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フットサル 日本代表
またも、決勝トーナメント初戦での敗退である。
日本のサッカーは男女のあらゆるカテゴリーのワールドカップですべてグループリーグを勝ち抜いて決勝トーナメント進出を果たしている。また、FIFA主催のワールドカップではなかったが、8月から9月にかけて行われた東京オリンピックでも男子のU-24代表と女子代表が決勝トーナメント進出を果たしてしている(男子はベスト4)。そして、先日のビーチサッカーと今回のフットサルでも日本はグループリーグを勝ち抜いた(ビーチは決勝進出)。
200を超すFIFA加盟国の中でも、「すべての世界大会で決勝トーナメント進出を果たしている」というのは、日本だけ。しかし、そのほとんどの大会で日本は決勝トーナメント初戦を突破できないでいるのも事実なのである。
リトアニアで開催されているフットサルのワールドカップでも、それが繰り返されてしまった。
もっとも、ラウンド16での相手は、前回大会こそベスト4進出を逃したものの、1989年の第1回大会以来過去8大会中5度の優勝を誇る“フットサル界の絶対王者”ブラジルだった。そのブラジルに食い下がったのだから、日本代表の大健闘だったことは間違いない。
ブラジル戦の日本代表は開始4分に星翔太が遠目からシュートを放ち、これが相手GKグイッタの手を弾いてゴールイン。なんとブラジル相手に先制した。すぐに同点とされたものの、その後はブラジルに追加点を許さず、後半半ば過ぎまで1対1のスコアのままで凌いで粘ったのである。そして、31分にレオナルドに勝ち越しのゴールを奪われ、さらに38分にもピトにゴールを許して万事休したかと思われたが、その後、ブラジルが5ファウルを犯した(次に反則があれば、日本に第2PKが与えられる)ために引き気味になったのに乗じてパワープレーをしかけて西谷良介がミドルシュートを決めて再び1点差として追いすがった。
最後はパワープレー返しで1点を奪われて(記録上は加藤未渚実のオウンゴール)スコアは2対4となったが、最後まで「もしかしたら」と期待を抱かせ続けたエキサイティングな試合だった。
これだけ粘ることができたのはブラジル出身のゴレイロ(GK)、ピレス・イゴールの神懸かったというべき再三のビッグセーブと、同じくブラジル生まれのフィクソ(DF)、アルトゥール・オリヴェイラの的確な守備能力によるものが大きかったが、同時にチーム全員の献身的な守備も特筆すべきものだった。個人技に勝るブラジル選手に対して、けっして臆病になることなく、前線からプレスをかけ、シュート態勢に入った相手に体を寄せ続けることでブラジルに自由にプレーをさせなかったのだ。
ボール・ポゼッションで上回り、シュート数でも日本の倍をはるかに超えたブラジルだったが、日本の激しいプレッシングの前に思ったようにパスを回すことができず、苛立っていたのは劣勢の日本ではなく、ボールを持って攻めているはずのブラジルの選手たちだった。
チームとして組織が整った中での勇気ある前からのプレスと豊富な運動量に裏打ちされた分厚い守備は、世界のトップにも十分に通用したのだ。
しかも、日本の“善戦”は今大会これが初めてではない。グループリーグの第2戦でFIFAランキング1位のスペインと対戦した時も、日本のハイプレスはスペインのパスを分断することに成功していたのだ。
ブルーノ・ガルシア監督率いる日本代表が、「大善戦」と言っていい素晴らしパフォーマンスを発揮したことは確かだった。
前回2016年ののフットサル・ワールドカップ・コロンビア大会にはアジア予選で敗退して出場することすらできなかった日本にとって、その実力を見せつけた大会だった。
しかし、今大会を通じて日本が大きな課題を突き付けられたことも事実だ。なにしろ、日本はリトアニア大会で4試合を戦ったが、結果は1勝3敗だったのだ。
もちろん、「3敗」の対戦相手にはスペインやブラジルという世界のトップが含まれていた。だが、グループリーグ第3戦ではパラグアイを相手にほぼ互角の戦いを繰り広げたものの1対2と競り負け、その結果、日本はグループE3位に終わったのだ。24か国参加のこの大会、各組3位の中の上位4チームが決勝トーナメントに進出するが、日本は3位となった6チームの中で4番目の成績だった。まさに、間一髪でグループリーグ敗退を免れたという結果だった。
今後、ワールドカップで上位進出を果たそうと思うなら、パラグアイのような同格の相手にはきちんと競り勝って3位ではなく2位で決勝トーナメントに進むことも大事だ。2位と3位では次のラウンドでの対戦相手が違ってくるからだ。もっとも、今大会だけに関して言えば、たとえグループEで2位になっても、対戦相手がブラジルから前回優勝国のアルゼンチンに変わっただけだったのだが(日本を破って2位となったパラグアイはアルゼンチンと対戦して1対6と大敗を喫した)。
グループリーグではある程度余力を残しながら、確実にグループ1位か2位で決勝トーナメントに進むこと。これが、ワールドカップのような大会で上位に勝ち進むための必要条件となる。ワールドカップで本気で優勝を狙う国は、そういう戦い方実践しているのである。
日本がパラグアイのような相手に確実に勝利し、そして、スペインやブラジル相手に“善戦”するのではなく、ジャイアントキリングを起こすためには、攻撃力強化は欠かせない。
パラグアイ相手には、互角以上に戦っていたのに1点しか奪えなかったのが敗因だ。また、ブラジル相手に最後まで守り切るためには、攻撃を仕掛けて相手ゴールを脅かす場面を何度も作ったり、ボールを保持する時間を長くしたりすることが必要なはずだ。
ブラジルの2点目を決めたレオナルドのダブルタッチから右に抜け出して、早いタイミングで撃ってきた正確なシュート。あるいは、3点目を決めたピタの空中にあるボールを胸でコントロールし、落ち際を左足でコントロールしたテクニックのレベルの高さ。いずれも、日本の選手にはやはり真似のできないものだった。だから、2対4で敗れたブラジル戦は“善戦”であって、“惜敗”ではないのである。
本気でジャイアントキリングを起こすためには、やはりブラジル相手にでも攻める時間帯をもう少し長くするしかないだろう。
ワールドカップが終わると間もなくFリーグも開幕し、日本代表は3年後のワールドカップを目指すことになる。Fリーグに参加する各クラブの実力向上や、やや高齢化していた現代表に続く若手選手の発掘。そして何よりも、Fリーグの人気回復によってクラブ経営を改善して、選手の待遇を向上させることも必須だろう。
2020年開催予定だった今回のワールドカップについては日本サッカー協会も開催に手を挙げており、最後までリトアニアと競り合った。だが、次回大会には日本は立候補はしない意向のようだが、やはりフットサルの普及のためにも、代表強化のためにもワールドカップの日本開催を是非とも検討してほしいものだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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