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第43回皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権大会が始まっている。女子サッカー日本一を決める大会だ。
まず、女子サッカーの現状についておさらいをしておこう。
日本初の女子サッカーのプロ・リーグとしてWEリーグがスタートしたのが今年の夏のことだった。WEリーグはいわゆる「秋春制」なので、現在第10節までが終了したところだ(本来は12月4日に第11節が行われる予定だったが、11月下旬にオランダに遠征した日本代表の選手たちが、オミクロン株出現によって強化された水際対策によって自主隔離を余儀なくされて練習や試合に参加できなくなってしまったため、WEリーグの第11節は延期となってしまった)。
昨年まで日本の女子サッカーのトップリーグだった日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)からは7チームが抜けてWEリーグに参加した(その他、4つの新しいクラブがWEリーグに参戦した)。そして、なでしこリーグはWEリーグに移らなかったチームによって1部、2部に再編され、例年通りに開催された(こちらは「春秋制」なので、すでに全日程が終了している)。そして、多くのトップクラスのチームが抜けたにも関わらず、なでしこリーグの方もかなりのハイレベルの戦いを見せてくれていたのだ。
さて、そうした中で迎える今年の皇后杯。当然、第一の見どころはWEリーグ勢となでしこリーグ勢の対決だ。なでしこリーグの選手たちにとってはWEリーグ勢に一泡吹かせたいという気持ちが強いだろうし、逆にWEリーグの選手たちは「プロ」としての意地に懸けてもなでしこ勢に敗れるわけにはいかない。
だから、僕は今年の皇后杯は「プロ化1年目」だからこその面白い大会になるのではないかと期待しているのだ。
そのWEリーグ勢が登場するのは12月25日の4回戦(ラウンド16)からだ。12月11日と12日に行われた3回戦までは、いわば「挑戦者決定戦」というわけだ。
僕は、そのうち11日に栃木県真岡市で行われた試合を観戦に行った。というのは、この日の2試合目には、なでしこリーグ1部で圧倒的な強さで優勝した「伊賀FC九ノ一三重」(以下、伊賀FC)が登場するからだ。チーム名はいろいろ変遷があるが、創部から45年めを迎えるという、女子サッカー界の古豪の一つである。
2021年シーズンのなでしこリーグ1部で、伊賀FCは17勝2分3敗の勝点53を記録し、2位のスフィーダ世田谷(東京都)に12ポイントもの差を付けて優勝を決めた。22試合で勝点53という数字をJ1リーグと同じ38試合に換算すると約91.5ということになる。つまり、伊賀FCの勝率は川崎フロンターレのそれ(勝点93)と同格だったのだ。
また、なでしこリーグ1部のクラブは、皇后杯では2回戦から出場したが、伊賀FCは2回戦で筑波大学を4対0で一蹴している。やはり、WEリーグ勢への挑戦者として最も相応しいのは、この伊賀FCだろう。
だから、僕は、挑戦者決定戦での伊賀を見ておきたかった。しかも、今シーズン、僕はスケジュールの都合で伊賀の試合を生で見る機会が一度もなかったのだ。「これは、行かなければなるまい」というわけで、12月11日は早朝から栃木県真岡市に向かったのである。
対戦相手は福岡J・アンクラス。なでしこリーグ2部で4位だったクラブである。
そして、結果は7対0で伊賀FCが圧勝した。たしかに、期待通りに伊賀FCは強かったのである。
いちばん目についたのは、積極的なパスの仕掛け方だった。
たとえば、パスコースが3つあったとしよう。その時に、どのパスを選択するのかということだ。安全につなぐことを優先するのか、それてもパスカットされるリスクはあっても、相手にとって最も嫌なコースを選択するのかという問題である。
“正解”があるわけでは、もちろんない。その時の状況を見て判断すべきものであり、その判断力こそがサッカー選手にとって最も重要な資質だと言ってもいい。
しかし、常に安全第一でプレーしていては、相手がミスを冒さない限りは得点は生まれない。サッカーというミスが付き物のスポーツでは、ミスを恐れることなくプレーして、逆に相手にミスを生じさせることが必要なのだ。
その点こそが、伊賀FCの選手たちの意識の高さなのだ。90分間に渡って、彼女たちは相手の最も嫌なコース、すなわち敵陣深くへの、あるいは守備ラインの裏へのパスを狙い続けたのだ。そして、もちろんパスの受け手の方も相手の嫌がる深い位置でのスペースを見逃さずに進入を続けた。
これは、けっして女子サッカーだけの問題ではないのだが、とくに日本の女子サッカーではパスをつなぐことにこだわることが多い。
たとえば、先日の女子日本代表(なでしこジャパン)のオランダ遠征、とくに完敗を喫したアイスランド戦などを見ていると、せっかく前線の選手が裏に抜けようとしているのにバックパスや横パスに逃げてしまう場面が数多く目についた。積極的に、裏を狙うパスを出せるのは長谷川唯だけだったといってもいい。
そうした背景もあるので、伊賀FCの選手たちの積極的なプレーに僕は感心したのである。
もちろん、伊賀FCには日本代表に招集されるような選手はいない。海外クラブで活躍している選手やWEリーグの上位チームの選手たちに比べると、技術レベルが落ちることは否めない(もし、伊賀の選手たちの技術が代表級に高かったら、2桁得点は間違いなかっただろう)。
だが、選手たちに意識付けを与えるだけで、これだけ攻撃力のあるチームが出来上がるということを、今シーズンの伊賀FCの躍進からは見て取れる。チームを指導をしてきた大嶽直人監督の手腕でもあるのだろう。
こうして、名実ともに挑戦者ナンバーワンとなった伊賀FC。4回戦では、浦和レッズレディースと対戦することになっている(12月25日、ケーズデンキスタジアム水戸)。浦和は、昨シーズンのWEリーグ発足前の最後のなでしこリーグで優勝を飾り、皇后杯では準優勝。WEリーグ初年度は、一時的に足踏み状態があって第10節終了時点で3位にいるが、優勝候補の一角にいる強豪であることに変わりはない。
WEリーグの強豪相手に伊賀FCの攻撃力がどこまで通用するのか。そして、相手の強力な攻撃をしのいで、攻撃につながることができるのか……。
まさに、なでしこリーグのトップがWEリーグの強豪中の強豪に挑む構図の4回戦。大いに注目してみたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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