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東京オリンピックでのメダル獲得を目指すサッカーのU-24日本代表。
選手や監督が現段階でできることのうち最も重要なこと。それはコンディショニングだ。初戦が行われる7月22日に向けて、全員のコンディションを整える作業である。
しかし、これはかなり難しい作業でもある。
ヨーロッパのクラブに所属している(いた)“海外組”にとって、7月はシーズンオフに当たる。そして、彼らは6月の国際試合以来、1か月以上にわたって実戦から遠ざかっていたのだ。
一方、Jリーグ・クラブに所属している選手たちは今がシーズンの真っただ中。疲労は溜まってきているだろうが、コンディション的に大きな問題はない。
ただ、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場した選手たち(川崎フロンターレの三笘薫と旗手怜央、名古屋グランパスの相馬勇紀)は、タイやウズベキスタンの過酷な環境の中で連戦を強いられて疲労を溜め込んだ状態で代表に合流した。
ただ、名古屋と川崎は第5戦終了時点で首位通過を決めたので3人は最終戦を回避できた。これは、代表の森保一監督にとっては朗報だった。また、MFの中心選手である田中碧はドイツ移籍が決まったためACLに参加しなかった。J1リーグ開幕以来、ほぼ全試合に出場して疲労を溜め込んでいた田中にとってはちょうど良い休息になったはずだ。
このように各選手のコンディショングは完全にバラバラだった。それを、7月5日からの合宿の間に整えて22日の開幕を目指しているのだ。実際、7月12日のホンジュラス戦を見ていると、日本の選手たちの何人かは前半の終わりころからすでに足が止まり始めていた。
さて、そんな日本チームの中で大きな不安材料があるとすれば、センターFWとして活躍が期待されていた上田綺世の故障というニュースである。「脚のつけ根付近の肉離れ」とのことで、発表では復帰時期は7月21日から7月28日とされていたが、もう少し早い時期には復帰できそうだという。しかし、コンディション調整は遅れているらしい。
オリンピックのメンバーはオーバーエイジ3人を含めて18人とされていた。18人の中に故障者が発生した場合に、この4人と交替するのである。
ところが、7月1日になってFIFAは「東京オリンピックだけの例外として、メンバーを22人とする」と発表したのだ。つまり「バックアップメンバー」を含めた22人全員を起用することができるというのである。ただし、ベンチ入りは18人で、22人の中から試合ごとにベンチ入りの18人を決めるというのだ。
これは、間違いなく「朗報」だ。
もし、登録メンバーが18人のままだったら、森保監督はメンバー選びに頭を悩ませていたはずだ。つまり、CFの上田は現在は故障中だが、回復の可能性があるのだ。ただし、初戦に間に合わせるのは難しい。では、バックアップメンバー(唯一のFWは林大地)と交替させるべきか、それとも上田の回復を信じてメンバーの入れ替えは待つのか……。きわめて難しい選択である。
ところが、22人全員がメンバーに入れることになったのだ。上田が初戦に間に合わないのであれば、初めの1、2試合はCFとして前田大然と林の2人を起用すればいいし、上田が回復すれば、それ以降はタイプの違う3人のFWを対戦相手によって使い分けていくこともできる。
いずれにしても、チーム構成が18人というのは各国の監督にとっては大きな悩みどころだったはずだ。
ワールドカップでは登録メンバーは23人だ。女子ワールドカップやU-20、U-17といった年代別ワールドカップなどでも、いずれも登録は23人だ。「GKが3人。そして、他のポジションがそれぞれ2人ずつ」という考え方である。
ところが、中2日での6連戦という超過酷な日程で行われるのオリンピックの場合は登録は18人しか認められていなかったのだ。それが22人に増えたのは、参加するすべての国の監督にとって朗報だったはずだ。
もっとも、22人の中から試合ごとに18人のベンチ入りを決めるという、これまた難しい作業も監督の仕事になってしまったのだが……。そして、ベンチ入りが18人ということは、控えの7人ぬち1人はGKだから、残りは6人。FW1人を投入した後、監督が「もう1人FWを入れたい」と思っても、ベンチにはFWは1人も残っていない。そんな事態も考えられる。
ヨーロッパ各国のリーグ戦では、ベンチ入りの人数はJリーグより多く、各ポジションに複数人をベンチに置けるので、監督はより自由に選手交代を使うことができる。
オリンピックの場合も、せっかく22人が正式メンバーとなったのだから、全員のベンチ入りを認めてもらえば監督たちにとって本当の朗報となっていただろうに……。
「22人登録・ベンチ入り18人」という決定は、おそらくFIFAとIOCとの間の妥協の産物なのであろう。
そもそも、サッカーのメンバーが18人となったのは、IOCに参加選手数をできるだけ少なくしたいという思惑があったからだ。
オリンピックについては以前から「肥大化」が問題視されてきた。競技数も種目数も拡大し、参加選手数もそれに伴って急造してきた。2021年の大会は、1964年の東京大会に比べてすべてがほぼ2倍に増加している。
当たり前だ。IOCはオリンピック人気を維持するために、次から次へと新競技を追加してきた。実施競技数を増やせば、ますます多くの国でテレビ中継が行われ、IOCが手にする放送権料も増えることになる。
しかし、選手数が多くなれば「肥大化」の批判も激しくなり、開催都市への負担が大きくなれば、将来は開催に名乗りを上げる都市がなくなってしまうかもしれない。だから、IOCは参加選手数を増やしたくないのだ。それで、サッカーも登録メンバーを18人とされたのだ。
一方、FIFAとしては事実上のU-23の世界選手権であるオリンピックのサッカー競技では、レベルの高い試合をさせたい。そのためには、ベンチ入りの人数を増やす必要がある。
そこで、FIFAは「コロナ禍の東京大会だけの例外」という形でIOCに22人登録を認めさせたのだろう。しかし、IOCは肥大化の印象だけはぜひとも避けたい。そこで、「ベンチ入りは18人」というなんとも姑息な数合わせをした。それが、今回の決定だったのだろう。
いずれにしても、22人登録が可能になったことによって、日本チームは「上田問題」で悩まなくてもよくなった。そして、バックアップとして普通だったらスタンドから試合を見守るしかない立場だった林大地には貴重な出場機会が与えられたのだ。
そのチャンスを生かして、林大地選手が活躍してくれることを期待したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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