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南野拓実
1月27日に行われたワールドカップ・アジア最終予選で、日本代表は中国に2対0で完勝。2月1日の首位サウジアラビアとの“決戦”に向けて幸先の良いスタートとなった。
とくに素晴らしかったのが中盤の3人。アンカーの遠藤航はいつものように中盤での守備で安定感をもたらし、その遠藤の前で守田英正と田中碧という、ともに川崎フロンターレからヨーロッパに羽ばたいていった2人のMFが素晴らしいプレーをした。
とくに守田はタッチ数も多く、的確にパスをさばいてチャンスをお膳立て。この試合のマン・オブ・ザ・マッチを選ぶとしたら守田を措いて他に考えられない。先制のPK獲得につながるプレーも、守田が右サイドの遠藤に付けた速いくさびのパスが起点だった。
そして、吉田麻也と冨安健洋が負傷欠場した穴も、谷口彰悟と板倉滉の2人が完全に埋めた。守備面で破綻はなかったし、2人ともボランチとしてもプレーできる選手だけに正確なパスを供給して日本の攻撃の起点を作った。
90分間を通して日本が完全にコントロールした試合であり、前線の出来が良ければ4点、5点入っていてもおかしくないような試合だった。
久しぶりに複数得点を決めたとはいえ、1点はPKだったこともあり、ゴール数に関しては不満を抱かざるを得ない。70分過ぎに交代の準備を終えた久保建英の姿が大型映像装置に映し出された瞬間、場内から大きな拍手が巻き起こったが、これも出場しているFWの出来に不満があったからなのだろう。
1ゴール1アシストの伊東純也はこの試合でも大活躍。今では、代表の攻撃陣の中でひとり気を吐く存在となっている。
一方、ワントップの大迫勇也と左サイドの南野拓実はまったくフィットしていない。
たとえば、20分のCK。キッカーの伊東がゴール前の密集を避けてペナルティースポット付近のスペースにグラウンダーのパスを入れると、回り込んできた南野がフリーでシュート態勢に入った。ところが、南野はシュートをミスして弱いボールがゴール左に抜けていった。ゴールの枠の中にきちんとしたシュートを飛ばせないのでは話にもならない。
大迫も、南野も、シュートを撃つことに弱気になっており、シュートのタイミングを逸してしまう場面が多いようだ。
後半に30分以上の出番をもらった前田大然は、セルティック移籍後最初の試合でゴールを決めていただけに期待したが、プレーに関与することすらほとんどなかった。
チームの問題以前に、個人的な問題が大きいように思える。
好意的に考えれば、たしかに、それぞれ難しい状況の中でプレーしていることは確かだ。
大迫の場合、いちばんの問題はシーズンオフ中でコンディションが上がり切っていないことだ。
とくに、昨年夏の移籍期間にヨーロッパのクラブからJリーグに復帰した選手の場合、2020年の秋にヨーロッパのシーズンが始まってから(新型コロナウイルスの感染拡大の影響で変則的となった日程の中で)1シーズンを消化。そして、夏に移籍したことため、きちんとしたオフを取らずに2021年12月までプレーを続けていたのだ。1年半、オフを取っていないことになる。
そして、2021年シーズン終了後も、代表の活動が控えていたためにきちんとオフを取らずに再始動を余儀なくされたのだ。コンディションが良いわけはない。
大迫だけでなく、酒井宏樹も長友佑都も同様だ。とくに酒井は東京オリンピックにも参加したため疲労の蓄積は大きい。いずれも年齢の高い選手だけに、きちんと休養を取ったり、しっかりとした体力トレーニングをする時間を失ったことは、これから悪い影響を及ぼす可能性もある。
南野にとって最大の問題はクラブでの出場機会が限られていることだ。
カップ戦で起用されればゴールも決めており、「次こそはプレミアリーグでも先発か?」と報じられることも再三だが、結局リーグ戦では先発出場の機会がないままだ。主力組がアフリカ選手権で不在になった1月は南野にとってチャンスだったはずだが、やはり出場機会は与えられなかった。
試合に出ていなければ、試合勘が失われてしまうのは当然だ。
前田にとって最大の問題は、フル代表でのプレー経験がほとんどなかったことだろう。
周囲との連携も悪かった。俊足の前田が入ったら、アバウトなボールでもいいから、早めにスペースに入れて前田を走らせたいはずだが、そうしたパスはほとんど出なかった。前田自身にも戸惑いがあったし、周囲も前田を生かすための意識が薄かったようだ。
攻撃陣の不調は最終予選が始まった昨年秋以来、何度も指摘されているが、森保一監督は大迫や南野を攻撃の軸に据えて、メンバーを変えるつもりはなさそうだ。
1月22日のメンバー発表記者会見の席で、森保監督は冒頭「あまり変わりがないと思われるかもしれませんが」と自嘲気味に語った。「メンバーを変えろ」という批判の声があることを十分に意識しているようだ。
だが、森保監督はメンバーを変えない。
新しいメンバーを入れることで攻撃が改善されるかもしれない。だが、同時に新メンバーを入れることでバランスが崩れる危険もある。そして、代表チームは新メンバーを入れて戦術のすり合わせをするだけの時間は与えられていないのだから、メンバーの変更はギャンブルなのだ。強豪国相手に戦うワールドカップ本大会ならともかく、予選ではギャンブルはすべきではないだろう。
さて、こうして中国戦は日本の完勝に終わった。というよりも、中国は抵抗らしい抵抗をしなかった。ゴール前のスペースを消して守備に徹するわけでもなく、前線の選手の特徴を生かして攻撃に出るわけでもなく、何の抵抗もせずに終わった印象だ。“中国らしい”ラフプレーすらなかった。
結局、中国戦は日本チームにとっては絶好の調整試合となった。計画されていたウズベキスタンとの親善試合はオミクロン株の感染拡大で中止になってしまったが、中国戦がそれの代わりになったようだ。海外組も加わった公式戦だったので、ウズベキスタン戦よりもはるかに良い調整機会となったようだ。
大迫はシーズンオフでのコンディション不良が不調の原因。南野は出場機会の不足が問題。そして、前田はフル代表での出場経験の問題……。だとすれば、中国戦という恰好の調整試合ができたことで彼らは復活できるかもしれない。彼らが本来は非常に能力の高い選手たちであることは間違いないのだ。サウジアラビア戦での復活を大いに期待したいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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