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5月22日、東京オリンピックのサッカー競技で金メダル獲得を目指すU-24日本代表のメンバーが発表された。その顔ぶれを見ての第一印象は「手堅い選考」だった。「サプライズ」は、なかった。
オーバーエイジの3人(吉田麻也、酒井宏樹、遠藤航)を除くと「オリンピック世代」からは15人が選ばれたのだが、その15人の“骨格”はかなり前から固まっていたもののようにみえる。
森保一監督が東京オリンピックを目指すチーム(当時のU-20日本代表)の監督に就任したのは2017年の秋だった。
当時は森保監督がその後A代表監督と兼任になることは決まっていなかったし、当時のA代表監督はまだヴァイッド・ハリルホジッチであり、森保監督が目指すサッカーとA代表が目指すサッカーの間にはかなり大きな隔たりもあった。
わずか3年半ほど前のことだが、遠い過去のことのようにも思える。
そして、森保監督が最初に挑んだ大会が2017年12月にタイで開かれた「M-150カップ」だった。この大会に招集された23人の選手のうち、東京大会のメンバーに生き残った選手は5人。GKの大迫敬介と谷晃生(つまり、本大会のGKの2人は森保体制最初の大会から選ばれていた)。それに、MFの三笘薫とFWの旗手怜央と上田綺世である(旗手は東京大会ではDF登録)。
「5人」というとかなり少ないようにも思えるが、15人中の「5人」というのはかなり高い数値だ。
そして、翌2018年1月に開かれたAFC U-23選手権(中国)では、MFとして板倉滉と三好康児の2人が加わり、その後2018年にはアジア大会があり、この大会にも板倉、三好は選ばれ、FWの前田大然も加わった。さらに、11月に行われたドバイカップでは橋岡大樹と17歳の久保建英も招集されている。つまり、東京オリンピックに出場する15人のうちじつに8人が森保監督就任から1年のうちに顔をそろえているのだ。
さらに、2018年のロシア・ワールドカップ終了後に森保監督がA代表の監督を兼任することも決まったのだが、森保監督は東京オリンピック世代の堂安律と冨安健洋の2人をアジアカップを目指すA代表に招集した。
その後も、多くの選手が招集されてテストされた。
とくに、2019年にはコパ・アメリカをはじめとして選手を自由に招集できない大会がいくつもあったため、東京オリンピック世代の選手がA代表に招集されたり、それに伴ってさらに多くの選手がオリンピック・チームに呼ばれたりしたことで、A代表とオリンピック・チーム共通の「ラージグループ」が形成されていった。
いずれにしても、オリンピック・チームの“骨格”はすでに2018年の間に形作られていた。とくに前線の選手は早い段階から森保監督のチームでプレーしていたのである。
一方、守備的なポジションでは冨安や中山、板倉のほかに多くの選手が試されてきたが、結局、東京オリンピックにはオーバーエイジの3人が招集されることになった。
オーバーエイジの3人も加えたU-24代表は、2021年6月にはA代表との「兄弟対決」も含めて3試合を戦った。しかし、これはいわば最終テスト、「追試」的な意味合いだったのであり、ここで大抜擢となった選手はいなかった。
一方で、6月シリーズではパフォーマンスを落としていたにも関わらず、それまでの実績に基づいてオリンピックのメンバーに入った選手もいる。たとえば、橋岡は6月シリーズでは期待されたような活躍はできなかったが、彼のこれまでの実績とその潜在能力が評価されてメンバー入りを果たした。
その他、森保体制発足直後からチームの中核を担っていた板倉や中山雄太も、そのポリバレント性も含めて評価が揺るがず、無事にメンバー入りした。
最終メンバーのうち、最も遅い時期にアピールに成功したのは昨年から王者川崎フロンターレのレギュラーとなり、さらに今シーズンはその類稀なるパス能力を見せつけて川崎独走の立役者となった田中碧だ。田中は、U-24代表でも3月のアルゼンチン戦で実力を見せつけて今ではオリンピック・チームでも中心選手の1人となった。
こうして、2017年秋以来森保監督が手塩にかけて作り上げてきたメンバー構成に田中とオーバーエイジを加えたのが、今回発表された東京オリンピック出場メンバーということができる。
GKも、Jリーグで多くの若手GKがレギュラーとして活躍しているが、結局、森保体制の最初に招集された大迫と谷が、その実績と安定感を買われて選考された。同時にバックアップメンバーとして、全22人中で最年少となる18歳の鈴木彩艶が選ばれた。数多くの若手GKの中でも、将来が嘱望される選手である。
U-24代表のメンバー発表に先だって6月18日に発表された女子代表(なでしこジャパン)も大きなサプライズはなかった。
女子の場合は、男子と違って年齢制限のあるチームでなく、オリンピックにもA代表が出場する。そして、女子の高倉麻子監督は森保監督よりも1年半も前の2016年4月に代表監督に就任しており、2019年にはフランスで開かれた女子ワールドカップに出場。そして、東京オリンピックを経て2023年のワールドカップ(オーストラリア・ニュージーランド共同開催)を目指すチームなのだ。
男子のU-24代表に比べて「継続性」がより高いのは当然のことだろう。
日テレ・東京ヴェルディベレーザから5人、三菱重工浦和レッズレディースとINAC神戸レオネッサから4人ずつ、そして海外組が5人と日本女子サッカー界の“3強”から均等に選ばれたメンバー構成だったが、海外組のうち岩渕真奈や長谷川唯はベレーザ出身の選手だし、神戸所属の田中美南も一昨年までベレーザの選手だったから、今回もやはりベレーザ主体の構成と言える。
テクニックを前面に押し出して戦うのが、ベレーザのサッカーであり、それが日本の女子サッカーのスタイルにもなっている。
ただ、6月のウクライナ戦、メキシコ戦で輝きを見せた浦和の塩越柚歩などスケール感のある選手も選出され、ベレーザ一色から一味違ったサッカースタイルも取り入れようとしているのが現在の女子代表ということになる。
男子代表に比べれば完成度が高い女子代表。ちょうど、日本の女子サッカー界初のプロリーグ「WEリーグ」のスタートが秋になったため(同リーグは秋春制)女子の方は現在トップリーグは進行していない。それを利用して、女子代表は6月21日にはすでに合宿入り。1か月かけてコンビネーションをさらに高めて本大会に臨むことになる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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