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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2022年05月18日

【輪生相談】栗村さんから見て最近の自転車事情はどのように映っていますか?

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栗村さんと同世代の男性です。
先日旅番組を観ていたところ、目的地に自動車で向かうシーンがあったのですが前方にロードバイクらしき自転車が一瞬映り(正確にはわかりません)その後、出演者の一人が信じられない一言を発しました。「邪魔だなチャリンコ」と同時にテロップで文字でも大きく表示されており、まさかの一言に言葉を失ってしまいました。自動車から見ると邪魔だという事は一般的でしょうし自分でも理解できますが、地上波テレビでこれを流す必要があったのかはなはだ疑問です。最近はサイクリングは一般に認知されてきているのかなと思っていましたが、やはりこの程度なのかと落胆しました。この一言でもう自転車やめようかなとモチベーションが下がってしまいこの先どうすればいいのか皆目検討もつきません。栗村さんから見て最近の自転車事情はどのように映っていますか?またこのような発言をなくすために我々一般サイクリストは何ができるのでしょうか?番組を観て以来悶々としています、アドバイス等よろしくお願いします。

(自営業 男性)

栗村さんからの回答

栗村さん

おっしゃる番組を観ていないので断言はできませんが、もし、質問者さんがおっしゃる通りの内容だったとしたら、とても残念ですし、憤りすら感じます。と同時に、今の日本での自転車の地位を象徴しているとも思います。要するに自転車は邪魔者なんですね。落ち込む気持ちはよくわかります。

ただし、その一方で、長期的に見ると、かなりのスピードで改善はされているとも思います。これは80年代からロードバイクに乗っていた僕の率直な感想です。スポーツ自転車への認知度は急激に上がっていますからね。

僕がロードバイクに乗り始めたころの日本の道路には、ダンプカー>トラック>大きい車>小さい車>自転車>歩行者のような、暗黙の力関係がありました。物理的に大きい(強い)=偉い、みたいな。自転車は当たり前のようにクラクションを鳴らされ、幅寄せすらされる存在だったんです。今以上に。

ツール・ド・フランスの舞台、フランスはスポーツ自転車の認知度が高い

ところが1989年に僕が行ったフランスでは、ちょっと極端に言うと、すべての存在が平等だったんです。もちろん乱暴な運転をする自動車がいなかったわけではないですが、その数は少数派でした。

ある時など、信号も横断歩道もない場所で道路を横断しようしていた歩行者がいたのですが、大きなトラックがわざわざ止まってその歩行者を渡らせていました。

フランスではこういった光景を何度も目にしました。日本的な感覚では「こんなところで道路を渡るな、あぶねえだろ、ひかれるぞ!」という感じになりますが、フランス人はこういった、交通弱者への配慮を日常的にやっているんですね。

衝撃でした。フランスは、日本とはまったく価値観が違うんだなと感じた記憶があります。どうしてこんな違いが生じるんだろう......とずっと考えてきたのですが、文化の違いとしか言いようがありません。

親や周囲の大人たちが車道の自転車を尊重して運転するのを見て育った子は、免許をとっても、自転車をきっと尊重するでしょう。その行いがカッコ良くて正しいことだと学ぶからです。でも、親が自転車にクラクションを鳴らし、罵声を浴びせている姿を見て育った子は、まあ、そうなりますよね。繰り返し書いていますが、社会の価値観を変えるしかないんです。時間はかかるでしょう。

自転車ではないですが、歩行者同士のやりとりにも、日仏の違いははっきり出ています。日本ではデパートなどのドアを開ける際に後ろを気にする人は少ないですが、フランスでは必ずと言っていいほど、後ろに人がいないかを確認し、いれば開けたまま待っていてくれました。そしてその場で「ありがとう」「どういたしまして」という自然なやりとりが交わされます。なんというか、こういった人間的な文化レベルの違いが、車道上でもそのまま出てしまっているのだと感じます。

しかし、絶望する必要はありません。社会の価値観は変化するからです。日本でも、日常生活の中での気遣いや、ドライバーの態度は、80年代と比較して大きく改善されてきています。

そして冒頭に書いたように、日本でのスポーツ自転車の地位が徐々に上がっているのは間違いありません。ここ数年だけでも車道に自転車向けの矢羽根マークを見ることが増えましたが、以前では考えられないことです。

僕らサイクリストにできることは、しっかりとルールを守り、周囲を尊重し、走るべき場所を堂々と走ることではないでしょうか。粛々といきましょう。そうすれば、徐々に社会は変わります。

文:栗村 修・佐藤 喬

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