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東京五輪にも出場した上田 綺世が鹿島を牽引する
横浜FMは8月12日の第18節延期分から3試合続けてニッパツ三ツ沢球技場で戦ったが、その“三ツ沢3連戦”以来絶好調だった。“3連戦”の初戦で強豪名古屋グランパスを相手に2対0で確実に勝利すると、大分トリニータには5対1、ベガルタ仙台には5対0と大量得点で勝利。仙台戦では後半に大爆発。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、僕は「あれっ、5点しか(!)入ってなかったのか」と思ったほどだった。
今の横浜FMのストロングポイントはサイドからの攻撃にある。
もちろん、サイド攻撃というのはどこのチームでも重要だし、2019年にアンジェ・ポステコグルー元監督の下、超攻撃的サッカーで横浜FMが優勝した時にも両サイドバックの松原健とティーラトンの動きが注目されたものだった。
もっとも、当時の松原やティーラトンの役割と、今の横浜FMのサイドバックの役割には違いがある。
2019年の横浜FMのサイドバックは、ボランチやインサイドハーフのポジションに進出することが注目されていた。時には(というよりもかなり頻繁に)サイドバックの選手が相手陣内のバイタルエリアまで進出して、フィニッシュに直結するプレーしていたものだ。両サイドバックが同時に相手陣内深くバイタルエリアに上がってパス交換をする……なんていう場面もあった。
しかし、2020年シーズンには両サイドバックが上がった後のスペースを相手に利用されることが多くなって、次第に攻撃参加の回数は減っていた。今シーズンも、「どのタイミングでサイドバックを上げるのか」、横浜FMがかなり苦労していたような時期もあった。
だが、8月にポステコグルー元監督(現セルティック監督)の後継者として招聘されたケヴィン・マスカットが監督に就任してから、サイドバックからのアーリークロスという武器が洗練されてきていた。
試合前のウォーミングアップの時、普通のチームはゴール前でコーチが出すマイナス気味のパスをゴールに思い切り蹴り込むような練習をする事が多い。だが、横浜FMの場合はボランチの選手がサイドバックにパスを出して、ペナルティーエリアのラインより後方から入れるクロスにアタッカーたちが飛び込むような実戦的な練習をしている。
狙いは明らかだった。
サイドバックとしては右は松原と小池龍太の2人が併用され、左はティーラトンが主だったが、最近はもともとMFだった和田拓也が起用されることも増えている。
あの5ゴールを奪った仙台戦も右は小池、左は和田が先発だった。そして、後半に松原とティーラトンが交代で起用されたのだが、その後、小池は1列前の右サイドハーフとしてプレーし、左の和田はボランチの位置に代わっていた。
そして、後半のアディショナルタイムも終わりに近い90+4分に横浜FMの5ゴール目が生まれたのだが、起点はセンターバックに入っていた岩田智輝からで、そこからサイドハーフの小池、ボランチの和田、そしてサイドバックの松原とつながり、松原のクロスを天野純が決めた。
つまり、左右のサイドバックで起用されている3人の選手がパスをつないで作ったチャンスだったのだ。
このサイドからの攻撃をどうやって止めるか。それが、これから横浜FMと対戦するチームにとってはテーマとなるはずだ。
第26節、横浜FMはアウェーでサガン鳥栖と対戦したが、ここでも横浜FMは4ゴールを決めて完勝した。そして、同日に行われた試合で首位を走っていた川崎フロンターレがアビスパ福岡に敗れたため、川崎と横浜FMの勝点差は1ポイント差に縮まり、さらに言えば得失点差も「+39」で完全に並んだのだった。
「この勢いなら、第27節にでも逆転の可能性あり」と多くの人達が思ったことだろう。
だが、第27節が行われた8月28日、まず14時からの試合が川崎は北海道コンサドーレ札幌に勝利して、この日の首位逆転はなくなった。内容的には札幌の方が良かったように見えたが、小林悠の活躍で川崎は勝利を手繰り寄せた。
そして、その夜に三ツ沢ではなく日産スタジアムで行われたホームゲームで、横浜FMは鹿島アントラーズに0対2で敗れ、川崎との差は再び4差に開いてしまったのだ。
鹿島は、見事に横浜FMのサイドを封じた。
ボールポゼッションは明らかに横浜FMの方が上だったし、両サイドバックが鹿島陣内深くまで攻め込む場面が多かったから、一見すると横浜FMが狙い通りに攻めているようにも見えた。
だが、実際には横浜FMのサイドバックは鹿島の守備陣に引っ張り込まれてしまっていたのだ。
本来は早いタイミングでアーリークロスを入れるのが狙いだったのに、クロスを入れるコースを鹿島のMFやDFにしっかりと切られてしまったので、横浜FMのサイドバックは鹿島陣内深くまで進入していった。だが、そうするとクロスを入れるタイミングが遅くなってしまうし、鹿島のサイドバックとサイドハーフが協力して横浜FMのサイドバックを抑えることができるのだ。横浜FMのサイドバックがなんとか、この守備をかいくぐってクロスを入れても、中央は鹿島のセンターバックとボランチでしっかりとケアさている。
こうして、相手にボールを持たせ、そしてかなり意識的に相手のサイドバックを自陣深くまで引っ張り込んで鹿島は割り切って守備に徹した。
そして、繰り出したカウンター攻撃が炸裂する。この試合で横浜FMはシュートを7本しか撃てなかったのだが、鹿島もシュートはたったの3本。それで2ゴールを決めてしまったのだ。
2点とも、右サイドから(横浜FMから見て左サイド)の攻撃だった。とくに2点目のゴールはこの日の試合を象徴するようなゴールだった。
つまり、横浜FMのサイドバックの和田が深い位置から入れたクロスを中央で鹿島のMF三竿健斗がカットし、そのボールをMFのディエゴ・ピトゥカがドリブルで運んだ。つまり、和田が攻めあがった後のスペースを狙った形だった。そして、最後はピトゥカが出したパスを右に開いていた上田綺世が受けて、ワンタッチでGKをかわして決めた美しいゴールだった。
ポゼッションにはこだわらず、しっかりした守備から入ってしっかり試合に勝つ……。これこそが、鹿島の戦いだ。そして、この日の鹿島の勝利はこれから横浜FMと戦うチームにとっても大きなヒントとなったのではないだろうか。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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