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ヨーロッパでは2020年の欧州選手権「EURO」の予選が始まったが、アジアの方はすでに大陸選手権であるアジアカップも終わってしまい、カタール・ワールドカップ予選の方式もまだ決まらない中途半端な状態にある。
そんな中、今年の夏から秋にかけて各カテゴリーの代表が世界に挑むための最終準備段階に入っている。男子ではU−20ワールドカップが5月にポーランド、U−17ワールドカップが10月にブラジルでそれぞれ開催される。そして、女子ワールドカップも6月にフランスで開かれる。
その、女子ワールドカップに挑む日本女子代表(なでしこジャパン)が、ヨーロッパに遠征。初戦ではフランスに1対3と完敗を喫した。
日本時間の明け方に行われたこの試合。僕は、ちょっと体調が悪かったこともあって生観戦は回避して、リプレーでチェックした。だから、結果は知っていたし、内容に関する記事も読んでいた。「完敗。何もできない試合だった」のだ。
たしかに「完敗」ではあった。フランスの右サイドのディアニに再三突破を許し、何度も強烈なクロスを上げられていた。攻撃面でも、フランスの激しいプレッシャーの前にパスをつなぐことができず、日本はボールを持つ時間があまりに少なかった。
しかし、よく見ていると、報じられているような、あるいは選手が語っているほどの「完敗」とは思えなかった。
開催国でもあるフランスは優勝候補の一つのはずだが、思っていたほど日本とのレベルの差はなかった。
たしかにフィジカル面やサイズでは圧倒的にフランスが優勢で、スピードのあるパスにスライドが間に合わないような状態もあったが、フランスはチームが完成段階にあるはずなのに雑なプレーが目立っていた。つまり、「フランスが素晴らしかった」というよりは、「日本が何もできなかった」という試合だったのだ。
日本には、不運もあった。開始3分のフランスの先制ゴールはGKの山下がゴールライン上で弾き出したように見えたが、レフェリーがゴールを認めたもの。ゴールラインテクノロジーなり、VARがあれば、取り消されたはずだ。2失点目もCKくずれから相手のクロスが熊谷に当たって相手に渡り、打たれたシュートは枠から外れていたが、中島に当たってコースが変わったというもの。
日本の選手のパフォーマンスが悪かったのは、フランスに到着してから中2日しか準備の時間がなかったことにもよるだろう。当然、移動の疲れや時差の影響がある。
日本のプレーに通用した部分はあった。MFの杉田のパフォーマンスは良かったし、FWの小林のドリブル突破も効果的だった。そして、日本の得点シーンは杉田妃和のパスを小林里歌子がスルーし、中島依美がシュート。フランスのGKがこれを弾いたところに小林が詰めて押し込んだという美しいゴールだった(GKが交代した直後で、フランスにとっては不運な失点だったが)。だから、ボールをつないで相手陣内まで運ぶ回数を増やすことさえできれば、得点の機会も増えるだろう。
ただ、それを阻んだのがフランスのフィジカルの強さとスピードだった。
だからこそ、日本は集団的に戦わなければならないのだ。それは、女子でも、男子でも、年代別でも変わらない。いや、日本のあらゆる競技に当てはまる日本スポーツ界共通の課題だろう。
だが、その集団的なプレーというところで、なでしこジャパンはまだ十分な成熟度にないのだ。
高倉麻子監督は、まだメンバーを固定せずに、若い選手を試し続けており、最終的なメンバーがどうなるかまったく見えてこないのだ。なにしろ、遠征に向けて招集された23人のうち11人が国際試合のキャップ数が1桁という新しい選手ばかりなのだ。
3月のアメリカ遠征の時は、第1GKの山下も第2GKの池田もチームの事情で参加できないような状態だった。このアメリカ遠征でも若手がつぎつぎとテストされた。フランス戦に出場していたFWの小林、MFの杉田もアメリカ遠征で国際舞台でも十分い通用することを証明したばかりの選手。DFの南萌華もこの遠征で素晴らしいプレーをした選手だ。
その南は、フランス戦では屈強なフランスのFWと互角にやりあっていたのだから大したものであり、新しい選手が発掘されたのは喜ばしい。常に新戦力が入ってきて競争が維持されるのは望ましいことだ。
しかし、ワールドカップの2か月前になって、まだ競争をしているというのはかなり異例。優勝を狙うチームは、アメリカもフランスもドイツも、もうとっくにチームが固まっており、その上で新しい選手を試している段階なのだ……。高倉麻子監督のやり方は、「異例」というしかない。
フランス戦を終えて、火曜日にドイツ戦を迎える。そして、ドイツ戦が終われば、強豪を相手にテストできるのは大会直前の(すなわちメンバー決定後の)親善試合しかないのだが、さてドイツ戦では最強メンバーを組むのか、それともフランス戦で出場しなかった選手をピッチに送り込むのか。
女子サッカーは、2011年のワールドカップ優勝で一躍注目を集めるようになった。その後、なでしこリーグのレベルは間違いなく上がってきている。上位と下位の差が明らかに小さくなってきているのだ。だが、リーグの観客動員数は2011年の直後に比べて落ちてきている。だからこそ、女子サッカーを日本に定着させるためにも再びワールドカップで活躍することが必要なのだ。
そのためには、たとえばリーグ戦を中断して代表を組みっぱなしにして強化するような手段を取ってもいいようにさえ思う。
それなのに、今のようなやり方で本番に間に合うのだろうか……? いずれにせよ、まずはコンディションも回復した状態で戦えるはずの次のドイツ戦でどんな先発メンバーが並ぶか、そしてどんなパフォーマンスを見せてもらえるのかに注目したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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