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川崎フロンターレのJ1リーグ優勝が決まった。2017年からの5シーズンでなんと4度目の優勝である。
11月3日のJ1リーグ第34節で浦和レッズと対戦した川崎は前半33分にCKから混戦を作り、DFのジェジエウが押し込んで先制。その後も、優勢に試合を進めたものの追加点を奪えず、89分に自陣でのスローインからのボールを奪われ、浦和の伊藤敦樹のシュートをGKの鄭成龍(チョン・ソンリョン)が弾いたボールを酒井宏樹に押し込まれ同点とされてしまった。試合は、そのまま1対1の引き分けに終わったのだが、同時刻に日産スタジアムで行われていた試合で、2位に付けいていた横浜F・マリノスがガンバ大阪に0対1で敗れたため、4試合を残した段階での優勝が決まったのだ。
第34節終了時点での川崎の成績は26勝7分1敗の勝点85。34試合制で行われた昨シーズン、優勝した川崎の成績は26勝5分3敗の勝点83で、これが歴代の優勝チームの最多勝点記録だったから、今シーズンはこの記録をさらに更新したことになる。残り4試合で勝点は90を大きく超えそうである。
「川崎が強すぎたシーズン」。2021年のJ1リーグは、そのように記憶されていくことだろう。
川崎は、夏の移籍期間に三笘薫と田中碧の2人が海外移籍を選択してチームを離脱。そして、その直後にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の戦いがあり、さらに8月から9月にかけて行われた天皇杯全日本選手権やJリーグYBCルヴァンカップの試合でDFの谷口彰悟、車屋紳太郎などが相次いで負傷して戦列を離れるという危機的状況に直面した。
そんな状況下で戦ったルヴァンカップ準々決勝では浦和レッズに準決勝進出を阻まれ、またその直後にはACLでも敗退が決まった。
だが、ルヴァンカップで準決勝進出を阻まれたのはアウェーゴールの差によるものだったし、ACLのラウンド16での蔚山現代との戦いはPK戦によるもの。
つまり、そんな苦しい中でも試合自体には敗れていないのだ。
今シーズン、川崎が公式戦で敗れたのは、これまで8月26日のJ1第26節、アビスパ福岡との試合(0対1)だけなのだ。
川崎といえば、「3点取って勝つ」攻撃的なサッカーのイメージが強い。実際、4月から5月頃はそんな試合が多かった。たまに1対0という試合があると、「今日は1点しか入らなかった」と物足りない気持ちになったものである。
しかし、もちろん長いシーズンの中では好不調の波がある。そうした“波”が襲ってきたのが8月から9月にかけてなのだが、そんな時期でも川崎は1つしか負けなかったのだ。負けないチーム……。それも、今シーズンの強い川崎の強さの一面なのである。
第34節で優勝を決めた後のフラッシュインタビューで、鬼木監督は「ホッとした」と安堵の笑顔を浮かべたが、同時に「勝って終わりたかった」と苦笑いも見せた。
たしかに、せっかく1万に以上の観客が入った快晴の等々力での優勝決定という最高の舞台だったのだから、すっきりと勝って終わりたかったことだろうが、ある意味で「負けないチーム」という今シーズンの川崎らしさを示した終わり方だったような気もする。
今シーズン、リカルド・ロドリゲス監督が就任してチーム強化が進み、来シーズンは優勝候補の一角に名乗りを上げようかという浦和レッズを相手に、川崎はこの日も優勢に試合を進めた。何よりも、川崎の守備意識の高さが素晴らしかった。
開始直後の10分ほどは、浦和が川崎のパスをカットして素早く前線にロングパスを送って攻めるという狙いが効果的だったが、川崎が前線からのプレスを強化すると、次第に浦和は川崎のゴール前までボールを運ぶこともできなくなってしまった。
もちろん、この時間帯に中央の守備を固めて川崎に1点しか許さなかったことが、後半の同点ゴールにつながったのだが、前半の戦いを通じて浦和としてはチームの完成度の違いを痛感したことだろう。
浦和のキックオフで試合が始まって、浦和はボールをいったん戻してDFの岩波拓也が前線にフィードしようとした。だが、レアンドロ・ダミアンが早速前線で体を張ってこのボールをブロックしたのだ。その後も、レアンドロ・ダミアンやマルシーニョが浦和のGK西川周作に対して再三プレスをかけ、そのため西川や浦和のDFからのパスが乱れて川崎ボールになってしまう場面が何度もあった。
33分に川崎が先制し、浦和のキックオフで試合が再開された瞬間、レアンドロ・ダミアンはセンターサークル内に飛び込んで相手ボールを奪いに行った。
相手がパスを回そうとしても、川崎の選手が常に先回りしてボールを持つ選手を囲んで無力化してしまう。前半はそんな展開が続いた。
しかし、そんな川崎が試合終了間際に浦和に同点ゴールを許してしまった。
まるで、ルヴァンカップ準々決勝セカンドレグの浦和戦の再現のようだった。あの試合では、2点リードした状態から川崎は2連続失点して追いつかれ、アウェーゴールの差で敗退してしまった。
引き分けに終わってしまった原因は2つある。
まず、2点目が取れなかったこと。4月〜5月の攻撃力全開の頃と違っているのは、広いスペースを使ってロングボール1本で決定機につなげるような攻撃ができなくなっていることだ。当時は、パスをつないで相手をワンサイドに引き付けておいて、一発のロングボールでサイドを変えてフリーの味方を使う攻撃が有効だった。もちろん、相手に研究されたということもあるが、川崎の選手たちにもそういうカウンターの意識が薄れているような気がする。
そして、引き分けに終わったもう1つの原因は1点を守り切れなかったこと。
たしかに、最初に述べたように川崎の守備は素晴らしい。攻撃時にスペースを見つけるのがうまい川崎の選手たちは、守備に入った時にも危険なスペースを察知する能力が高いので、相手のパスコースを塞いでしまう。だから、相手がパスをつないで攻めてきた場合には川崎の守備がはまる。だが、相手がパスをつなぐことに拘泥せずにロングボールを蹴り込んできたときに、CBが相手FWにかわされてしまったり、あるいはゴール前の混戦を作られたりして失点することが多いのだ。
浦和との試合で、鬼木監督も最後の時間帯にはMFとして守備力の高い山村和也を入れるなど守備を強化して逃げ切りを図ったのだが、ちょっと中途半端だったような気もする。あの時間帯には、名古屋グランパスのマッシモ・フィッカデンティ監督のようにDFを増やして5バックにして割り切って守りに入るような選択も考えた方がいいのかもしれない。
そんな、いくつかの課題を改善していったら、川崎は来シーズンにはもっと強くなるだろう。ううん、しかし、川崎がこれ以上強くなってしまったら、Jリーグは面白くなくなってしまうのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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