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セルティックの旗手怜央
カタール・ワールドカップのアジア最終予選。1月から2月にかけての連戦で日本は中国、サウジアラビアに連勝して2位をキープ。一方、3位で日本を追っているオーストラリアはオマーンとのアウェー戦を引き分けてしまい、日本との勝点差は3に開いた。
ただし、3月24日には日本はアウェーでの直接対決が残っているのだ。勝点差は3に広がったのだからオーストラリアに敗れても勝点では並ぶ。だが、現在の得失点差はオーストラリアが+9で日本が+6である。勝点で並んだら、得失点差で日本は3位に落ちてしまうのだ。
もちろん、日本は3月29日の最終戦で現在最下位のベトナムとのホームゲームを残しているから、確実に勝点3を取り、さらに大量点を狙うことも可能だ。一方のオーストラリアはアウェーのサウジアラビア戦が残っている。しかし、サウジアラビアは最終戦を待たずに3月24日の中国戦で勝利すればその時点で予選突破が決まっているはずので、最終戦もオーストラリアが勝利する可能性は大きい。
守備には自信のある日本代表。3月には吉田麻也も冨安健洋も戻ってくるはずだし、1〜2月シリーズで谷口彰悟や板倉滉の守備力も証明されている。引き分けでも予選突破が決まる状況は明らかに日本有利。ぜひ、シドニーのスタジアム・オーストラリアで行われる試合で引き分け以上の成績を残して、すんなりと勝ち抜けを決めておきたいところだ。
日本が得失点差で劣っているのは、やはり最終予選に入ってから露呈した決定力不足によるものだ。
たとえば、1月27日の中国戦。中国が監督交代やブラジル出身選手の離脱などで弱体化していたこともあって、試合は日本の完勝だった。だが、あれだけの内容の試合をしたのだから(得失点差を考えても)3点、4点とゴールを重ねておきたかった。
伊東純也は絶好調で中国戦でも2得点と大活躍だったが、やはり得点が期待された大迫勇也と南野拓実はシュート勘を失っているようで決定的なチャンスでもシュートのタイミングを逃す場面が何度かあった。考えられる原因は大迫はJリーグのシーズンオフの最中だったこと。南野は所属のリヴァプールで十分な出場機会を得られていないことか(中国戦をほぼフルに戦ったおかげで南野はサウジアラビア戦では得点感覚を取り戻していたので、伊東のクロスを受けた南野は相手DFをしっかりはずして南野らしい見事なゴールを決めた)。
いずれにしても、得点力を上げていくことは、これからの日本代表にとって喫緊の課題と言っていい。
といったことを思っていたら、2月3日の早朝に「セルティックの旗手怜央が2ゴール1アシストの活躍」というニュースが飛び込んできた。
「セルティックに移籍したばかりなのでチームでの出場機会を確保させる」という意図で代表招集が見送られたため、旗手はセルティックにとって最も重要な「オールドファーム」ダービー、レンジャーズ戦に出場機会を与えられ、そして見事に最高の結果を出したのだ。
それにしても、旗手の得点能力の開花には驚かされる。
1月27日のハーツ戦での先制ゴールは25メートルほどのミドルシュートを叩き込んだ。また、レンジャーズ戦でもペナルティーエリア外からしっかりと狙いすましたシューを決めている。
川崎フロンターレ時代には旗手があんな距離から積極的にシュートを撃つ場面はそれほど見られなかった。いや、大学時代から旗手のプレーはずっと見ているが、やはりあのようなシュートを撃った場面はそれほど記憶がない。
旗手だけではない。日本代表に招集され、後半途中から起用されたサウジアラビア戦ではスピードを生かした前線でのプレッシングでチームに貢献した前田大然も、やはりセルティックのデビュー戦で見事なゴールを決めている。現在離脱中の古橋亨梧も含めて、セルティックに移籍した日本人選手のゴールラッシュを見ていると、当然、日本代表でも彼らの能力を発揮させたいという気になってくる。
もし、日本代表で2列目のインサイドハーフに旗手、左サイドに前田、トップに古橋といったように「セルティック組」が揃って出場出来たら、一つの大きなメリットが生じる。つまり、クラブでのユニットが使えることになるのだ。
代表チームというのは、一緒にトレーニングする時間がほとんど与えられない。とくに、日本やオーストラリアのように代表選手のほとんどが国外でプレーしている場合はそうだ。各クラブの試合が終わってから試合会場のある都市に集合するのが日曜日から月曜日。アジア予選は最初の試合が木曜日に行われるから、全員が揃ってトレーニングできるのは火曜日と水曜日の2日だけ。しかも、長距離移動の直後だから調整が主体となる。木曜日の試合の翌日は試合に出場した選手は再び調整だから、次の火曜日の試合までに使える時間も限られる(そして、多くの場合、再び長距離移動を強いられる)。
従って、コンビネーションの確立が難しくなるのだが、同じクラブの選手が一緒に出場できれば、コンビネーションの問題がある程度改善できる。
ドイツ代表ならバイエルン・ミュンヘンのセットを使って代表チームを編成することができるし、一時はスペイン代表はレアル・マドリードとバルセロナの合同チームのようだった時期もある。
日本代表でもそうだ。中国戦とサウジアラビア戦で圧倒的な存在感を放ったのが、インサイドハーフの守田英正と田中碧だったが、彼らはともに川崎フロンターレの選手として、2020年のJ1リーグ優勝の中心選手だった。また、吉田と冨安の離脱のために、中国戦とサウジアラビア戦では谷口彰悟と板倉滉がセンターバックとしてプレーして、素晴らしいパフォーマンスを示した。2人は最終予選出場は初めてだったし、2人がともにプレーした経験もなかった。
だが、板倉ももともとは川崎育ちの選手だったから、まったく知れない関係ではなかったのだ。
日本国内では圧倒的な力を持つ川崎の選手(海外に雄飛した選手も含めて)が代表の中核を担ったとしてもおかしくはない。
もしセルティック・トリオ(古橋、旗手、前田)に加えて、三笘薫も出場したとすれば、今度は守田、田中、旗手、三笘の川崎クァルテットが成立することになる。
日本人選手獲得で大成功したセルティックがいっそのこと伊東純也の獲得にでも乗り出してくれないものだろうか……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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