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サッカー フットサル コラム 2022年2月22日

冬季五輪で目立ったジャッジ問題。判定によって勝負が決まるのは興醒めだ

後藤健生コラム by 後藤 健生
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主審に詰め寄るパルメイラスの選手たち

主審に詰め寄るパルメイラスの選手たち

中国の北京で開かれていた冬季オリンピックが終わった。

日本選手団は冬季オリンピック史上最多18個のメダル(金3個、銀6個、銅9個)を獲得。10年、20年前に比べて日本のスポーツの底力が上がっていることは明らかのようだ。この2週間、各競技での日本人選手の戦いぶりを見て、スポーツ好きとしては素晴らしい時間を過ごせた。「銀」のうちのいくつかが「金」だったらもっと良かったのだが……。

そんな中で、純粋にスポーツ的な観点から残念だったのはドーピング問題や審判のジャッジなどを巡るいくつかの“事件”だった。

ジャッジの問題のうち、日本人として最も記憶に残るのはジャンプ混合団体での高梨沙羅選手の失格だったろう。

2月7日に行われたスキー・ノルディック競技のジャンプ混合団体の1本目で103メートルを飛んで2位に入った高梨選手がその後「スーツの規定違反」で失格となったのだ。

その後、高梨選手の2本目を含めて日本勢はビッグジャンプを連発して7本のジャンプの合計点で、8本飛んだ銅メダルのカナダの得点に肉薄したのだから本当に残念な結果だった。

試合後に佐藤幸椰選手は「神様を嫌いになった」とコメント。その後、高梨選手がSNSで責任を背負い込むようなメッセージを投稿して話題となった。

この試合では高梨選手だけでなくオーストリア、ドイツ、ノルウェーの選手も同じスーツの規定違反で失格となってしまった(ノルウェーは2人が失格)。メダル争いの中心となるはずの強豪国の選手が軒並み失格となったのでは、そもそも試合として成立しない。

「何かがおかしい」と思うのは当然であろう。

そもそもの原因は、他の競技でも同じようなことが言えるが、選手の技術や体力ではなく、用具によって記録が伸びてしまうという現代のスポーツの現実だ。僕は門外漢なのでよく分からないが、報道によればスーツのほんの少しの差によってジャンプの飛距離は数メートルも伸びるのだそうだ。

従って、ルールを厳しくする必要があるのは当然だ。問題は、そのルールの運用法なのではないか。

各国コーチのコメントを読むと、各国ともに規定違反ギリギリのスーツを着用しているそうだ。とすれば、もし高梨選手など失格になった選手たちが規定の「2センチから4センチ」に適合しないスーツを着用していたとしても、失格にならなかった選手との違いはほんの数ミリ単位だったのではないだろうか。

だとしたら、「失格」つまり「ゼロか100か」という判定でいいのだろうか?

ジャンプ競技を見ていると、飛距離に飛形点が加算され、さらにウィンドファクターとか、ゲートファクターといった点数が加減算されている(昔は距離と飛形点だけだった)。風による影響などを排除するためだ。

それなら、スーツ違反についても減点で処理することはできないものなのか? ほんの数ミリの差で「失格」というのは厳しすぎるような気がする。

さらに言えば、スーツの測定を試合前に行えないのだろうか? そうすれば、スーツが規定違反の状態だったらその場で修正することができる。もちろん、測定後に体形が変化することはあるだろうが、そこまで追及する必要はないだろう。

たとえば、プロ・ボクシングのタイトルマッチの場合、計量は試合の前日に行われる。計量後に食事をするので、試合直前の体重は計量時とは異なっているはずだし、まして試合後に体重を図れば計量時とはまったく異なった数字が出ることだろう。

しかし、ボクシングでは前日計量をパスすれば試合は成立するのである。

ドーピング検査は問題の性質上、試合後に行う必要があるだろうが、ジャンプスーツの計測は試合開始前でいいのではないか。

現在のように各競技で競争が激しくなった以上、規定を厳しくしなければならないのは当然のことだ。しかし、審判のジャッジが勝敗を決めてしまうのでは競技をしている選手にとっても観客にとっても後味の悪いものになる。

冬季オリンピックと同時期にアラブ首長国連邦(UAE)で行われていたFIFAクラブ・ワールドカップの決勝戦でもビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)が介入した。

決勝のカードはチェルシー(イングランド)対パルメイラス(ブラジル)。欧州王者対南米王者の順当な顔合わせだった。55分にロメロ・ルカクのヘディングシュートが決まってチェルシーが1点を先制するが、64分にはパルメイラスがヴェイガのPKで同点として試合は延長戦にもつれ込んだ。そして、そのままPK戦突入かと思われた延長後半117分にチェルシーのカイ・ハフェルツがPKを決めてチェルシーが勝利した。

パルメイラスの同点ゴール、チェルシーの決勝点ともに、VARが介入してハンドによるPKという判定となったものだった。つまり、こちらも審判が勝敗を決める結果となった。

大問題とならなかったのは、どちらのハンドも肉眼でも確認できるようなハンドだったからだ。どちらも、問題の場面で攻撃側の選手は「ハンドだ!」とクリストファー・ピース主審にアピールをしている。

これが、誰もが気が付かなかったような(攻撃側の選手さえハンドを主張しなかったような)場面でVARが介入して、肉眼では確認できないような微妙なハンド、あるいはプレーする意図なく、体に付けていた腕に当たったような微妙なハンドをPKにしてしまったのだとしたら、大きな問題に発展していたことだろう。

サッカーではビデオ判定の導入が他のスポーツに比べて大幅に遅れたが、今ではVARはなくてはならないものとなった。選手にとっても、サポーターにとっても「さっきの判定は誤審だったんじゃないか?」という疑念を抱いたまま試合が続行されるよりも、映像を使って確認を済ませた方がいい。J2リーグではVARは導入されていないが、やはり「VARがあったらよかったのになぁ」と思うことがしばしばだ。

だが、本当に微妙で些細なファウルやハンドに対してVARが介入して、それが試合の結果を左右するとなると、やはり興醒めとなってしまう。

これも、ジャンプのスーツ違反判定と同じで、VARの介入の仕方によって改善できるような気がする。つまり、多くのスポーツで採用されている「チャレンジ制」をサッカーのVARでも取り入れてみたらどうだろうかと僕は思うのだ。

「ボールがゴールに入ったかどうか」についてはVAR(あるいはゴールライン・テクノロジー)で判定すべきだろうし、オフサイドも完全にVARに任せてもいい。

だが、ファウルやハンドによるPKの判定は「チャレンジ制」にするのだ。そうすれば、誰も気が付かなかったような微妙なファウルをPKと判定されて、それで勝負が決まってしまうという後味の悪い結末は減らせるのではないだろうか。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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