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オマーン戦直後の森保監と選手たち
ワールドカップ・アジア最終予選に臨んでいる日本代表は、11月16日のオマーン戦に勝利して年内の日程をすべて終えた。同日に行われた試合でオーストラリアが中国戦で引き分けに終わったことで、日本は2位に浮上した。
現時点での順位はそれほど重要ではないが、6試合を終えて4勝2敗という成績そのものはまずまずといったところだろう。
9月2日に大阪・吹田で行われた初戦では、格下のオマーンに、しかもホームで敗れるという“大失態”に終わったが、その後はほぼ想定内と言っていいだろう。
サウジアラビア戦にも敗れたが、サウジアラビアは出場権獲得の有力候補というべき強豪国だ。そのサウジアラビアを相手にアウェーで敗れるというのは、もちろん歓迎すべきことではないが、「想定内」と言っていい。
同じくライバルのオーストラリアにはホームの試合で勝利。その他、格下の中国、ベトナム、そしてオマーンにはすべてアウェーで勝利という結果である。
日本が2位に浮上したのは、オーストラリアが中国との試合で1対1の引き分けに終わり、11月の連戦でオーストラリアは勝点を2ポイントしか積み増せなかったからだ。サウジアラビアもオーストラリアとのドローがあったおかげで勝点4を積んだだけ。2試合で6ポイントを手に入れた日本が順位を上げた。
11月の連戦でサウジアラビアとオーストラリアが伸び悩んだのは必然の結果だった。
サウジアラビアが開幕から4連勝で首位に立っていたのは、一つには彼らが大きなアドバンテージを持って戦っていたからだった。つまり、9月と10月の4試合のうち3試合がサウジアラビアのホームゲームで、さらに9月のアウェーのオマーン戦もサウジアラビアの隣国での試合だったから、彼らは4試合すべてをアラビア半島の中で戦っていたのだ。
もともと、サウジアラビアの選手のほとんどが国内組だから、移動の負担がいっさいなかったのだ。
オーストラリアも、比較的恵まれていた。
9月と10月、11月のいずれもオーストラリアの“初戦”(木曜日の試合)はすべてホームゲームだった。そして、9月の中国戦、10月のオマーン戦はオーストラリアは新型コロナウイルス感染症の影響でカタールのドーハで戦った。
オーストラリアも日本と同じように選手の大半がヨーロッパのクラブでプレーしている。ヨーロッパから中東のカタールまでは飛行時間も5時間ほど。時差も夏時間のヨーロッパとはわずか1時間しかないのだ。そして、ドーハで1試合戦った後、オーストラリアは9月にはベトナムのハノイ、10月には日本の埼玉スタジアムまで移動があったが、中東からの移動はヨーロッパから直接移動するよりだいぶ楽になる。
ところが、オーストラリアは11月の“初戦”を本来のホームであるシドニーで戦ったのだ。
ヨーロッパから見れば、シドニーはまさに地球の裏側。時差は10時間もある。ヨーロッパから日本までの移動よりもさらに過酷な条件になるのだ。つまり、オーストラリアの選手たちにとっては、ホームゲームこそが最も厳しい条件になる。
11月の試合では、オーストラリアの選手たちはヨーロッパから本国のオーストラリアまで移動して、そこでサウジアラビアと戦い、その後UAEのシャルージャまで移動して中国と戦ったのだ。
オーストラリアには「距離の暴虐」という言葉がある。本国であるイギリスからの距離の遠さで苦労してきた歴史を表す言葉だ。11月のオーストラリアは、まさにこの「距離の暴虐」を味わったわけだ。
一方、日本は9月と11月は木曜日の“初戦が”長距離移動直後という悪条件で戦うことになった。とくに、11月のハノイでの試合では移動時のトラブルも重なったため、全員がそろってのトレーニングを1回行っただけで試合に臨まざるを得なかったのだ。
最終予選で戦う日本代表は、移動の負担という意味では「ハンディキャップ戦」を戦っていたことになる。
これほど大きな移動の負担がある中で戦って、最低限の勝点を積み重ねてきたことは(初戦での“大失態”は別として)高く評価してもいい。
ただ、それは「結果」の部分である。内容的には、日本代表は苦しみ続けている。吉田麻也と冨安健洋のセンターバックコンビの前に遠藤航を置く守備のブロックはさすがに強固だった。そして、いつしか日本勝利のパターンは
「守備をベースに、数少ない得点を守り抜く」というものになってしまった。
これまで攻撃の中心として活躍していた大迫勇也の調子が上がらず(11月シリーズは故障明けだった)、所属のリバプールでの出場機会が限られている南野拓実は明らかにゲーム勘を失っている。そのため、日本代表が本来目指しているはずのトントンというリズムでワンタッチパスがつながる流れるような攻撃が見られなくなってしまった。
トップ下の鎌田大地も堂安律も、今シーズンはヨーロッパのクラブで出遅れてしまった。そして、日本代表の主軸として成長してきた久保建英の負傷も思いのほか長引いてしまっている。
そんな中で、ネットの世界などでは「新戦力待望論」が高まっている。三笘薫や古橋亨梧、前田大然、上田綺世といった選手に期待する声である。
もちろん、そうした若い伸び盛りの選手たちを起用すれば、もしかしたら何かが大きく変わって代表の攻撃が活性化するかもしれない。だが、逆に経験の浅い選手たちを使うことでチームがバラバラになってしまうというリスクもある。
その両者を勘案して、森保一監督は経験豊富な選手に懸けているのだ。
どちらが正解なのかは分からない。だが、今の日本は「一つも失敗はできない」という状況に置かれているのだ。
もし、6戦を終えて全勝で勝点18といった余裕がある状況だったら、本大会を目指す意味でも新戦力を組み入れてトライしてみるという選択もある。逆に、もっと苦しい状況で、2位以内を確保するには奇跡が必要という最悪の状況にあったら、若い選手たちに賭けてみてもいいかもしれない。
だが、今の日本は余裕はまったくないが、同時に勝点3を積み重ねていけば2位以内に入れる可能性が大きいという微妙な状況なのだ。結論的に言えば、今は冒険すべき時ではない。
だが、オマーン戦では森保監督がいつもより早いタイミングで選手交代のカードを切った。
これまでは、ミスがあっても信頼を寄せていた柴崎岳の動きが悪いとみると、後半開始からフル代表でのデビューとなる三笘薫に交代。三笘のドリブルで攻撃が活性化したことを確認すると、やはりこれまで信頼が揺るがなかった南野と長友佑都を退けて、古橋と中山雄太を投入した。62分という、森保監督としてはきわめて早い時間帯の交代だった。
そして、交代で投入した中山が左サイドでボールを奪って、三笘がドリブル突破したところから伊東純也の決勝ゴールが生まれたのだ。
森保監督は慎重な性格だから、これからも一挙に新戦力を並べるようなことはないだろう。だが、オマーン戦の三笘のように、途中交代の形で新たな選手を組み入れることによって漸進的に若替わりが進んでいくのではないだろうか。
6試合を戦った段階で日本は3失点している。そのうち、長友のサイドを崩された失点が2つ(オマーン戦とオーストラリア戦)。そして、柴崎の痛恨のパスミス(サウジアラビア戦)。この辺も、まさに「変えるべきポイント」であろう。
2022年に入ってからの4試合のうち、3試合はホームでの戦いである。唯一のアウェーゲーム、3月のオーストラリア戦は日本が勝点で上回った状態で迎えたいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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