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サッカー フットサル コラム 2018年7月19日

ロシアW杯総括 強豪の相次ぐ敗退と守備優位のトーナメント

後藤健生コラム by 後藤 健生
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2018年ロシア・ワールドカップはフランスの優勝で幕を閉じた。 ヴァラヌとウンティティという強力CBコンビを擁し、さらにその前にカンテというボール奪取の技術では世界最高のMFを置くフランスは、セットプレーで先制したら、その1点を守り切るーー最後は守備の強いエンゾンジも投入して守り切るという「必勝パターン」を確立。ラウンド16のアルゼンチン戦こそ点の取り合いを演じたが、あとはそのパターン通りに決勝戦までを効率的に勝ち抜いた。

チーム内に不和を抱えることが多かったフランスだが、今大会のフランスはデシャン監督の下で高い規律を保って戦った。これほど結束力の強いフランスは、デシャン監督が選手として地元開催の大会で初優勝を遂げた1998年大会以来のことだろう。大会は、序盤戦からドイツがメキシコに敗れるなど波乱含みでスタートした。そのドイツが韓国にも敗れてグループリーグで姿を消すと、ラウンド16ではスペイン、アルゼンチンが消え、さらに準々決勝ではブラジルまで敗退。接戦と波乱が続く大会となった。優勝候補筆頭に挙げられていたドイツ、ブラジルの敗戦には共通点があったように感じた。

両国が優勝候補と言われたのは完成度が高かったからだ。ドイツの場合はレーヴ監督が就任して以来、すでに12年が経過。年代別代表から系統的な強化を続けていたし、バイエルン・ミュンヘン所属の選手も多く、クラブでのコンビネーションを生かすこともできる。これまでの実績も加味して優勝候補に挙げられるのは当然だった。

一方のブラジルは、南米予選の途中でチッチ監督が就任後、規律の取れたチームに変貌していた。あのブラジルのテクニシャンたちが、守備にも走り、フリーランニングも厭わない。そんなチームで、やはり完成度の高さを誇っていた。

だが、「完成度」の高さは「熟成」につながることもあるが、同時に「マンネリ感」を生じさせる危険もあるのだ。 ドイツも、ブラジルも、完成された戦い方に意識が集中しすぎたように見えた。これまで何度も成功を収めてきたやり方に固執。パターンをなぞるために、スピードや迫力を失ってしまう……。僕はそんなドイツやブラジルを見ていて、「自分たちのサッカー」に固執して惨敗した4年前の日本代表の姿を思い起こした。あれほどの歴戦の強者たちをしても、やはり一度そういうスパイラルに陥ると、そこから逃れられなくなってしまうのだ。

ブラジルのネイマール、アルゼンチンのメッシ、そしてポルトガルのクリスティアーノ・ロナウド。大会前にスター候補と目された3人は早々に大会から姿を消した。クリスティアーノ・ロナウドこそ、初戦のスペイン戦でのハットトリックという見せ場を作ったものの、メッシとネイマールはほとんど良い印象を残すことができなかった。

アイスランド戦でPKを失敗したメッシは、その後はムキになって自らドリブルを仕掛けては人数をかけた守備につぶされる。その繰り返しになってしまった。ネイマールも苦しい展開になればなるほど、自分で仕掛けることに固執。そして、ファウルを受けると「演技過剰」と思える動作でレフェリーの顔を見た。

この3人のスター候補は、いずれもトップでの点取り屋である。当然、相手は対策を立てて集中してマークしてくる。自分で仕掛け続けることは、どう考えても得策ではない。自らの動きでスペースを作って味方を生かすとか、ゲームから消える時間を作るなどの工夫が必要だった(マラドーナは、それがうまかった)。

同時に、チームとしても、その点取り屋を生かすための工夫が必要だった。 バルセロナでメッシがあれだけゴールを決められるのは、バルサの中盤が完璧なお膳立てをしているからだし、レアル・マドリードでクリスティアーノ・ロナウドが輝いていたのもチーム全体のコンセプトが明確だからだった。だが、アルゼンチン代表は、メッシのためにゲームを作るのを止め、メッシにすべてを託してしまった。ポルトガル代表も、クリスティアーノ・ロナウドを生かすためのプレーはできなかった。

こうしたスター候補たちにとっては、相手チームの守備戦術が高いレベルで整備されていたことも不運だった。フランスが、中央の守備の強さを利用して非常に効率的な戦い方で優勝を遂げたことに象徴されるように、相手の得点源を消す戦術を徹底するチームが多い大会だった。フランスのデシャン監督の場合は意図的に(確信犯的に)守備のチームを作ったのだろうが、たとえばイングランドのサウスゲート監督などは、意図としてはもう少し攻撃的なチームを作りたかったのだろう。だが、若い選手の多いイングランドはあまりにも攻撃がシンプル過ぎて、相手に読まれてしまった。その結果として、やはりしっかりと守ってセットプレーで点を取るというパターンでベスト4に入ることに成功した。

それぞれの意図は別として、守備の徹底が成功への近道であることは間違いなかった。 そんな中で、自分たちのテクニックを信じて、ボールを保持し、ボールを動かしてチャンスを作ろうというポジティブなアプローチで成功したのが、準優勝のクロアチアと3位に入ったベルギーだった。

効率的な勝ち方を徹底するフランスの試合は、セットプレーでフランスが得点してしまえば試合はそこで終了したも同然で、技術的に高く評価出来るとしても娯楽性には乏しかった。それに対して、決勝トーナメントに入ってからのベルギーの試合は日本戦にしても、ブラジル戦にしても、フランス戦にしても、さらに3位決定戦のイングランド戦にしても、素晴らしいエンターテインメントだった。ラウンド16から3試合連続で延長戦を戦って決勝まで勝ち進んだクロアチアのモドリッチ、ラキティッチの魂のこもったプレーも印象的だった。

大会MVPにはそのモドリッチが選ばれたが、中盤でしっかりと技術を生かしてゲームを作る、いわゆる古典的な「ゲームメーカー」は少なかった。モドリッチ以外には、ベルギーのアザール、デブライネくらいだったか……。それだけに、長短のパスで攻撃のタクトを振るった日本代表の柴崎岳も大会の中では目立った存在だった。

そう、日本もしっかりボールを保持した中で、パスをつないで相手を崩すポジティブなサッカーをするチームであり、ベルギーとの大激戦は大会全体を通じても、間違いなく好ゲームの一つとして記憶されることだろう。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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