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サッカー フットサル コラム 2018年6月18日

「番狂わせ」は準備の差によるものか そして、成熟した姿を見せたチチャリート

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ロシア・ワールドカップは、開幕直後から予想外の展開が続いている。 僕は、アルゼンチンがアイスランドと引き分けた試合とドイツがメキシコに敗れた試合を実際にスタジアムで観戦した。愚直に相手に体を寄せ、シュートコースにブロックに入る。それを、90分間やり遂げた先に「ジャイアントキリング」が待っている。弱者が強豪国相手に粘り強く戦う姿は本当に感動的だ(メキシコのゴールが決まった瞬間にメキシコ人サポーターが大量のビールの雨を降らせ、服もノートもびしょ濡れになってしまったのだが、「まあ、それも許そう」という気になる)。

ただし、「愚直に」という形容はあまりに陳腐のような気がするし、また誤解も与えかねない。もちろん、「愚直」なのは間違いではないのだが、彼らはただ気持ちだけで頑張っているだけではない。 アイスランドは、まさに「ジャイキリ」の達人たちなのだということがよく分かる。 90分絶え間なく相手ボールに対してプレッシャーをかけに行くのだが、ただ闇雲に当たりに行っているわけではない。プレッシャーをかけに行くコース取りがすべて計算されているのだ。たとえば、プレッシャーをかけに行くときに、わざとパスコースを開けておくのだ。プレッシャーを受けた相手は、当然のようにその開いているコースにつないでプレッシャーを回避しようとする。ところが、アイスランドは予めそちらを予想して、他の選手がパスカットを狙いに行く。

こうしたアイスランドの守備は、アルゼンチンのようにボールをつなごうとする相手には、とくに有効だったことだろう。 序盤戦で番狂わせが続発しているのは、一つには準備の差がある。 優勝を狙う強豪国は開幕戦に照準を合わせたりはしない。グループリーグの間はなるべく消耗せずに(できれば、3戦目は主力を温存して)決勝トーナメント以降にピークを持っていく。それが、彼らの思惑だ。

一方、チャレンジャーの側は開幕戦にコンディションを合わせてくる。メキシコのフアン・カルロス・オソリオ監督が「何か月も前から準備していた」と語ったように、開幕戦で対戦する強豪国を分析し、対策も立ててくる。だからこそ、開幕直後に番狂わせは起こりやすいのだろう。

メキシコも後半の最後はDFを一枚増やしてファイブバックでドイツの攻撃を跳ね返し続けたが、前半は厳しいプレッシャーでドイツのパス回しを分断した。その結果、ドイツはワンタッチでのパス回しができなくなり、ちぐはぐな攻撃に終始した。 たとえば、メキシコのトップ下のカルロス・ベガはドイツのセントラルMF(サミ・ケディラとトニ・クロース)にプレッシャーをかけ続け、DFからのクリアをMFのヘクトル・エルナンデスが献身的な動きで前線につなぎ、ハビエル・エルナンデス(チチャリート)もワンタッチで左右のウィンガー(ミゲル・ラユンとイルビング・ロサーノ)を走らせる。

それぞれのプレーヤーが、それぞれの役割を持ってプレッシャーをかけに行っているのは戦術的準備の賜物だったのだろうし、また、クリアした後のボールをしっかりとつないでカウンターを狙い続けることができたのはメキシコ選手の技術力の高さなのだろう。 メキシコはまさに多士済々だった。

後半に交代で出てきたアラファエル・マルケスなどは39歳。日本が準優勝した1999年のワールドユース選手権(現U20ワールドカップ)や2002年日韓ワールドカップに出ていた選手だ。そして、一方でドイツ戦の決勝点を決めたイルビング・ロサーノは22歳の若手と年齢構成も幅広い。ベテランがしっかり頑張って、若手はスピードを生かして走る。そんなチームだった。

そんな中で、つい先日30歳になったばかりのハビエル・エルナンデス(チチャリート)がベテランの味を出していたのも興味深かった。 チチャリートというと、僕の頭の中では若くてイキのいい選手のイメージであり、自分で点を取りに行きたがる選手のような気がしていたが、今ではトップに位置しながら後方からのパスをワンタッチでさばいて、攻撃の形を作ることでチームによく貢献していた。

選手が年齢を重ね、経験を積み重ねることによってプレースタイルを変化させていくのを見るのもサッカーの楽しみの一つであろう。そういう意味では、若いころから見てきたチチャリートのプレーはとても面白かった。

チチャリートが、メキシコのチーバスから名門マンチェスター・ユナイテッドに移籍したのは2010年。彼が22歳になる直前のことだった。マンチェスター・ユナイテッドで5シーズンを過ごしたチチャリートは、レアル・マドリードに移籍する。つまり、メキシコから出てきた若者は、いきなり世界屈指のビッグクラブの一員としてプレーすることになったのだ。

そういう強豪クラブでなら、相手を圧倒する展開の試合の中で、自分がどうやってゴールを奪うかを考えてプレーしていればよかったのだろう。超一流のチームメイトが、周囲のカバーをしっかりとやってくれるのだから……。 そのチチャリートは、レアルでのキャリアはわずか1シーズンで終え、その後ドイツのバイエル・レバークーゼンに渡り、そして昨シーズンからはプレミアリーグのウェストハム・ユナイテッドでプレーしている。

レバークーゼンも、ウェストハムも、それぞれのリーグで名門ではあるが、現状としては「中堅どころ」である。常にゲームを支配して戦えるわけでもないし、周囲にビッグネームが並んでいるわけではない。そんな環境に身を置いたチチャリートだからこそ、ドイツ戦で見せたように、自分のプレーよりも周囲を生かすためのプレーがうまくなっていたのだろう。

ドイツが敗れた直後の試合ではブラジルもスイスに追いつかれると突き放せずに引き分けてしまう。フランスこそ、VARに助けられて勝点3を確保したものの、強豪国が軒並み勝点を落として始まった大会。さて、今後の展開は……。そして、日本チームもできれば「ジャイアントキリング」を起こしてほしいし、最低限、愚直に戦って見る者に感動を与えてほしいものだ。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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