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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2024年06月19日

【輪生相談】最近、まわりでロードバイクを始めたいという人がいなくなりました。ロードバイクの将来についてどう思われますか?

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こんにちは。ロードバイクを趣味とすることの近い将来について栗村さんのご意見を伺いたく質問させていただきます。最近、私のまわりでロードバイクを始めたいという人が全くいなくなりました。少し前は弱虫ペダルブームで、またコロナ禍では他の娯楽が制限され密にもならないことでロードバイクを始めた、あるいは始めたいという人がけっこういました。しかし、弱虫ペダルブームが去り、コロナが5類になりあらゆる娯楽が復活し、更に様々な要因によりロードバイク及びパーツ類の価格が高騰したことで、一気にロードバイクを趣味にしようとする人が減ったと感じます。特に値上げは深刻で、ディスクブレーキ、フル内装、チューブレス、電動シフト、12速など、テクノロジーの進化に伴い大幅に価格もアップしてしまいました。少し前まで10万円前後で買えていたアルミフレームのクラリスやソラ完成車が今では20万円近くします。初心者や若者が気軽に始められない趣味は、先細ってやがて一部のマニアとお金持ちだけの趣味になってしまうかもとさえ思います。栗村さんはこの業界の近い将来についてどう思われますか?

(男性 管理職)

■栗村さんからの回答

栗村さん

おっしゃる通りで、今はスポーツ自転車業界的には不景気というか、あまり勢いがない時期です。その要因は書かれた通りですが、とくに価格上昇は深刻ですね。ロードバイクの高性能化による価格上昇に原材料費の高騰や円安によるダメージも加わり、新規参入の壁がシャレにならないくらい高くなってしまいました。

20240305PNC0005-A.S.O._Billy_Ceusters.jpgロードバイクの高価格化で新規参入の壁は高くなった

ご新規さんだけではなく、リムブレーキのバイクからディスクブレーキのバイクに買い替えようとしてとん挫し、離れてしまった人も多くいると聞きます。がんばってチューンナップしてきた50万円のリムブレーキバイクと同等の電動変速&ディスクブレーキバイクを買おうとしたら、今だと100万円くらいしますからね。ハイエンドモデルに至っては200万円超えも珍しくないという、もはや「普通の人」には手が出ない趣味になってしまいました。

構造的な要因は避けられないとして、自転車業界が積極的に推進した製品の高価格化については、自分たちの首を絞めていないか、再検討が必要かもしれませんね。

ただ、数年スパンで見ると上記の通りですが、もっと長い目で見ると、今まで何度もブームと鎮静化を繰り返してきたのがスポーツ自転車の世界です。熱が冷めるのは今がはじめてではありません。

数十年スパンで見れば、エコであり、健康増進にも効果があるスポーツ自転車に対しては追い風が吹いているのは確実です。また、自転車活用推進法も施工され、道路環境も過去に比べて圧倒的に走りやすくなっています。スポーツ自転車の存在もよく知られるようになりましたしね。

質問者さんがご指摘するように、コロナ特需が一巡したことが現在の低調な状況の一因とも言えます。さらに、長年デフレ状態にあった日本がようやく先進国と同じインフレ型に戻ることで、世界の物価上昇に日本の賃金が徐々に追いつけば状況も変わるでしょう。ちなみにクルマの価格も特に輸入車を中心に著しく上昇していますね。

一方、ブームの沈静化には深刻な問題もあります。それは安全性です。お金さえあればインターネットや量販店で簡単に高性能ロードバイクが購入できるため、初心者でも受け取ってすぐに路上でスピードが出せてしまい、下りではあっという間に経験したことのないスピードまで加速します。しかし、乗り手が「止まる」「曲がる」といった基本的なテクニックを身につけていないため、転んでケガをしてモチベーションが下がったり、怖くなって乗らなくなった人もいるでしょう。重大な事故のニュースを聞くだけで、乗るのが嫌になるのも無理はありません。

あちこちで言っていますが、これはとても深刻です。10年以上前のデータになりますが、文部科学省の報告書によると、中学校・高等学校の部活動での死亡・重度障害事故の発生頻度は自転車が10万人あたり29.29件です。残念ですが、この数字は2位のボクシングに倍近い差をつけていて、突出してトップです(「学校における体育活動中の事故防止について」平成24年)。よく危険性が話題になる柔道も4位ですが、10万人あたりの件数は5件を下回っています。自転車競技はその6倍も事故リスクがあるわけですから、どれほど危ないかがわかります。悲しいことですが、この競技はきわめて危険なスポーツであると言わざるをえません。今年に入ってからも、海外プロレースでのトップ選手たちの落車とそれによる怪我のニュースが絶え間なく入ってきています。

だからこそ、自転車の素晴らしさや楽しさの裏に潜むリスクについて、業界全体で再考する必要があります。僕の知る限りでは、現在、ロードバイクに乗る上での積極的な安全装置は「ヘルメット」だけ。多くの自転車メーカーは乗員の命を守る製品よりも、快適に速く走るための製品開発を優先しています。商売である以上、目先の利益が重要になるのは理解できますが、同時に中・長期的な視点も持たないと、質問者さんがおっしゃる様に長い停滞期に突入する可能性もゼロではないと感じています。危機感を持ってできることに取り組んでいきたいと思います。

文:栗村 修・佐藤 喬

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