な工夫やコンビネーションの確立によって改善できる点である。
最終予選の間は(初戦で敗れてしまったせいで)、とにかく一つのミスも許されない状態が続いた。「すべての試合が大一番だった」とは、オーストラリア戦前のメンバー発表記者会見での森保一監督の名言である。他に新戦力になりそうな選手がいたとしても、どうしても経験豊富な選手を使わざるを得なかった(だから「選手起用が保守的すぎる」と、森保監督は批判された)。新しい戦術にトライするのも難しかった。
だが、ベトナム戦では様々なことが試せるのだ。もちろん、格下のベトナム相手にできたことがワールドカップ本大会でそのまま実行できるわけではない。だが、格下の相手だからこそ、いくつもの攻撃のオプションを試すことができる。
新型コロナウイルス感染症の影響によって予選が大幅に後ろ倒しされたため、今回のワールドカップは予選終了から本大会までの時間が短い。準備試合も5〜6試合程度しか組めないはずだ。だから、1試合も無駄にはできないのである。
3月29日のベトナム戦は「消化試合」などではない。ワールドカップ本大会に向けての準備の大事な「第一歩」なのである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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