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2月18日のJ1リーグ開幕を前に、2月11日から13日までの週末には各地でプレシーズンマッチが行われ、「富士フイルム・スーパーカップ」ではリカルド・ロドリゲス監督の下で新しいチームを完成しつつある浦和レッズがJ1リーグ3連覇を狙う川崎フロンターレに2対0で完勝。
また、「いばらきサッカーフェスティバル」ではJ2の水戸ホーリーホックが鹿島アントラーズに対して初めて勝利した。
もちろん、開幕直前の試合だけにそれぞれのチーム毎に目指すべきものも違っており、この試合の結果だけで一喜一憂する必要はまったくない。
たとえば、スーパーカップで、浦和は“川崎対策”を練って勝利を目指して全員がハードワークした。
阿部勇樹が引退して、槙野智章や宇賀神友弥が退団。リカルド・ロドリゲス監督就任から2シーズン目となるが、浦和はまったく新しいチームに生まれ変わった。従って、チームとしてぜひとも結果を出したいところだったのだろう。
しかも、対戦相手はJ1リーグ3連覇を目指す川崎だったからなおさらだ。昨シーズン、YBCルヴァンカップ準々決勝では2引き分けで、アウェーゴールの差で川崎を破った浦和だったが、試合自体には勝てていなかった。
勝利を求める浦和はスプリントを繰り返し、寄せの早さや球際の強さで勝負。前半7分に酒井宏樹のクロスを江坂任が合わせて先制すると、その後は中央を固めて川崎の攻撃を跳ね返し続け、81分に江坂がダメ押しの2点目を決めて快勝した。
一方の川崎はまだコンディションを上げ切っていなかったため攻守ともにキレを欠いた。
川崎としては、中心選手の年齢が上がっていることもあって、途中に中断期間もなく長丁場となるリーグ戦を乗り切るためにまだコンディションを100%にまで上げていなかった。従って、たとえばレアンドロ・ダミアンが前線からプレスをかけたような場面でも、全体の押し上げが遅かったので、ボールを持つ時間は長かったものの試合の主導権は握れなかった。
水戸が初めて鹿島に勝った試合も同様の状況だった。
鹿島は今シーズン就任したばかりのレネ・ヴァイラー監督が新型コロナウイルス対策として外国人の入国が原則禁止となったために合宿に合流できないままだった。そして、水戸戦での選手交代は試合に勝つためのものではなく、あくまでもテストのための交代だった。
一方、水戸は昨シーズンから多くの選手が入れ替わったが、それでも昨シーズン同様に非常に内容の良い試合を展開。「鹿島を倒そう」という意識も高く、水戸の勝利というのも順当な結果と言ってよかった。強敵鹿島を倒したことで、水戸は勢いを持って開幕を迎えられる。
フクダ電子アリーナで行われた「ちばぎんカップ」では、J1の柏レイソルがJ2のジェフ・ユナイテッド千葉を1対0で破った。
「順当な結果」ともいえるが、J2の千葉も今シーズンは戦力が揃い、久しぶりのJ1復帰も視野に入れており、一方、柏はクリスティアーノの退団など「戦力低下」が囁かれる状態だった。そんな中で、きっちり結果を出したことは柏にとっては大きな意味がある試合だったろう。
試合は、攻撃回数としては千葉が柏を上回ったが、柏はしっかりと守って千葉にほとんど決定機を作らせず、前半10分に新戦力のドウグラスが決めた先制ゴールを守り切って勝利を手繰り寄せた。
相手のパスをカットした椎橋慧也からパスを受けた細谷真大がドウグラスに出したパスは絶妙だった。この日の細谷はトップでしっかりとボールを収めて、ドリブルも仕掛け、そして周囲も使うなど素晴らしいプレーを続けた。今シーズン、楽しみな20歳である。
残留争いに巻き込まれる可能性のあるチームにとってはいつのシーズンでもスタートダッシュが大事だ。特に今シーズンは11月にワールドカップが開催されるために、J1リーグも11月最初の週末に終了する。それまでの間に、長期の中断期間がないため、スタートで出遅れると立て直すのが難しいから、余計にスタートダッシュが肝心だ。
柏もスタートで躓きたくないという気持ちが強いことだろう。
さて、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以来、Jリーグの各クラブは感染対策を強化。試合後の監督、選手の対応もすべてオンライン形式で行われていたが、今シーズンは対面形式での取材が許されるようになった。
「ちばぎんカップ」でも、試合後には両チーム監督の対面形式での記者会見が行われた。
柏レイソルの監督はネルシーニョである。久しぶりに直接顔を合わせたが、血色も良く大変に元気そうな様子だった。
ネルシーニョ。本名ネルソン・バプティスタ・ジュニオール。1950年7月の生まれだから、今シーズンの途中で72歳となる。現在のJリーグでの最年長監督である。
名門コリンチャンスやパルメイラスを含む多くのブラジルのクラブで監督を務めた後、Jリーグ発足2年目の1994年に当時のJリーグ最強クラブ、ヴェルディ川崎(現、東京Vウェルディ)のコーチに就任。松木安太郎監督の下で、実質的に指揮を執った。そして、1995年と96年には同クラブの監督を務めた。
そして、1995年には日本サッカー協会の技術委員会が、当時の日本代表の加茂周監督の交代を提言。後任としてネルシーニョ監督が選ばれ、条件交渉まで行っていたが、加茂監督を支持するグループが巻き返し、結局、当時の協会は加茂監督を留任させた。その間の数々の行き違いから、「はしごを外された」状況に置かれたネルシーニョ監督が協会幹部を「腐ったみかん」という言葉を使って非難するに至った。
その後、ブラジルに帰国したネルシーニョだったが、名古屋グランパスや柏レイソルでも監督を務め、2010年に柏をJ1に昇格させ、翌2011年には昇格初年度優勝を成し遂げた。
Jリーグの初期。日本人選手や日本人指導者の戦術理解度は現在と比べたら低いレベルにあった。ネルシーニョ監督が試合の流れを見て、試合中に指示を送ってシステム変更を行って流れを取り戻してチームを勝利に導く姿は大変に印象的なものだった。
そんな時代からJリーグに関わって今でも現役監督というのだから、まさにJリーグの歴史を体現するような存在と言っていいだろう。
昨年は柏も低迷してしまい、ネルシーニョ監督の采配もかつてのような神通力が失われてしまったような印象が強かった(今では、試合中のシステム変更など、どのチームでも、どの指導者でも当たり前のように行うようになった)。そして、遠目から見るだけではあったが、試合中に指示を出すネルシーニョ監督の表情にもどこか活気がないように感じられた。
30年近く前から見知っているネルシーニョ監督ではあるし、心配していたのだが、「ちばぎんカップ」の試合後の会見ではとても元気そうな様子で一安心。今シーズンは、ぜひ積極的な采配で柏のJ1残留、いや上位進出を成し遂げてほしいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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