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アントニオ・リュディガー
イギリスの『イヴニング・スタンダード』紙によると、チェルシーとトッテナムの上層部は良好な関係を築いているという。昨シーズンもオリヴィエ・ジルーがトッテナムにローン移籍する予定だったが、チェルシーが後釜を確保できなかったため、やむなく断念したそうだ。
そしていま、両クラブの間でアントニオ・リュディガーのローン移籍が検討されている。
悪くない話だ。トッテナムは即戦力のセンターバックを欲している。リュディガーはなぜかチェルシーでの優先順位が下がった。お互いの利害関係が合致した。この交渉はスムーズに進むかもしれない。
それにしても、チェルシーとトッテナムの上層部が良好な関係を維持していたとは、少しばかり意外ではある。
チェルシーの現場をあずかるマリアナ・グラノフスカヤCEOは、オーナーのロマン・アブラモヴィッチが全幅の信頼を置く腕利きのビジネスウーマンだ。トッテナムのダニエル・レヴィ会長は、業界随一の “タフネゴシエイター” として広く知られている。ともに、一筋縄でいける相手ではない。そのふたりが連携しているのだから、お互いが腹の底でなにかを企んでいたとしても、なかなか興味深い。
リュディガーのように、実力がありながらクラブ内で低い序列に甘んじている選手の受け口を、グラノフスカヤとレヴィが提供するのは喜ばしいことだ。
また、コロナ禍で補強がままならないクラブが多数を占める現状も踏まえると、世界中がローン移籍や交換トレードなどを積極的に図るべきだ。
世の中が落ち着くまで、まだまだ時間がかかる。スタジアムがサポーターの大歓声にふたたび包まれるのは、早くて来シーズンかもしれない。入場料収入の減少によってクラブの財政が大きなダメージを受け、補強費を出せなくなる。
そんな非日常だからこそ、支出を抑える工夫が必要だ。選手の意向を無視して交渉を先送りにし、「契約解除料はびた一文まかりならん」などという頑な姿勢も、時代には即していない。柔軟性を持って対処すべきである。
アーセナルで構想外になったメスト・エジルに、手を差し伸べるクラブは現れないだろうか。パリ・サンジェルマンを退団したエディンソン・カバーニも無所属のままくすぶっているわけにはいかず、インテル・ミラノで微妙な立場のクリスティアン・エリクセンにも、よりよい環境、条件が提示されてしかるべきだ。
夏の市場は10月5日に閉鎖する。サポーター、選手、クラブが満足し、経済的にも「なるほど、その手があったか」とだれもが膝を打つ人事が起こりうるだろうか。ベテランから若手まで、選手はフットボール界の “宝” である。彼らのステージを奪ってはいけない。
文:粕谷秀樹
粕谷 秀樹
ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。
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