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サッカー フットサル コラム 2022年1月11日

セットプレーが勝利への方程式……。徹底して勝負にこだわった青森山田の優勝

後藤健生コラム by 後藤 健生
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今年で第100回を迎えた全国高校サッカー選手権大会で、青森山田が優勝を決めた。決勝戦の大津(熊本)戦が4対0。準決勝の高川学園戦は6対0という圧勝だった。決勝では大津にシュートを1本も撃たせず、準決勝の高川学園もシュート2本に抑え込まれてしまった。

これほどの一方的な試合になってしまったのは、青森山田に対抗できるような強豪校が次々と敗退していったからだ。

1回戦では千葉県代表の流通経済大柏が敗れ、昨年の決勝で青森山田をPK戦で破った山梨学院も初戦(2回戦)で敗退。準々決勝では圧倒的にゲームを支配していた群馬県の前橋育英(2017年に優勝)が大津の一発の前に敗れ去り、静岡学園も関東第一(東京)を圧倒しながら1ゴールしか決められず、終了間際にカウンターから同点とされてPK戦に散った。

現在の高校サッカーは、中高一貫の体制を作り上げてJリーガーを輩出する青森山田のような一部の強豪校と、一般の部活動的な高校との格差が大きく開いている。青森山田はJリーグクラブの下部組織とともに戦う2021年度のプレミアリーグEASTでも優勝しているのだ。

しかし、そんな状況下にあっても一般高校も黙ってはいない。守りを徹底して強豪校の攻撃を抑えて、カウンターやセットプレーに磨きをかけて「ジャイアントキリング」を狙っているのだ。

話題になったのが高川学園の「トルメンタ」だった。CKの場面で数人の選手たちが相手ゴール前で手をつないで輪を作ってクルクルと回転。キックと同時に散っていくことで、相手のマークを付きにくくするというトリックプレーだ。

そんな、各校の工夫によって強豪校が次々と姿を消していったのが今大会だった。

そして、そんな中で着実に勝ち上がってきたのが青森山田だったのだ。

「プレミアリーグ優勝」という実績を見ても分かるように、青森山田が実力ナンバーワンだったことは間違いない。そのうえ、青森山田は徹底して勝負に徹して戦った。昨年、一昨年と2年連続で決勝戦で敗れたことを教訓に勝つためのサッカーを追及したのだろう。

たとえば、決勝戦。実力的には青森山田が大津を上回っていた。パスをつないでボール保持率を上げようと思えば、いくらでも上げることができたかもしれない。しかし、青森山田はミスを避けることを最優先に戦った。

パス回しにこだわることで、自陣でカットされてショートカウンターを食うリスクが生じる。そこで、青森山田の選手たちは難しい場面では無理してつなごうとしなかった。無理をせずに相手陣内にロングボールを蹴り込んだのだ。ボール保持は捨てる代わりに、相手のラインを押し下げることでリスク回避ができる。

それでも開始から10分を過ぎるころには完全にゲームをコントロールした青森山田。だが、相手もそれは承知のうえで守備を固めてくる。「無理をしない」こともあって、チャンスは作ってもなかなかゴールをこじ開けられない。青森山田にとっては嫌な時間が続いた。

だが、そうなった場合にはセットプレーで打開できるのが青森山田の強味だった。

37分に藤森颯太のCKにDFの丸山大和が頭で合わせて先制ゴールを決めたのだ。その後、こぼれ球からもう1点を追加して2対0で折り返し、後半にも藤森のロングスローからキャプテンの松木玖生が3点目を決めて、勝負の行方は完全にきまった。

そういえば、準決勝の高川学園戦でも先制点はFKからのものだった。5人のDFを並べてロースコアゲームに持ち込もうという高川学園の思惑を、開始わずか3分で打ち砕いてしまったのだ。

相手が守りを固める時には、セットプレーが有効なのは当然のことだが。青森山田のCKは実に多彩だった。ニアに速いボールを蹴ったり、ふわりと浮かせたり、ファーに上げたり……。ゴール前の選手たちの動きもバリエーション豊富だった。決勝戦では前半だけでCKが9回あったが、そのすべてが違うパターンだった。

青森山田のエースと目されたのはキャプテンの松木だった。青森山田出身のプレーメーカーといえば、まず柴崎岳を思い出す。
 

柴崎は天才的なパッサーだ。相手陣内のスペースを見逃さずに鋭くて深いパスを送り込むのだが、同時に受け手のことも考えて、受け手の右足に付けるか、左足に付けるかまで考えて、メッセージを込めた回転をかけてパスを託す。そのプレースタイルは青森山田在学時から現在までまったく変わっていない。

当時の青森山田は柴崎のこのタレントを生かすために、柴崎には守備を免除したような戦いをしていた。昔風の「10番」の姿である。

だが、今年のエースだった松木は柴崎に比べてオールラウンダーのプレーヤーだった。

相手のスペースをえぐるパスはもちろん、自らドリブル突破も試みるし、得点力も兼ね備えている。そして、勝負にこだわって守備にも貢献する選手だった。決勝戦でも、中盤での厳しい守備を行い、青森山田として唯一のイエローカードをもらっている。

オールラウンダーなだけに、プロ入りしてからどんな選手になっていくのか。そのプレースタイルがどのように変化していくのかが楽しみな選手である。

青森山田の戦いぶりは、格下の相手が守りを固めてくる難しい試合ではセットプレーが重要だということを改めて示してくれた。

「格下の相手をどのように崩すか」というのは、実は日本代表にとっても大きなテーマである。アジア大陸内の戦いでは、韓国、オーストラリア、サウジアラビア、イラン以外との試合では対戦相手は必ず引いて守って“一発”を狙ってくる。守りを固める相手を崩すというのは、どんなレベルの試合でも非常に難しいものだ。だからこそ、サッカーでは番狂わせが多発するのだ。

ワールドカップ最終予選のことを考えても、日本の苦戦の原因は格下のオマーンに敗れたことがすべての始まりだった。日本が所属するグループBではサウジアラビアが首位を走っているが、その原因は日本とのホームゲームに勝ったためでもあるが、同時に唯一格下相手の試合ですべて勝点3を奪っていることなのだ(日本はオマーンに敗れ、オーストラリアは中国と引き分けてしまった)。

格下相手に、確実に勝つこと。それはとても大事であり、また難しいことなのだ。

そして、青森山田はその問題をセットプレーのバリエーションを増やすことによって解決した。

現在の日本代表の場合、セットプレーからのゴールが少ないということはかねてから指摘されている。もちろん、代表チームというのはトレーニングの機会も限られているのでセットプレーの準備のために多くの時間が割けないという事情はあるが、選手たちの能力は非常に高いのだ。セットプレーという武器は、ぜひ磨きをかけておいてほしいものだ。

アジアの戦いが終わり、ワールドカップ本大会での戦いが始まれば、逆に日本代表が格上の強豪を相手に「ジャイアントキリング」を狙う立場になる。そして、その場合でもセットプレーが重要なのには変わらないのだ。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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