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第101回天皇杯全日本選手権大会は4回戦(ラウンド16)8試合のうち7試合を終了(ガンバ大阪対湘南ベルマーレの試合は9月22日に実施)。JFLのヴェルスパ大分と対戦したジュビロ磐田を除いて、勝ち残ったのはすべてJ1リーグ勢。例年になくジャイアントキリングが少ない4回戦となった。
そんな中で、昨年度優勝の川崎フロンターレは2連覇とともに、J1リーグとの二冠を目指して戦っている。いや、川崎はYBCルヴァンカップでも準々決勝まで勝ち上がっており、さらにAFCチャンピオンズリーグでも9月にラウンド16の戦いが待っている。つまり、現在のところ川崎は最大四冠の可能性を残しているのだ。
ところが、天皇杯では川崎は苦戦続きだ。
J1クラブが初めて登場した2回戦では、川崎はJ3リーグのAC長野パルセイロ相手に1対1の引き分けからPK戦で勝利。そして、J2リーグのジェフユナイテッド千葉との3回戦でも、川崎はやはり1対1のスコアで引き分けに終わり、PK戦で勝ち上がってきた。
そして、迎えた4回戦(8月18日)で、川崎はJ1リーグの清水エスパルスと対戦して2対1のスコアで今大会初めて90分以内で勝利した。しかし、清水戦でも57分に小林悠のPKで先制したものの64分に追い付かれる苦しい展開だったことに変わりはない。
相手がしっかり守ってカウンターを狙ってくると、カップ戦では強豪チームが苦戦するものだ。そして、川崎苦戦の最大の原因は主力を温存して戦っていることにもある。
清水との4回戦では、川崎の鬼木達監督は1、2回戦以上にメンバーを変えてきた。
GKの鄭成龍(チョン・ソンリョン)と右サイドバックの山根視来は不動のメンバーだが、DFラインは右から山根、山村和也、車屋紳太郎、旗手怜央。旗手はレギュラー格の選手だが(もちろんU-24日本代表の一員でもある)、川崎では最近はサイドバックよりもMFとして出場することが多い(左サイドバックのレギュラーは登里享平)。中盤はアンカーに谷口彰悟。インサイドハーフに橘田健人と小塚和季。ワントップは小林で右に遠野大弥、左に宮城天。
従って、ベンチにはジェジエウ、ジョアン・シミッチ、脇坂泰斗、家長昭博、レアンドロ・ダミアンという豪華なメンバーが座っていた。
この夏の移籍期間に、川崎からは進境著しいMFの田中碧とドリブラーの三笘薫の2人が海外移籍を遂げた。しかも、大型補強をするクラブも多い中、川崎の補強はFWのマルシーニョだけ。MFの橘田や遠野、小塚の3人。そして、左サイドで三笘ばりのドリブルを見せる宮城といった若手の成長が期待されているわけである。
実際、今シーズンは当初からこうした若手選手が積極的に起用されていたし、三笘と田中が抜けた後はチーム内競争がさらに活性化しているようだ。
ジェフユナイテッド千葉との3回戦(7月21日)では、MFとして起用された橘田が素晴らしい動きとキレのあるダッシュで、川崎の中盤にこれまでなかったスピード感を注入したし、つい先日の柏レイソル戦(8月14日)では、途中交代で入った宮城が三笘のクネクネドリブルを髣髴させるようなドリブルを披露し、58分からの出場でシュートを3本も打ってみせた(内1本はポスト直撃)。
そんな期待の若手を多く並べたのが清水戦の川崎であり、そして、前半から「さすが川崎」という展開ではあった。
メンバーは変わっても、止める、蹴るという一つひとつのプレーが正確なのは「さすが川崎」で、いつものように面白いようにパスがつながる。そして、宮城や旗手が左サイドから積極的にシュートを狙い、橘田、小林、宮城が絡む川崎らしいパス回しも見られた。公式記録によれば、前半のシュート数は川崎の13本に対して清水は2本。圧倒的に川崎がゲームを支配していた。
ところが、どうしても得点が入らないのだ。
パスは確かに回っている。敵陣まで攻め入ることもできている。だが、フィニッシュの前段階でのパスは回っているが、相手を崩し切れていなかったのだ。
痛かったのは、アンカーポジションに入っていた谷口の故障だった。
谷口は、前線に鋭いパスを連発し、しかもパスの角度を急激に変えることで相手の守備を攪乱し続けていた。田中が退団し、大島僚太は負傷中という川崎の中盤の事情を考えれば、もし、車屋や山村などがセンターバックとして定着できるのなら、鬼木監督としても谷口は中盤で起用したいところだろう。
こうして、川崎の攻撃は完全に谷口を中心に回っていたのだ。ところが、前半19分に相手選手と接触した谷口は治療をしていったんは復帰したものの、22分に交代となってしまった。
谷口の交代で橘田がアンカーに回ったのだが、やはり荷が重かったのか、期待通りのプレーはできなかった。また、開始直後は積極的にシュートを狙っていた宮城も、相手DFとの当たりで劣勢になったことで次第にプレーが消極的になってしまった。
それでも、57分にPKで先制した川崎だったが、64分にはロングボールからつながれ、後藤優介からの大きなクロスを中山克宏に決められてしまう。その後、再び川崎がパスを回すものの、相手の守備を崩しきれないで時計の針だけが進んでいった。2回戦、3回戦と同じ1対1のスコアだ……。そして、69分、ついに鬼木監督はレギュラー組の主力を3人同時にピッチに送り込んだ。
アンカーにはジョアン・シミッチ、ワントップにはレアンドロ・ダミアン。そして、左サイドにも長谷川竜也が入った。
効果は覿面だった。
新しく入ったレギュラー組の攻撃陣はもちろん、前半から出ていた選手も含めて展開が明らかに変わったのだ。レギュラー組が入ったとたんに、1人々々の動きが大きく、そして速くなったのだ。「いつもと違うメンバー」が出ていた時には、互いの動きを確かめるように慎重にプレーする場面が多く、きれいにパスは回っていても相手の弱点をえぐるような動きはなかった。それが、主力組が入ったとたんに、いつもの川崎の動きに戻ったのだ。
そして、主力組投入のわずかに5分後に決勝点が決まった。ジョアン・シミッチが右サイドから左に大きくサイドチェンジ。受けた旗手が思い切りよくペナルティーエリア内の奥、ゴールラインいっぱいまで強引に持ち込んで、中央にいたレアンドロ・ダミアンに正確なクロスを送り、レアンドロ・ダミアンは、浮いたボールを頭で叩きつけるだけだった。
ただ、きれいにパスを回すだけでは相手の守備は崩れない。相手がいちばん嫌なところに絶妙のタイミングでボールを送り込み、またドリブルで持ち込んでいく。これが、「相手を崩す」ということなのだ……。それは、まるでレギュラー組の選手から、この日出場した経験の浅い選手たちへのレッスンであるかのようだった。
これから、リーグ戦に加えてカップ戦やACLもあって、日程は過密になっていく。三笘と田中が抜けた川崎が、これらのコンペティションで好結果を残競るのか否か。それはすべて、「若い選手たちが清水戦でのレッスンから何を学んだのか」にかかっているのではないだろうか。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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