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サッカー フットサル コラム 2018年4月11日

監督交代はギャンブルだが必要な決断だった 日本式パス・サッカーの原点に戻ってどこまで戦えるか

後藤健生コラム by 後藤 健生
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日本サッカー協会が、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の解任を発表した。本大会開幕まで2か月あまりというこのタイミングでの監督交代劇については、当然のことだが、賛否両論が渦巻いているようだ。だが、僕は田嶋幸三会長の英断を支持したい。

もちろん、この時期の監督交代が大きなリスクを伴うものであることは間違いない。 何しろ、代表として活動できるのは5月下旬にチームを招集してからワールドカップ開幕までの3週間ほどしかないのだ。実戦も、国内での壮行試合となるガーナ戦を含めて3試合しか予定されていない。こんな短期間でできることは限られている。最悪の場合、新監督の構想がうまく浸透せずに、チームが瓦解してしまう可能性だってある。ある意味、大きなギャンブルである。

だが、ハリルホジッチ監督があのまま指揮を執り続けていたら、どうなっていたのだろうか? 3月のベルギー遠征の2試合は惨敗だった。結果ではない。問題はその内容だ。 多くの新戦力を試したマリ戦は無気力な試合運びでなんとか引き分けに持ち込むのが精一杯。そして、守備面でしっかり修正して臨んだはずのウクライナ戦も完敗に終わった。ウクライナ戦の前半、前からプレスをかけて中盤でボールを奪うことまではできていた。だが、奪ったボールをつなぐことができずに、パスミスを多発してしまったのだ。

何もできなかったマリ戦よりも、さらにショックは大きかった。 ピッチ上で何が起こっていたのか。それは、攻守ともに集団的プレーの欠如だった。 相手を追い込んで、囲い込んでボールを奪うという守備の戦術がないから、個々の選手が頑張ってボールを奪い返しても、ボールを奪った瞬間には選手間の距離が離れすぎていてボールを味方につなげない。ボールを握っても、前線までボールを運んでいく約束事(オートマティズム)がないから時間がかかって途中で奪い返されるか、無暗に縦に蹴り込んで相手にボールを渡してしまうかしかなく、再び守備に追い回される。その繰り返しだった。

ハリルホジッチ監督は3年間指導してきたものの、デュエルの強さを身に付けさせることもできなかったし、縦に速い攻めの形も構築できなかった。そういった縦へのボールを使ったショートカウンターのために必要不可欠なはずの守備の戦術も完成しなかった。 「個の力」で劣る日本選手が世界のトップと戦うために、日本のサッカー界はこれまで数十年かけてパス・サッカーを進化させてきた。選手と選手の距離を短くして素早くパスを回す。守備面でも数的優位を作ってボールを奪う。攻守ともに1対1は避けて戦おうというのだ。 もちろん、どんなスタイルの試合をするにしても、「デュエル」での個の強さは必要だ。しかし、遠い将来のことは分からないが、現状では日本の選手は個の戦いをできるだけ避けて、集団的に戦うしかない。だが、ハリルホジッチ監督はそうした日本のサッカーの伝統的な戦い方を否定し、そして、新しいものも完成させられなかった。

したがって、あのまま「ハリル流」を続けていても、ロシアの地で勝点を獲得することは不可能だったろう。それなら、ギャンブルしてもいいはずだ。 そして、日本サッカー協会の田嶋会長はギャンブルを選択したのだ。この選択によって、ロシアで惨敗すれば田嶋会長が直接的な責任を問われるわけだから、彼にとっては勇敢さが必要だったはずだ。だから、僕は彼の勇気ある決断を称えたい。 ただし、そういう決断を下す気があるのだったら、この決断を1、2か月早くしてもらいたかった。

聞くところによれば、昨年12月の東アジア選手権「E-1選手権」で韓国に惨敗した後で解任論が浮上していたのだという。その時点で、あるいは1月か2月に監督交代に踏み切っていれば、3月のベルギー遠征を新監督の下で戦えたわけだ。 さて、ハリルホジッチ監督の後任には技術委員長だった西野朗氏が就任した。時間がないだけに「内部昇格」は仕方のない選択だった(その意味でも、もう少し早い段階で決断していれば、後任ももっと幅広い選択肢が残されたはずだ)。

いずれにしても、準備期間がほとんどないとすれば、新監督に「できること」は限られる。 ハリルホジッチ監督の下で失っていた、パスをつなぐ「日本式サッカー」のスタイルを取り戻すこと。その上で、押し込まれる場面ではつなぐことにこだわらずに、割り切ってリトリートして守ったり、ロングボールを使ったりすること。前からボールを奪う場面と引いて守る場合の最低限の守備の組織を構築すること。それが、新監督の仕事だろう。

また、監督とのコミュニケーションが解任の理由になったことを考えれば、西野監督はヨーロッパ各国を回って代表候補選手たちを視察すると同時に、選手たちと面談してコミュニケーションをとるべきだろう。幸い、西野監督はそういった選手とのコミュニケーション能力には長けているし、通訳なしのサシで選手たちと話せる強みを生かしてほしい。

日本式のパス・サッカーを使って、日本人指揮官の下で戦うワールドカップ。つまり、ロシア大会は、「日本のサッカーの実力が試される大会」となる。そこで何が通用するのか、何が通用しないのかを見極めることもできよう。

あのまま、ハリルホジッチ監督のままで惨敗を喫していたら、そういったことも見えてこなかった。「すべて、ハリルホジッチが悪かった」で済まされてしまうところだった。そういう意味でも、監督交代は将来につながる決断だったのではないか。

幸い、日本が本大会で対戦する相手はブラジルやドイツ、スペインといった優勝候補の強豪ではない。日本のサッカーの「素のままの」プレーがある程度通用する時間帯は必ずあるはずだ。パス・サッカーで相手を崩す場面を数多く見たい。そして、同時に相手に押し込まれる時間帯にどのように凌ぐのか……。 西野監督には、そのあたりをしっかり整理して戦えるチームを用意してほしい。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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