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好調のチームと不調にあえぐチームの差なのだろうか。前半のうちに攻撃の中心選手であるマルコス・ジュニオールを退場で欠いた横浜F・マリノスが、数的優位に立った柏レイソルを破ったJ1リーグ第21節。7月に入って最初の試合である。
横浜FMはこれでリーグ戦は5連勝。現在のチームを作り上げたアンジェ・ポステコグルー監督は退任してしまったものの、好調を維持して勝点を43にまで伸ばした。首位の川崎フロンターレとは勝点差12あるが、横浜FMは消化試合数が2試合少ない。
試合は柏のリズムで始まった。
柏は大南拓磨、高橋祐治、古賀太陽のスリーバック。というより、右サイドの高橋峻希と左の三丸拡も加わったファイブバック。その前に、中央にヒジャルジソン、右に神谷優太、左に三原雅俊と3人のセントラルMF(ボランチ)配置して守備のブロックを構築した。
横浜FMが縦に入れてくるボールを、この守備の網でカットする。そして、奪ったボールは最終ラインから直接のロングフィード、または両サイドからのクロスでペドロ・ハウルと瀬川祐輔のツーップに入れる。そして、ボランチ3人のうち、神谷が右サイドを中心にスペースに上がって攻撃に加わる。
この戦い方が、うまく機能したのだ。
早くも4分にはGKのキム・スンギュが蹴ったロングボールをペドロ・ハウルが拾って右に持ち出し、上がってきた神谷がシュートを狙うチャンスを作った(DFに当たってCK)。その後も、ボールは横浜FMが握るものの、チャンスはむしろ柏に多かった。そして、不思議とこぼれ球は神谷に集まった。神谷が、キーになりそうな気はしていた。
なかなか、チャンスが得点には結びつかなかったものの、柏としてはこのリズムを維持したい……。そんな前半も終盤に差し掛かった時間帯(31分00秒)だった。
自陣深くでボールを右に展開した神谷に対して、横浜FMのマルコス・ジュニオールがタックルを仕掛けるが、これが明らかなレイトタックル。しかも、マルコス・ジュニオールの足裏は神谷の左足首をとらえていた。
谷本涼主審はこのプレーがよく見えなかったようで、反則の笛は吹いたものの、カードは提示しなかった。だが、ここでVARの飯田淳平からチェックが入った。
得点やPKに絡まない中盤でのファウルに対しVARが介入できるのは、「レッドカードではないか?」という疑いがある場面だけである。そして、オンフィールド・レビューを行った末にマルコス・ジュニオールにはレッドカードが提示され、横浜FMは1人少なくなってしまった。
それまでもペースを握って試合を進めていた柏にとって有利な状況が生まれたと思われた。だが、そう単純に話が進まないところがサッカーという競技の面白いところだ。
柏にとっての誤算の第一は神谷の戦線離脱だった。
5分を超える中断の間に治療を終えた神谷はいったんはピッチに戻ったものの、アディショナルタイムに退かなければならなかった。柏のネルシーニョ監督の選択は、システムなどはそのままで、同じMFのドッジの投入だった。そして、ハーフタイムにもネルシーニョ監督は動かなかった。
数的優位を得たのだから「より攻撃的に変更する」というプランも頭によぎったことだろう。しかし、それまで5−3−2のシステムがうまく機能していたからこそ、それを継続したかったのだろう。
1人少なくなった横浜FMは、当然、より守備的になる。
後半開始から中盤に喜田拓也を入れて、扇原貴宏、岩田智輝と3人のボランチを配置して、マルコス・ジュニオール退場前までの4−2−3−1から4−3−2に変更する。
「相手の攻撃をしっかり受け止めて、そこからトップを使って展開する」というこの日の柏のプランが通用しなくなったのだ。
マルコス・ジュニオールの退場以降、柏はチャンスらしいチャンスを作れなくなってしまう。もちろん、数的不利の横浜FMも有効な攻め手がなくなり、膠着状態が続く。
本来ならば、数的優位にある柏が先に何かを変えて仕掛けるべきだったのだろうが、16位という微妙な順位にある柏としては、勝点3を奪いに行くよりも、「勝点1を失いたくない」という気持ちもあったことだろう。また、膠着状態に陥ったゲームで何かを変えて逆にバランスを崩してしまうことも恐かったのだろう。
こうして、なかなか手を打てないまま時間が経過し、そして63分に両軍ベンチが同時に動いた。
柏はトップにクリスティアーノを入れて、ペドロ・ハウルとのツートップとしたものの(トップだった瀬川が2列目に)、システムやバランスは大きく変えなかった。一方、横浜FMはMFとして攻撃的な天野純が入り、さらに左サイドバックにティーラトンを入れ、右の小池龍太とともにサイドバックが攻撃に参加する回数を増やすことで、1人少ない横浜FMが攻めの姿勢を強化した。
そして、横浜FMが2ゴールを決める。
76分の1点目は高い位置から左サイドバックのティーラトンが蹴ったロングフィードを前線で前田大然が受け、ファーストタッチでDFを振り切ってクロス。GKに触れたものの、このクロスはGKに触られたもののフリーのオナイウ阿道に渡り、オナイウが落ち着いて決めた。そして2点目は右サイドバックの小池が持ち上がって入れたボールを柏の古賀がバックパス。GKのキム・スンギュのクリアが前田の膝あたりに当たり、こぼれたボールを前田自身がプッシュしたもの。
半分は相手のミス絡みではあったが、両サイドバックの積極性や前線の選手の前に出る姿勢、つまり横浜FMの積極性から生み出された得点だった。
柏は89分に意地の1点を返したものの、あれだけ良い入り方をして、しかも相手が1人少なくなるという絶好の勝機を逃してしまったのだ。「マルコス・ジュニオールの退場はむしろ柏にとって不運だった」とも言えるが、やはり調子の上がらないチームにありがちな“過度な慎重さ”が裏目に出た敗戦だったような気がする。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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