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それでも、先にスコアを動かしたのは、おなじみの黄色いユニフォームを纏ったカナリア軍団。前半終了間際の35+2分。年代別代表にも選出されている齊藤慈斗のパスから、前野翔平は左サイドを粘り強く運んでシュート。ボールは雨粒を切り裂いて、ゴールネットへ突き刺さる。
後半開始早々には、ややディフェンスラインの連携が乱れた隙を突かれ、手痛い失点を許し、スコアを振り出しに引き戻されたものの、そこから米子北が何度も作り出した決定機は、岸本が抜群の反応で再三のファインセーブ。58分には再び齊藤のアシストから、予選の準決勝でも全国出場を手繰り寄せる決勝点を挙げた福地亮介が勝ち越しゴール。苦しい中でも最後に勝ち切っている展開は、ある意味で帝京が大舞台で披露してきた“十八番”。4分のアディショナルタイムが掲示された時、11年ぶりの全国勝利をおそらくはほとんどの選手も確信していたに違いない。
ところが、ほとんどラストプレーだった70+4分。エリア内へ相手の侵入を許すと、まさかの同点弾を献上。勢いに乗った米子北がPK戦でも6人全員がきっちり成功させたのに対し、帝京は6人目のキックがストップされ、万事休す。久々の全国での1勝は、次回以降の機会へと持ち越される結果となった。
「2点も獲って勝てないのは自分のせいなので、迷惑を掛けてしまったなという印象ですね。個人として良かった部分はありますけど、勝たなきゃ意味がないと思うので」と自身に敗因を求めた岸本の奮闘は、特筆に値する。
何度もチームを救ったファインセーブはもちろん、PK戦でもプレッシャーの掛かる5人目のキッカーとして、見事にキックを成功。「『蹴りたいヤツ?』っていう話になった時に、日比(威)先生には『1番目行くか?』と言われたんですけど、『1番目はさすがにちょっと…』と言って、順番が決まっていく中で『じゃあ5番目行くわ』と。自信はあったので、コースを狙って蹴りました」。GKとしても相手の3本のキックには触っていたが、雨で重くなった上に滑りやすいボールの影響もあって、ストップとはいかなかったものの、ゲームキャプテンの重責は果たしたと言っていいだろう。
PK戦が終わった直後。膝に巻いたサポーターも痛々しい藤本が、ベンチの前で泣いていた。この日のスタメンの内、9人が2年生。この経験を生かす場は、まだ十分過ぎるほどに残されている。
「率直に楽しかったし、もっとみんなでこの舞台でサッカーをやりたかったなという想いは強いですね」。名残惜しそうにスタジアムを後にした岸本の姿が印象深い。カナリア軍団、復権へ。この悔しい惜敗がその序章だったと言われる日が来る可能性は、これからの彼らがどういう日常を過ごしていくかに懸かっている。
文 土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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