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ラグビーの世界最高峰リーグの一つ「スーパーラグビー」に参戦している日本のサンウルブズ」が、今季国内最終戦でレッズ(オーストラリア)に63対28で勝利したのは先週の土曜日のことだった。今季9戦目での初勝利だった。これまでは、せっかく攻撃が機能して前半をリードしても守備が崩されて呆気なく逆転を許すような試合が多かったが、レッズ戦では攻守ともに最後まで崩れることがなかった。
サンウルブズは今週末には香港で南アフリカのストーマーズと対戦。初勝利の後の真価が問われる試合となる。多国籍軍団のサンウルブズはもちろん日本代表ではないが、日本代表選手の多くが参加し、また日本代表と同じジェイミー・ジョセフ・コーチが指揮を執っており、このハイレベルの舞台で戦った国際経験はそのまま日本代表にも持ち込まれることとなる。
その日本代表の方も、来年のワールドカップ日本開催を控えていることもあって、世界の強豪との対戦が目白押しで、6月にはイタリアとジョージア、さらに11月には世界最強のニュージーランド(オールブラックス)とイングランドが来日する。 サッカーの側から見ると、実に羨ましい強化環境と言わざるをえない。
サッカーは、ワールドカップ予選やアジアカップといったアジア大陸内でのAFC主催の公式戦の日程が優先され、ヨーロッパや南米の強豪との対戦機会は従前よりかなり減っている。ようやくワールドカップ予選を終えて、本大会に向けての準備段階に入った昨年秋以降もハイチやニュージーランド(サッカーの世界では「世界の強豪」とはいえない)、さらに今年3月にはマリとウクライナといったように、「格下」との対戦が多くなっており(そして、その「格下」に内容も結果も伴わない試合をしたことで、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任につながった)、「世界の強豪」との対戦は、昨年11月のブラジルとベルギーの2試合だけに終わったのだ。
そもそも、ラグビーのトップリーグでは強豪国の代表クラスの選手が何人もプレーしており、その意味でもサッカーとラグビーとの強化環境の違いは明らかだ。 日本の国内リーグでも世界の強豪国の代表クラスを獲得できるのは、プロ化して日が浅いラグビー界では強豪国での選手の給与水準がそれほど高くなく、日本のクラブでも獲得できる環境にあるからだ。かつて、サッカーの世界でも、ヨーロッパのクラブでの年俸が現在のように天文学的数字に達していなかった1990年代前半には、ブラジル代表のレギュラークラスの半分ほどが発足したばかりのJリーグでプレーしていたものだった、ちょうど現在の中国スーパーリーグのように……。
また、日本のトップリーグのクラブはいずれも東芝やサントリー、パナソニックといった企業チームであり、これもかつて実業団チームが主流だった1980年代以前のサッカー界に近い。経営環境的には、ラグビーはまだまだアマチュア的であり、その分日本にも十分な競争力があるということなのだろう。そして、もう一つ、日本のラグビーの強化環境を見ていて羨ましいと思うのは、世界の強豪国のいくつかが地理的に日本に近接した地域に存在していることだ。
つまり、南半球のオーストラリアやニュージーランドである。 世界のラグビーの伝統的な強豪国はイングランドをはじめとする英国四協会とヨーロッパ大陸のフランスであり、また南半球の旧英国植民地のオーストラリア、ニュージーランド、そして南アフリカということになる。
そして、南半球に位置しているオーストラリアやニュージーランドは「本国」である英国からちょうど地球の反対側に位置しており、本国との距離が問題となっていた。 オーストラリアの政治・外交史では、よく「距離の暴虐(Tyranny of Distance)」という言葉が使われる。ジェフリー・ブレイニーという歴史学者が書いた本のタイトルなのだが、要するに本国から非常に遠い南半球に位置していたことが、オーストラリアという国の政治や社会に大きな影響を与えたというテーマである。
その「距離」というファクターはスポーツ界にももちろん影響を与えた。「本場」である本国との交流が自由にできないからだ。オーストラリアには、アイルランドのゲーリック・フットボールから派生したオーストラリアン・フットボール(オージーボール)という、他国にはない独特のルールの競技が生まれ、発展したが、これもフットボールの本場から遠く隔たっていたからに違いない。
もちろん、それでもオーストラリアのスポーツ界は数か月をかけて本国までの長期遠征を繰り返した(航空機が発展する前には、ヨーロッパにたどり着くだけでも1か月以上の時間を要した)。と同時に、距離的により近い隣国のニュージーランドや南アフリカとの交流も重要だった。「スーパーラグビー」もオーストラリアとニュージーランド、南アフリカのクラブで構成されており、そこに最近になってアルゼンチン(ジャガーズ)と日本(サンウルブズ)が参戦したという経緯になる。
そして、オーストラリアやニュージーランドにとっては、日本も比較的距離が小さく、遠征先として魅力的だったのだ。 日本とオーストラリア、ニュージーランドの間にはもちろんかなりの距離があるが、本国の英国よりははるかに近く、とくに重要なのは時差がほとんどないことだ。
そんな事情もあって、まだ航空機での移動ができなかった第二次世界大戦前からラグビーの世界ではオーストラリアやニュージーランドの強豪チームが何度も日本に遠征してきているのだ(当時、サッカー界ではヨーロッパのチームの来日といえば、イングランドのイズリントン・コリンチャンズが世界一周の途中に立ち寄ったことがあるだけだった)。
日本のスポーツ界も本場ヨーロッパとの交流が難しいことが、強化のための大きな問題になってきた。つまり、「距離の暴虐」という概念は日本のスポーツ史にも適用できるのだろう。 ワールドカップ出場が当たり前となり、世界との距離が縮まった今だからこそ、サッカー界にはその「距離の暴虐」が強化のための大きな障害となって立ちふさがってくるのである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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