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サッカー フットサル コラム 2022年1月28日

吉田・冨安の負傷欠場によって生まれた新しい流れ。チームは“見えざる神の手”によって作られることもある。

後藤健生コラム by 後藤 健生
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谷口彰悟

谷口彰悟

ワールドカップ・アジア最終予選で、日本代表が中国代表を2対0で破った。得点こそ2点止まりだったが、中国をシュート2本に抑えた完勝だった。

この試合、これまで不動のセンターバック・コンビとしてチームの中心にいた主将の吉田麻也とアーセナルで評価急上昇中の若きDF冨安健洋の2人が負傷のためにそろって欠場。森保一監督は“代役”として川崎フロンターレのベテラン谷口彰悟と川崎出身で現在はドイツ・ブンデスリーガ2部のシャルケで活躍中の板倉滉を抜擢した。

Jリーグ2連覇中の川崎の中心選手である谷口とオリンピックでも活躍した板倉というのは順当な選択だったと思う。

そして、「この2人がどこまで吉田・冨安コンビの穴を埋められるか」がこの試合の焦点の一つだったが、2人はコンビネーションも良く、守備の仕事を完遂。さらに、2人ともボランチとしてもプレーできる選手だけに、前線に正確なパスを供給し、攻撃の起点としても効果的だった。

もちろん、中国はほとんど有効な攻撃を仕掛けてくる場面がなかった。中国がボールを奪っても、日本の前線がすぐに切り替えてボールを奪い返したりパスコースを限定したりできた。しかも、遠藤航をアンカーにして、守田英正と田中碧が前で動くMFの3人は出色の出来で、中盤を完全にコントロールしたため、最終ラインの負担は軽減されていた。

従って、本当に谷口と板倉のコンビの実力が試されるのは2月1日のサウジアラビア戦ということになるのだが、中国戦のプレーを見る限りサウジアラビアの強力な攻撃陣相手にも不安は感じない。

森保監督の選手選考に関しては「変わりばえしない」と不満に思っていられる方も多いのではないだろうか? 最終予選に入ってから、攻撃陣がうまく機能せず、最少得点での勝利が続いていたからだ。

中国戦を見ても、大迫勇也のシュート力は全盛時に比べたら明らかに落ちているように見えるし、南野拓実はリヴァプールで出場機会が限られているせいか、プレーのリズムを失っていて、信じられないようなミスが何度かあった(たとえば、20分に伊藤純也が蹴った右CKにフリーで合わせた時のシュートミス)。

しかし、森保監督の彼らへの信頼は揺るがない。

1月22日に中国戦とサウジアラビア戦に向けてのメンバー発表のオンライン記者会見があったが、森保監督は自ら「あまり変わっていないと思われるかもしれませんが……」と発言した。やはり、「変わりばえしない」という批判があることを気にしているのだろう。

僕は、こういう大会の途中で大きなメンバー変更をしないのは当然だと思う。

代表チームというのは、とにかくともに行動する時間が足りないのだ。今回も、中国戦の前に海外組も含めて全員がそろってトレーニングできたのは、たった2日だった。

これでは、11月の試合から時間が経過しているので、代表での戦術やコンセプトを確認するのが精一杯だ。だから、集合してすぐの木曜日の試合はいつも苦戦を強いられるのだ。これに対して、対戦相手の中国は大々的な国内合宿をして臨んでいるのだ。

だから、新しい選手を入れてチーム作りをするのは至難の業なのである。

もちろん、それでも、新戦力を加えることによって攻撃が改善されるかもしれない。だが、逆に新しい選手が入ったことでバランスが崩れてしまうかもしれない。つまり、新しい選手を入れるのは一種のギャンブルなのである。

ワールドカップ本大会で格上のチームと戦うのであれば、ギャンブルが必要かもしれない。だが、結果だけが大切な予選という舞台ではギャンブルはすべきではない。もどかしいことはあっても、とにかく安全第一で乗りきるべきなのだ。

もちろん、この点に関しては様々な意見があるだろう。だが、いずれにしても森保監督は大幅なメンバー変更をする気はさらさらないのである。

しかし、それでもメンバーは少しずつではあるが変化してきている。

田中碧がレギュラーとして定着したのは最終予選に入ってからだった。左サイドバックとして絶対の存在だった長友佑都は、このところ中山雄太に交代する機会が増えてきた。今回は負傷で招集外だったが、三笘薫も最終予選に入ってからフル代表に加わって、結果を出している。

そして、メンバーを変える気がない森保監督の中でも、最も手を付けたくなかったセンターバックの吉田と冨安も、今回の1月シリーズではそろって欠場。そして、谷口、板倉が“代役”としての起用に応えたのだ。

中国戦の先発メンバーでは東京オリンピック世代(1997年以降の生まれ)の選手は2人だけ(板倉と田中)だったが、交代で出場した5人のうち原口元気を除く4人がオリンピック世代だった。

これに三笘や旗手怜央なども含めて、カタールでのワールドカップ本大会では東京オリンピック世代がチームの半数を占める可能性だってある。

森保監督は積極的にメンバーを変えようとしているわけではないのに、こうして新しい戦力が自然に代表チームに加わってきているのである。

たとえば、若い板倉はドイツでも評価が上がっている選手だ。将来、センターバックもしくはボランチとして日本代表の中心選手として育っていくかもしれない。

また、谷口や板倉がセンターバックとして代表の屋台骨を背負っていけるとしたら、冨安がアーセナルでやっているように右サイドバックでプレーすることが可能になるかもしれない。

現在のチームでは右サイドバックとしては酒井宏樹がファーストチョイスだ。しかし、酒井は疲労で代表を離れたこともあったし、中国戦では守備はしっかりしていたものの、攻撃面ではファーストタッチが大きくなってしまったり、パスが不正確だった場面もあり、万全の状態とは言えないようだ。

その点で、もし冨安がサイドバックとしてプレーできるのなら、それも大きな選択肢となっていくだろう。

チーム作りと言うのは、もちろん第一義的には監督の意向によって進められるものだ。しかし、様々な偶然やアクシデント(たとえば、主力選手の負傷や出場停止等)によってメンバー変更を余儀なくされることがある。そして、そこで新しくメンバーに加わった選手が与えられたチャンスをつかみ取ることによって、監督の意図しない形でチームが変化していくことも往々にしてあるのだ。

いわば、“見えざる神の手”のような力が働くことがあるのだ。そして、そうした自然の流れに逆らわずに、予期せぬ変化をうまく取り入れていくことができる監督こそ名監督と言うべきなのである。

サウジアラビア戦で、新しいCBコンビが機能することを祈りたい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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