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サッカー フットサル コラム 2021年10月4日

アジア予選は慎重な上にも慎重に戦え。監督交代は必要でもないし、あまりに危険なギャンブル

後藤健生コラム by 後藤 健生
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森保一監督

森保一監督

政治の世界では新しく岸田文雄氏が内閣総理大臣に就任した。第100代の総理大臣なんだそうだが、果たして政権は長続きするのか? それとも、11月に予定される総選挙の結果、政権交代が実現するのか?

サッカーの世界でも「政権交代」論を言う人がいるようだ。つまり、日本代表の森保一監督を交代させろというのである。

僕は、サッカーの方の政権交代には反対だ。監督交代など「暴論」だと思う。「今の時点では」という意味だが……。

「監督交代」論が増えたのは、9月に行われたワールドカップ・アジア最終予選の初戦で日本代表がオマーンに敗れたことがきっかけだった。

クラブチームでも、代表チームでも結果が出なければ、監督に対する批判が高まるのは不思議なことではない。

しかし、たしかに“格下”のオマーンに敗れたのは大波乱ではあったが、星勘定としては「たったの1敗」である。まだまだ、2試合を終えた段階では順位など気にすることもない。それも、主な敗因はコンディション不良だった。

こうした大会では「ホームでは勝利、アウェーでは引き分け」というのが定石だ。それで予選突破に必要と言われる勝点20を獲得できる。日本はホームのオマーン戦に敗れたが、「アウェー」(実際は中立地)の中国戦には勝ったので、ほぼ予定通りの発進ということになる。“予選突破の危機”なんかではまったくないのだ。

森保監督に対する批判が高まった原因の一つは采配に変化がないことだ。

たとえば、東京オリンピック準々決勝のニュージーランド戦。相手が守りを固めて日本はどうしても点が取れずに結局スコアレスのままPK戦に持ち込まれてしまった。PK戦には勝ったものの、ここで体力を使ってしまったことはその後の戦いに影響してしまった。

ニュージーランド戦では、攻撃力を高めるために積極的な選手交代をしかけたり、システムをスリーバックに変更をしたりできなかったものなのだろうか? 逆にスペイン戦では、守備強化のためにMFをもう一人増やすべきだったのではないか?

森保監督はもともと「スリーバックとフォーバックを使い分けたい」として、フル代表ではフォーバック、オリンピック・チームではスリーバックを多用していたはずなのだが、東京オリンピックでは6試合を通して4−2−3−1を貫き通した。

ワールドカップ本大会では強豪相手の戦いが続くので、やはりシステム変更も含めてもっと思い切って戦術的な変化を駆使することが必要になってくる。だから、予選を勝ち抜いた段階では、「本大会も森保監督でいいのか?」という議論をすべきだと思う。

しかし、予選の段階で監督交代を考える必要はない。第一、それはあまりにも危険なギャンブルだ。

各試合の前に2週間、いや1週間でもいいから代表合宿を組めるのなら、監督交代もありかと思う。

1997年のアメリカ・ワールドカップ予選で加茂周監督が更迭され、岡田武史監督が就任した時には、遠征中のウズベキスタンで5日間のトレーニングができたし、帰国してからは次のUAE戦まで2週間あったので、北澤豪をチームに加えて合宿をしてチームを改造することができた。当時は、全員が「国内組」だったからだ。

だが、今はそうはいかない。各国のクラブでプレーしている選手たちは、週末の試合を終えてから試合会場(今回はサウジアラビアのジェッダ)に駆け付けて2日ほどの調整を経て試合をしてから次の会場に移動。2戦目が終われば、すぐにチームは解散となる。2022年3月に最終予選が終了するまでは、そういった日程の繰り返しなのだ。

つまり、もし監督が交代しても、まったく準備期間が取れないのだ。

だから、「監督交代」というのは大きなギャンブルでしかないのだ。

もちろん、ギャンブルが必要な時もある。

たとえば、2018年のロシア・ワールドカップのグループリーグ最後のポーランド戦で、当時の西野朗監督は大きなギャンブルに打って出た。まだ、グループリーグ突破が決まったわけでもないのに、長谷部誠キャプテンをはじめ何人かの主力をベンチに置いてスタートしたのだ。決勝トーナメントに進んだ場合に、そこで戦う力を残したかったのだ。

そして、ポーランドに1点を先制された後、西野監督は「0対1のまま試合を終わらせる」というさらに危険なギャンブルをした。フェアプレーポイント差でセネガルを上回って2位に入るためだ。

結局、西野監督はギャンブルに勝って、日本は決勝トーナメントに進出。力を温存しておいたおかげで強豪ベルギー相手に激しい点の取り合いを演じて世界を驚かせたのだ。

日本がワールドカップ本大会で上位に進むためには、どこかでギャンブルが必要となる。だが、本当の優勝候補の強豪国はそんなギャンブルは行わない。主力を温存し、80%程度の力で余力を残しながらグループリーグを慎重に勝ち抜き、最後の本当の勝負に臨むのだ。

アジアでは、逆に日本が本命の立場なのだ。だから、日本はアジア予選ではギャンブルをすべきではない。ギャンブルをしなければならないのは、むしろ日本と対戦する相手チームの方なのだ。

森保監督というのは慎重な人物だ。どんな時でも、これまでともに戦ってきたメンバーで、これまで積み上げてきたもの(だけ)を使って戦うはずだ。急にメンバーを入れ替えたり、新しい戦術を取り入れるような冒険は犯さない。

「監督交代論者」たちはその辺が不満なのだろうし、僕も「ワールドカップ本大会も森保監督でいいのか?」と疑問を持つ。だが、アジア予選は慎重に戦った方が正解だ。実力的に上回る日本がギャンブルをする必要はない。

森保監督に対しては「もっと若い選手。オリンピック世代を起用すべき」という批判もある。だが、まったく代表経験のない選手を入れるのもギャンブルだ。なにしろ、合同トレーニングの時間がないのだから。

そもそも、今の代表チームには多くの若い力が加わっている。堂安律、久保建英、冨安健洋、田中碧……。オーバーエイジ組を除いても、オリンピック世代の選手たちは十分に戦力になっている。たとえば、2017年にリオデジャネイロ・オリンピック世代の選手がいったい何人フル代表に加わっていただろうか? 同様に、2013年にはロンドン世代は戦力になっていただろうか? それを考えてみれば、今回の代表は若手との融合に成功していることが分かる。森保監督が良いか悪いかではなく、兼任監督方式の成果であろう。

とにかく、アジア予選は現有戦力(30人ほどのラージグループ)を使って、慎重に戦っていけばいい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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