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サッカー フットサル コラム 2021年7月25日

オリンピックでメダルを狙う男女のサッカー代表。初戦はともに集団サッカーができず、「個の力」で勝点を確保

後藤健生コラム by 後藤 健生
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自国開催となるオリンピックで男女そろってのメダル獲得を目指しているサッカーの日本代表だが、女子(なでしこジャパン)は初戦でカナダと引き分け、2戦目では優勝候補の一角イギリスに対してよく守っていたが、75分、日本側から見て左サイド深くに入れられたボールでセンターバックの南萌華が引き出され、最後はエレン・ホワイトのヘディングの前に沈んで2戦を終えて勝点1という苦しいスタートとなった。最終戦で格下のチリに勝利すれば2位通過の可能性も残すが、逆に勝を逃せばグループリーグ敗退の危険もある。

“2位争い”という意味で重要だった初戦のカナダ戦では、日本は開始からわずか6分で失点を喫してしまった。日本の左サイドからのマイナス気味のクロスに対して、CBの熊谷紗希が相手のトップの選手に引き付けられ、その後方にできたスペースに38歳の大ベテラン、クリスティーン・シンクレアが走り込んできたのだ。シンクレアのシュートはいったんはポスト内側に当たって跳ね返ったが、ボールは再び走り込んだシンクレアの足元に戻ったのだ。

その後も、カナダはサイドを突破してチャンスを作ったが、日本のセンターバックコンビ(熊谷紗希と南萌華)がしっかりと守り切った。大会直前のオーストラリアとの強化試合以来、2人のCBは堅固な守備を見せている。

カナダ戦もイギリス戦も、左サイドを破られて南が引っ張り出される場面が多いのが気になるが、全体として守備はきちんと仕事ができている。ただ、その後の戦略が存在しないのだ。

カナダ戦では1点を奪われてからは日本がボールを持つ時間も増えていった。カナダが必ずしも高い位置からプレスをかけてこなかったからだ。カナダは日本がカナダ陣内に入ったあたりからプレスをかけて日本の攻撃を封じ込んだ。さらに、カナダのCB(とくにブキャナン)は強力で日本のワントップ菅澤優衣香は完全に封じ込められてしまった。

エースの岩渕真奈はカナダDF相手にも優位にプレーできたものの、菅澤が消されてしまったことで前線で孤立する場面が多かった。

このあたりの展開を見ていて思い出したのが、数年前までの男子の日本代表の試合だ。

まず、第一は立ち上がりでの失点。

日本の選手がヨーロッパや南米、アフリカのチームと対戦すると、どうしてもパワーやサイズで劣る場合が多い。キックオフ直後の両チームともに元気な時間にはそのパワーの差が大きくなるのだ。つまり、いわゆる
「無酸素運動」では筋肉量が多い方が優位に立つからだ。

もちろん、持久系の能力で比較すれば日本の選手たちは互角か優位に立って戦える。従って、時間の経過とともに態勢を立て直すことはできるのだが、序盤に失点を喫してしまうとその後は挽回するためにかなり大きなパワーが必要となってしまう。

10年ほど前まで、男子の試合でもそういう展開をよく目にした。たとえば2004年のアテネ・オリンピックに出場したU-23日本代表は立ち上がりの失点を重ねて良いところなく敗退した。

そして、もう一つ。日本は中盤でパスをつなぐ技術は高いが、ゴール前の迫力に欠けるので、相手チームが日本にボールを持たせるような戦い方をしてくることが多かった。カナダ戦と同じである。

つまり、決定力不足の日本に中盤でボールを持たれても危険は小さいので、日本と対戦する時は中盤ではボールを持たせてゴール前をしっかり守る。そして、カウンターで点を取るのが最も効率的というわけである。

日本がブラジル代表と戦うと、必ずのようにこのパターンでやられてしまったものだ。

最近、男子の日本代表はワントップにも大迫勇也という前線でボールを収めて起点を作れる“半端ない選手”が登場したこともあって、次第に決定力も身に着けてきており、個の力での打開もできるようになってきた。

東京オリンピックに出場しているU-24日本代表は初戦で南アフリカと戦った。この試合は日本が完全にゲームを支配していたのだが、ファイブバックで守る南アフリカの守備を攻略することができなかった。決定機は何度も作ったのだが、初戦の硬さのせいなのかシュートがなかなか枠をとらえない。それでも焦れずに戦えたあたりは安定感を感じさせたが、しかし、残り時間も少なくなってくる……。

そんな嫌な流れの中、71分に久保建英がまさに「個の力」によって打開して見せた。

遠くのスペースを見る眼を持つ田中碧が、右サイドから左で張っていた久保にロングパスを通して一気にチェンジサイド。そして、久保はワンタッチでコントロールすると「中に切れ込んで左足のシュート」という、彼が最も得意とするシュート・パターンで仕留めたのだ。

ただ、女子代表の場合はトップが非力なのでパスをつないでチャンスを作ることができないと苦くなってしまう。そう、かつて男子代表がブラジル代表によくやられていたのと同じような状態だったのだ。こうして、カナダがリードしたまま試合は終盤に差し掛かった。

そこに救世主として登場したのが、「10番」岩渕だった。

男子のU-24代表が田中 → 久保のホットラインで崩したのと同じように、前線の岩渕の動き出しを見逃さなかった長谷川唯が相手DFラインの裏を狙ってロングボールを蹴り込み、それを追った岩渕が相手DFとGKの位置と動きをよく見て、ボールがバウンドするのに合わせてコースを狙うシュートを決めた。

得意のパス・サッカーでゴールを陥れることができずに苦戦した「なでしこジャパン」と男子のU-24代表。ともに、最後は「個の力」でゴールをもぎ取った形になったが、これからより強い相手と戦って勝ち抜いていくためには、やはりチームとしてパスで崩してゴールを生み出していかなければならないだろう。

とくに、女子の場合はトップを務める菅澤や田中美南にボールが収まる回数がそれほど増えることはないだろうから、パスを回して3人目、4人目が中盤からの飛び出すような形を作るか、高い位置で相手ボールを奪ってのショートカウンターの形を作らないと活路を見出すことは難しい。

なでしこジャパンにとっては、トップを菅澤にするか、田中にするかという問題もある。

高倉麻子監督は、ワントップとしては菅澤を中心にチームを作ってきた。菅澤はたしかに日本国内の試合ではボールを収めることのできるターゲットとして長く活躍している素晴らしい選手なのだが、国際試合になると屈強なDFを相手にボールを収めることが難しい。

カナダ戦の後半は田中が交代出場し、前線に飛び出すスピードを生かしてチャンスを作ってPKも獲得した(自ら蹴ってGKに止められてしまったのだが)。

ワントップとしては田中の方が有効であるような気もするが、しかし、相手にパワーが残っている前半でも田中の動きが通用するかどうかは、何とも言えない。とにかく最終戦ではしっかり勝って、他会場の試合結果を待ちたい。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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