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サッカー フットサル コラム 2020年7月17日

藤原清美のブラジルフチボウ通信

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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少し我々は慣れ過ぎてしまっているのかもしれない。あまりにも豪華な選手たちが、さも
当然かのように画面の中で彼女と話していることに。

初登場の時から、ラインナップの破壊力は凄まじかった。ACミランのカカー。レアル・マドリーのロベルト・カルロス。レアル・ベティスのデニウソン。カカーとハグをかわし、ロベルト・カルロスは満面の笑顔を見せる。デニウソンに至っては終始ふざけっぱなし。映像の中にはスーパースターたちの見たこともない表情が詰め込まれていた。

もともとは取材で関わったジーコに魅了され、単身でブラジルに渡ってしまったほどの情熱家。その人並み外れた行動力は、本来は開くはずのないような数々の厚い扉をこじ開けてきている。

2002年の日韓ワールドカップ時もセレソンに密着取材を敢行。横浜の夜にジュール・リメ杯を掲げ、世界一の栄誉を手に入れたチームが母国へと凱旋する飛行機の中に、藤原さんと相棒のカメラマン・ヴェントゥーラが同乗を許され、サンバで盛り上がる選手たちを撮影した映像は感動的ですらあった。

2005年4月にはブラジルの優秀なジャーナリストへ贈られる、“ボーラ・ジ・オウロ賞”の国際部門賞を受賞。その事実が示すように、ブラジル国内でも精力的な活動は大いに認められており、多くのサッカー関係者が親愛をこめて彼女へ「キヨミ!」と呼び掛けるシーンも、何度も目にしてきている。

今回は数ある“藤原清美コレクション”の中から、全部で5つの放送回をピックアップしている。1つは前述した記念すべき初登場回。1つはドイツワールドカップ直後に、キャプテンとして大会に臨んだカフーと、代表引退を発表したロベルト・カルロスを直撃した回。
1つはまだ有望な若手選手の1人だった、フルミネンセ時代のチアゴ・シウヴァにインタビューしている回。そして、マンチェスター・ユナイテッドでも活躍した双子ちゃん、ファビオとラファエウのダ・シウヴァ兄弟を2009年、2011年と2度に渡って自宅取材した放送回をご紹介する。

2006年に行われたロベルト・カルロスのインタビューは、ある意味で『Foot!』の視聴者だけに届けられた内容でもある。ドイツワールドカップの準々決勝でフランスに敗れた後、彼はメディアの偏向的な報道に嫌気がさし、代表引退を決意したということは明かされていたが、本人は沈黙を貫いていたという。

このインタビューでも、藤原さんは事前に「ワールドカップのことは質問しない」というコンセンサスを取材担当者と共有した上で、本人に話を聞いていた。だが、そこは生来のアグレッシブな性格の持ち主。固く閉ざされていた扉を軽やかにノックする。すると、溜まっていたものを吐き出すかのように、ロベルト・カルロスは言葉を紡ぎ続けた。

彼がドイツワールドカップについて語ったのは、ブラジルメディアを含めてもこの藤原さんの取材だけだったはず。王国の人々ですら知り得なかったロベルト・カルロスの心中を、彼に全幅の信頼を置かれた日本人ジャーナリストがつまびらかにしたことも含めて、歴史的なインタビューであったことは間違いない。

ファビオとラファエウの2度に渡る取材は、それこそ藤原さんの真骨頂。彼女は選手たちの自宅に招かれるのだ。そもそもスーパースターの“お宅訪問”なんて、どう逆立ちしても我々にできるものではない。ミックスゾーンでもない、インタビュールームでもない、自宅という環境がもたらす“空気感”が、彼らのリラックスした雰囲気に一役も、二役も買っていることも改めて言うまでもないだろう。

今回の放送には収められていないが、個人的に印象深いのは“フェリポン”ことルイス・フェリペ・スコラーリが、セレソンの監督を務めていた頃の会見の模様。それまでメディアの厳しい質問にさらされ、難しい表情を浮かべていた“フェリポン”が、藤原さんの質問を受けると一瞬で笑顔になり、「キヨミ!彼女は僕の女神なんだ!」と言い放ったのだ。

彼らは高額な報酬と引き換えに、信じられないようなプレッシャーと戦っている。ブラジルメディアのそれは過剰なほどであり、その環境に身を置いている限り、そこから解放されることはほとんどないはずだ。そんな状況の中で、いつも変わらずにこやかに、いつも変わらず可愛らしいポルトガル語で、彼らへ一生懸命質問する藤原さんは、まさに“女神”のような存在なのだろう。

普段の藤原さんも、基本的に画面の中で見たそのままの人だ。違う所があるとすれば、時々会話の中にネイティブである関西弁のイントネーションが混じるぐらい。ほとんどが初めて会った10年以上前から、まったく変わっていない。それ自体もちょっと驚異的だと思うが。

だが、20年に及ぶブラジル生活ゆえに、少し日本人とは違うメンタリティを感じる時もある。少し前にスタジオへやってきた時。最近の一番の楽しみは、土曜日の午前中からマンションのプールサイドでビールを飲むことだと、嬉しそうに語っていた。何だか凄くブラジルっぽくて、日本でしか暮らしたことのない僕は「いいなあ」と思ってしまったけど、よくよく考えれば日本人の発想ではないですよね。

暑い陽射しの降り注ぐ、リオ・デ・ジャネイロの午前10時。プールサイドでビールグラスを傾ける藤原さん。正直あんまり想像つかないなあ。

文 土屋雅史(J SPORTS)

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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