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11月3日の文化の日。前夜の雨も午前のうちに上がって天気も回復。ちょうどJ1リーグの試合が同じ横浜で2試合着くけてあり、キックオフ時間も13時と16時だったので大急ぎで移動しながら両方の試合を観戦することができた。
どちらの試合もホームチーム(横浜F・マリノスと横浜FC)が早々に2点を先行したものの、前半のうちにアウェーチーム(鹿島アントラーズと大分トリニータ)が1点を返して2対1のスコアでハーフタイムを迎え、後半、アウェーチームが2点を奪って逆転勝ち……。
もちろん偶然のことながら、まったく同じ得点経過となったのがおかしかった。
もっとも、似ていたのは得点経過だけで、内容はまったく違うゲームだった。
横浜FC対大分トリニータの試合は、どこか両チームとも「腰が引けた」戦いだった。
前半立ち上がりの大分は「スリーバック」というより「ファイブバック」で、数字でいえばシステムは5−4−1。横浜FCがボールを持つと、大分の選手達はハーフライン手前まで引いてしまう。おかげで、横浜FCとしては後方から余裕をもってビルドアップできる楽な展開となり、29分にFKからのボールにDFの田代真一が合わせて先制すると、3分後にも右クロスを齋藤功佑がヘディングで叩き込んで2対0とした。
ところが、横浜FCは2点をリードしたことで「攻めるのか守るのか」が中途半端となってしまい、逆に大分の方はようやく目を覚ましたようで両サイドが高く張って反撃に転じ、CKから1点を返してハーフタイムを迎える。
後半、大分は3−4−3にシステムを変更して、相手陣内深いところからプレッシャーをかけて押し込んだ。それでもなかなかゴールにはつながらなかったものの、88分に混戦の中から知念慶が押し込むと、90+3分にはCKくずれからにクロスに田中達也が合わせて逆転勝利を手繰り寄せた。
前半は大分が引きすぎて相手に余裕を与え、後半は押し込まれた横浜FCが怯えたようにまったく押し返すことができなくなってしまう。互いに“独り相撲”を取っていたような不思議な展開の試合だった。
一方、13時開始だった横浜F・マリノス対鹿島アントラーズの試合は互いに攻撃力を発揮し合った、激しい殴り合いのような試合だった。
前半は横浜FMの前への推進力が目立った。17分には左サイドで強引に素早くボールを前に進め、最後は左サイドバックの小池龍太のクロスに逆サイドから詰めた水沼宏太が合わせて先制。10分後には水沼の右からのアーリークロスを受けたエリキとジュニオール・サントスが短いパスを交換してエリキが2点目。
一方の鹿島はDFラインやボランチの永木亮太からのロングボールで反撃。39分にはハーフライン手前から土居聖真が送ったロングボールに走り込んだ上田綺世が合わせて強烈に叩き込んだ。後方からのボールをジャンプしながら足先でコントロールして、落ち際をハーフボレーで叩き込んだスーパーなゴールだった。
鹿島アントラーズというと、常に安定感のあるゲーム運びでいくつものタイトルを獲得してきたクラブだ。
だが、今の鹿島は一味違う。
守備面ではかつての鹿島のような安定感には欠ける。たとえば、横浜FMの2点目などは、水沼のクロスに合わせたエリキがコントロールに手間取っていたのだから、DFの間合いの詰め方が良ければ防げた得点だったろう。
従って、今の鹿島は“撃ち合い”を制して相手に攻め勝つ必要がある。そして、対戦相手の横浜F・マリノスも超攻撃的なサッカーで昨年のリーグ優勝をつかみ取ったチームだ。前半に3ゴールが生まれた試合が、後半さらに激しい攻め合いになっていったのは必然だった。
後半開始の時点で鹿島は遠藤康をピッチに送り込んだ。遠藤は、右サイドをオリジナルポジションとしながらも、トップ下に入り込み、曖昧なポジション取りをしながらトップ下でタメを作ることで、鹿島の攻撃は前半と比べて数段多彩になった。
こうして、後半は1点を追う鹿島が攻め、横浜FMがカウンターから突き放しにかかる展開が続くこととなった。
そして、78分に交代で入った三竿健斗のロングボールからのこぼれを拾ったエヴェラウドの強烈なミドルシュートで追いついた鹿島は、84分に右の伊藤翔からのクロスを中央で合わせた遠藤が見事なボレーキックでゴール右下隅に流し込み、この激しい試合を制した。
逆転勝利を飾った鹿島の、リードを許してからの落ち着いた試合運びは見事だったし、2点リードを守り切れなかった横浜FMもカウンターから何度も決定機を作っており、いかにも「横浜FMらしい」敗れ方だった。
ラフプレーとも思えるような激しいコンタクトが何度かあったことも含めて、Jリーグではこれだけ激しい殴り合いのような試合というのは久しぶりだった。
今シーズンのJリーグは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で超過密日程となっている。しかも、夏場にも連戦が続くことで選手たちは疲労もため込んでいる。もちろん、飲水タイムが設けられていたり、交代が5人まで認められるなどの措置は取られているが、かなり厳しい状況で各チームともに戦っているのだ。
“激しい撃ち合い”といった展開が見られなくなっているのは、このためなのだろう。その結果、刻むようにパスをつないでいく川崎フロンターレが今シーズンは独走している。
たとえば、この11月3日に見た2試合目の横浜FC対大分トリニータの試合がそうだ。消耗を避けるために、互いに慎重で引いた戦いを試み、それがうまくいかずにゲームの流れを相手チームに渡してしまって点の取り合いになったのだ。
そんな中で、“撃ち合い”の中で何本ものスーパーゴールが生まれた横浜FM対鹿島の試合は(守備のミスなどはあったとしても)、見るものを惹きつけるフットボールとしての魅力満載の試合だった。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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