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サッカー フットサル コラム 2018年5月31日

不安だらけの完敗で突き付けられた課題 オーストリア合宿でどこまでコンディションを上げられるのか……

後藤健生コラム by 後藤 健生
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若手主体のガーナを相手にホームで0対2の完敗……。まさに、不安だらけの「壮行試合」だった。 雨が降りしきるピッチのスリッピーな状況もあって、立ち上がりから日本代表にはミスが多すぎた。たとえば、これまでこのチームに貢献する働きを見せてきた山口蛍。安定感のある選手だったはずだったが、この日の試合では簡単にボールを失って決定的なピンチを招いてしまう場面が何度もあった。しかし、普通ならこの程度の雨でそれほどミスをするはずもない。やはりコンディションが悪かったのであろう。

「良かった選手」、「良くなかった選手」の明暗がくっきりと分かれた印象である。 それに対して、前々日に来日したばかりの若手主体のガーナは素晴らしい動きを見せた。 西野朗監督の言葉によれば、映像を見て想像していたよりはるかにスピードがあったという。実際、雨を苦にもせずに、軽快な動きの中でポンポンとスピーディーにボールを回して、ガーナはシンプルに日本のゴールに迫ってきた。

一方の日本は、時間の経過とともにポゼッションで上回って相手陣内にボールを運ぶものの、フィニッシュの前の段階での精度が低く、決定機をなかなかつかめなかった。ハリルホジッチ監督が去って「縦に速く」という呪縛が解かれ、日本チームらしいパスワークは回復したものの、ゴール前での迫力(あるいは「決定力」)を欠くあたりもまた日本らしい試合となってしまった。

さて、その戦術面では西野監督はガーナ戦で予想通り3バックをテストした。「あくまでもオプションを増やすため」と強調する西野監督だが、リードを許す展開ながら75分まで3バックのまま戦った。

かつて、アルベルト・ザッケローニ監督は何度か日本代表で3バックを試みた。だが、戦術的に緻密なイタリア人指導者をしても、日本代表の3バックは難しかったようで、3バックは使われなくなってしまった。最近は、Jリーグでも3バックが増えているし、長谷部誠は所属するフランクフルトで3バックのセンターに入ってプレーする機会が多かったので、ザッケローニ時代よりはテストしやすいのかもしれないが、いずれにしても初めてトライしてすぐに機能するはずはない。

そして、ガーナの布陣は「4-3-3」だった。「4-3-3」に対して3バックで守るというのは、これはミスマッチである。相手のワントップ(22歳のエマニュエル・ボアテング)に対して、3人のDFが付いて人が余ってしまう形になるからだ。相手が2トップなら3バックで守り、ワントップなら2センターで守るというのが定石だろう。だが、この試合は「相手がどうこう」ではなく、「3バックのテスト」がテーマだったのだ。

問題の一つは、3人のDF(右から吉田麻也、長谷部、槙野智章)の誰が相手のトップを捕まえに行って、誰がカバーするかというコンビネーションが曖昧だったこと。そして、もう一つの問題はウィングバックに入った原口元気が守備の専門家ではなかったことだった。

原口は献身的な動きで守備に貢献できる選手だが、それはあくまでも前線での守備だ。ところが、ガーナは両翼の選手が広くワイドに張っており、原口は左ウィングのナナオポク・アンポマーと1対1で対峙することとなり、何度も突破を許すこととなった。試合開始からわずか15秒。最終ラインからのロングフィードを受けたアンポマーがあっさりと原口を振り切ってクロスを入れる場面があった。

ガーナはまるで「日本の左サイドが弱点だ」と知っていたかのようだったが、日本がこの布陣で戦うのはこれが初めてだったわけで、スカウティングでそれが分かっていたわけではない。だが、ファーストプレーで原口のサイドからクロスが入ったことで、彼らは日本の弱点を感じ取ったのだろう。原口にとっては気の毒な3バックとなった。

この試合の勝負ということを考えれば、早い時間帯に4バックに戻すべきだった(長谷部を中盤に上げれば、簡単に戦いなれた「4-2-3-1」に戻すことができた)。だが、「この試合は3バックのテスト」と割り切った西野監督は76分まで、3バックで戦った。

ちなみに、西野監督はプランとしては「長谷部を1列上げてのシステム変更」を考えていたはずだ。だが、一方で井手口陽介も実戦でテストしなければならなかった。本来なら大島に代えて井手口を入れるプランだったが、ガーナ戦で日本代表の中盤を支える働きをしていた大島僚太を退けることもできなかったため、長谷部に代えて井手口を投入してのシステム変更となった。

「勝負にこだわる」と公言しながら、大事な準備試合を「テスト」のために費やした西野監督。その戦いぶりを見て、僕はかつてやはりワールドカップ前の貴重な時期を、試合ごとにテーマを設定して「テスト」を繰り返した(そして、避難を浴びた)岡田武史監督の時代のことを思い出した(2010年ではなく、1998年の第一次岡田体制のことだ)。

しかし、当時の岡田監督と違って、西野監督には就任から本大会までたったの3試合しかない。だから、本当にハリルホジッチ監督を交代させるつもりがあったのなら、せめてもう2か月前にしてほしかったわけである。

ワールドカップ初戦のコロンビア戦まで約3週間。この間にどこまでコンディションを上げられるか。その1点に勝負はかかっている。もちろん、日本チームが万全のコンディションだったとしてもチーム作りは遅れており、劣勢は免れない。だが、コンディションを万全にして、相手より動ける状況を作る。それができなければ、一縷の望みすらなくなってしまうのだ。

8年前の南アフリカ大会の時も、日本代表は直前の親善試合で不甲斐ない試合を繰り返していたが、直前のスイス合宿が成功し、本大会では相手より明らかに良いコンディションで戦うことができ、それがラウンド16進出という結果につながった。 オーストリアでの合宿で、どこまでコンディションを上げられるか……。西野監督以下のスタッフにとっての最大のタスクだ。いや、現チームのスタッフだけの話ではない。これまでの5回のワールドカップでの経験。コンディショニングに成功した2010年大会。失敗した2014年大会。そうした経験を通じて得られたはずのノウハウがどこまで蓄積されているのか。それが問われるのだ。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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