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サッカー フットサル コラム 2021年8月2日

日本選手団は好調のようではあるが・・・。「東京2020」とは何のための大会なのだろうか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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東京都の新型コロナウイルスの新規感染者数が4000人を超えるなど急拡大を見せる中、政府とIOC(国際オリンピック委員会)が強行開催した東京オリンピック。“開催の是非”については閉幕後も多くの議論を呼びそうだが、大会はほぼ順調に日程を消化。日本選手団は、地の利を生かして好調の柔道チームが引っ張っられてメダル獲得数を増やしている。

「金メダル17個は史上最多」(7月30日現在)だそうである。

もっとも、前回(57年前)の東京オリンピックで16個の金メダルを獲得した時には、種目数は現在のほとんど半分だった。従って、現段階では「前回の東京大会を超えた」とはまだ言えないだろう。

たとえば、柔道は7月30日までに7個の金メダルを獲得したが、57年前の大会では柔道は男子だけの競技で、階級も軽量級、中量級、重量級、無差別級の4階級しかなかった。つまり、獲得できる金は全部で4個で、無差別級ではオランダのアントン・ヘーシンクに優勝を奪われたので、柔道で日本が獲得した金メダルは3つだけだった。

現在では競技数自体が大幅に増え、またすべての競技に女子種目が設けられるなどして、種目数(金メダル数)は当時から倍増したというわけである。

いずれにしても、日本選手団は(競技によって悲喜こもごもではあるが)好調であるのは確かなようである。

僕自身も、毎日テレビチャンネルをザッピングしながら各競技を楽しんでいる。

もちろん、サッカーの日本代表の試合はすべてテレビ観戦しているし、先日は宮城スタジアムまで女子代表の試合(チリとのグループリーグ最終戦)を観戦に行ってきた。

かつて、サッカーの日本代表がアジア予選を突破できず、オリンピックに参加できない時代が長く続いた。1968年のメキシコ大会で銅メダルを獲得した後、1996年の大会に西野朗監督、前園真聖主将のチームが参加するまで(その初戦でいきなりブラジルを倒す「マイアミの奇跡」を起こした)、サッカーはオリンピックでは“蚊帳の外”だった。

当然、テレビ中継でもなどほとんどなく、「オリンピックでサッカーもやってるんですか」とよく聞かれたものだ。

だが、今では日本戦はもちろんすべて生中継され、ネット配信を使えば他のカードも全部見られるありたがい時代となっている。

しかし、ネットでサッカーの試合を見るよりは、どうしても他の競技を見てしまう。

オリンピックのサッカーは23歳以下の選手による大会だし、たとえばフランスやドイツは「その世代」の最強メンバーを派遣できなかった。

一方、他の多くの競技には世界最高峰の選手たちが出場して真剣勝負を繰り広げているのだ。従って、ザッピングしながらオリンピックを観戦するのはスポーツ好きにとっては無常に楽しい半月間である。

しかし、「では、東京オリンピックの開催は成功したのか?」と問われれば、やはり素直に「イエス」とは答えられない。

新型コロナウイルス感染の拡大によって政府やIOCが強調していた「安心・安全な大会」が実現しているとは誰も思っていない。「バブル方式」にしたって、破綻していることは明らかだ。

大会開催を巡っては、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長が東京大会招致活動を巡っての贈賄の疑いを受けて辞任。大会組織委員会の森喜朗会長は「女性蔑視発言」を巡って辞任とスキャンダルが相次いだ。大会直前になっても、開会式の演出担当者が相次いで辞任に追い込まれ、日本社会の遅れた体質が世界に伝えられることとなった。

せっかく巨額の資金を投じて開催した東京大会だが、どうやら日本という国に対するイメージアップにはつながらなかったようなのだ。

7月23日に行われた開会式でも、日本からのメッセージが伝わったようには思えなかった。1824台のドローンを使って上空にエンブレムを模した市松模様や地球を描き出したショーとか、森山未來のパフォーマンスなど目を引き付けるような演出もあったし、全体として過剰ではなく、抑えた演出も良かった。

だが、全体として日本はあの開会式を通じてどのようなコンセプトやメッセージを伝えたかったのか、僕にはよく理解できなかった。まして、世界各地でテレビ画面を通じて視聴している、文化的、社会的背景の異なる人々にそれが伝わっていたとは思えない。

部分部分はよく出来たパフォーマンスではあったのに、全体を通じてのコンセプトの希薄さ……。何か、現在の日本という国を象徴していたかのようにも思えてくる。

そういえば、メイン・スタジアムとなった新国立競技場についても、同じようなことが言える。

新国立競技場は良くできたスタジアムだ。4面が同じ高さのスタジアムに囲まれ、またスタンドの傾斜もあって、競技に集中できるし、スタンドの傾斜とトラックからスタンド最前列までの距離が短いため、陸上競技場としてはサッカーの試合も見やすい設計だ。

木材をふんだんに使った屋根の構造は軽やかな印象を与えるし、入退場時の導線のスムースさも確保されている。また、自然の風を取り込むための工夫などもあり、美しいスタジアムだとは思う。

だが、1500億円をかけて建設したこのスタジアムをこれからどのように活用していくのかという後利用計画がまったくないのだ。

そもそも、この新スタジアムを建設することになったのは2019年のラグビー・ワールドカップのためだった。オリンピック招致成功は、あのザハ・ハディド案による建設計画が決まった後だったのだ。

ところが、ザハ・ハディド案は建設費が3000億円を超えることが明らかになって白紙撤回となり、設計をやり直すことになったため、ラグビー・ワールドカップには完成が間に合わなくなってしまい、決勝戦は横浜国際総合競技場(日産スタジアム)で行われた。

そして、スタジアムにとっての最初のビッグイベントが東京オリンピックの開会式だったのだが、大会は無観客開催となってしまい、6万8000人収容の巨大スタンドは活用されなかったのだ。

陸上競技場としては大きすぎ(しかも、サブトラックがない)、サッカーやラグビーに使うには陸上用トラックがあるためにスタンドからピッチまでの距離が遠すぎる。東京近郊にさまざまなスタジアムが存在する現在では、オリンピック・パラリンピック終了後もこのスタジアムが活用される機会は限られたものとなってしまうだろう。

優れた性能の製品を開発できても、コンセプト自体の方向性が違っていたために失敗に終わってしまう。日本はやはりリーダー不在の“ガラパゴス国家”なのであろうか。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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